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A.28 絡繰の魔女

 前略、帰路の途中絡繰の魔女に会いにきた。

 フランス人形と日本人形を足して100倍精巧にしたような子が出てきた。



「ぁー……えっと、今日は挨拶に伺っただけと言いますか」

「挨拶、ですか」

「近々魔女会議が開かれる予定なので、その前に一目顔だけでも見て心の準備をー……」

「貴方は人形が怖いのですね」

 きらり、と光るブルートパーズの瞳が俺の心を見透かすように、一点に顔を見据えていた。よく見ると片目はターコイズブルーのガラス玉のようで、右目だけが透き通った宝石のようだ。


「い、いや怖くは……」

「人形に恐怖心を抱く方がいる、ということは私も理解しておりますのでお気になさらず。では……ただ顔を見てさよならというのは寂しいものがありますし、ここは一つ魔女としての私のご紹介をさせていただければと」

「あ、あぁ……そう、だな、頼む」

 物腰柔らかで丁寧な言葉遣い。昨今のAI音声よりも滑らかで、本当に人が喋っているかのような錯覚に陥る。


「名は無く、ゆえにドールと名乗っております。魔女として司るモノは絡繰、何かしらの機構を持つ人工物、といえばよろしいでしょうか」

「今まではなんというか、自然的というか概念的な能力の魔女が多かったけど、ここにきて剣の魔女と絡繰の魔女、どっちも人工物を司る魔女だよな?」

「はい。全体的な傾向として近年の魔女は人に由来する力を司っています。“武器”を司る剣の魔女、“文化、知識”を司る本の魔女、“感情、意識”を司る恋の魔女、そして私、絡繰の魔女」

 思いがけない所で他の魔女の情報が手に入った。確か9番目が剣の魔女で最新の12番目が絡繰の魔女だったはず、つまりこれは9〜12番目の魔女達の情報だ。


「えっと、世界・時空・命・死・炎・風・闇……あと1人知らない魔女がいるな」

「土の魔女でしょうか。第五の魔女です」

「ふむ、予期せぬ所で全員の肩書きを知ってしまった……」

「お役に立てたのであれば、ドールは大変嬉しく思います」

「あぁ、ありがとう。そうだ、次に生まれる13番目の魔女について何か知らないか?」

「13番目、ですか」

 絵本に描かれていた13番目の魔女について尋ねると、ドールは少し言葉に詰まった様子で、視線を泳がせる。


「申し訳ありません。私には預かり知らぬ所、それは予言に出てくる最期の魔女の事でしょうか」

「あぁ、多分」

「でしたら予言の内容以上のことは————」

 そういえば、剣の魔女も言っていたが予言の内容については知らないんだ。この機会だしどんな予言なのか聞いてみよう。


「実は予言の絵本を読んでみたのは良いがいまいち内容が理解できなくてな……」

「なるほど、お話ししても構いませんが……せっかくお越しいただいたのですから、どうぞお土産に何か購入していただけると嬉しいのですが」

「……そ、そう、だな……ぁー……そうだ、俺は男だし、ユーラフェンが買ってみたらいいんじゃないか?」

 実際、俺が何かを買ったとしても向こうの世界には持って帰れないだろうし、だからといってネメアの物として買うのも何か違う気がする。


「ふ、む……メグルが話を聞くために必要なことであれば構いませんが……」

「あ、もしかしてユーラフェンも人形が苦手だったり————」

「そんなことはありません」

「あ、そう……」

 食い気味に否定された。


「物心ついた時から我が師と共に居て、生活用品や食材以外に……その、不要な物を買うという経験が無く……」

「そう、なのか……物心ついた時からって、ネメアもいくら弟子とは言えもうちょっと子供として扱ってやれば良いのに……」

 しっかりしているが、ユーラフェンはまだ少女と言える歳だろう。魔女連中は誰も彼も見た目と実年齢が当てはまらないが、ユーラフェンはあくまでも魔女の弟子でしかない。

 そんな年頃の少女が、少女らしい趣味も私物もないと言うのでは寂しいと思う。


「と、まぁでも今まで何も買ったことがないとなると、何を買って良いかもわからないか」

「はい」

「そうだな……んー」

「それでしたらオーダーメイドの人形はどうでしょう。絡繰の魔女として、人の想いを元に人形を創り出すことができます。お客様が本心から望んでいる人形を創ることができますよ」

「ほぉ……それはちょっと気になるな……」

 人形は怖……くはないが、何も人形全てが苦手というわけじゃない。

 アニメキャラクターのフィギュアや、ロボットのプラモデルだって立派な人形だ。

 想いを人形にできると言うのであれば、そういったものも創ってもらえるのだろうか?


「では、それでお願いします。料金は……」

「規模にもよります。その人が本当に無欲であったり、シンプルなものであれば魔力の消費も少なくなります。逆に、その人の想いが大きすぎたり強すぎたりすると、相応に巨大なものや精巧なものになるので、魔力の消費が多くなります」

「だからできた代物に応じて料金を決める、と?」

「はい、お支払いできないと言う場合はそのまま魔力に返還できるので、法外な請求はいたしません」

「それならまぁ、いいんじゃないか?」

「そうですね、では、お願いします」

 俺がやってもらった時に何が出るのか、気にはなるが、ユーラフェンが何を想っているのかも気になる。


「それでは、手のひらを出してください。水を汲むように」

「こうですか?」

「はい、そのように……それでは、生成————」

 両手を出したユーラフェンの上に、ドールが手を重ねる。袖から覗く球体関節、指一本一本も人形のそれだが、素人目から見ても美しく整った、まさに芸術品と言って差し支えない出来であった。

 向こうの世界で限りなく人に近づけたアンドロイドというものを見たことがある。

 美女を形取ったもの……ではあったが、いわゆる不気味の谷現象を実感してしまうような出来だった。

 話題になったAI生成の絵もそうだが、完璧すぎるのだ。どれだけ綺麗であったとしても、完璧に整った造形というものは生身の人間である以上あり得ない。

 その点において、ドール……彼女は明らかに人形であると言う特徴を随所に残していながら、まるで生きた少女のような錯覚を覚える。……この人形を造った母親というのは、本当に優れた造形師だったのだろう。


「……できました」

「どれどれ、見せてくれ————これは」

 1分程度沈黙が続き、ドールがそっと手を離す。器になっていたユーラフェンの手のひらの上には、二つの人形がちょこんと鎮座していた。


「ネメアとユーラフェンか?」

「そのよう、ですね……」

 ドールが生成した人形はデフォルメされた3頭身のネメアとユーラフェンであった。

 俺の世界だとこういうのは樹脂製だろうが……この世界だと木と布で創られるらしい、知識や想像力次第で変わったりするのだろうか?


「キーホルダーにできそうなサイズ感だな」

「キーホルダー……鍵につけるのですか?」

「あー、いや、まぁそんな感じで、俺のいたところではこういうちっちゃいぬいぐるみとか人形を鞄につけたりしてたんだよ」

「鞄に……」

 軽くヒモか何かを取り付けて、鞄にぶら下げるのにちょうど良いサイズ感だとふと思った。


「そのようにすることもできますが、いかがなさいましょう?」

「では……お願いします」

「かしこまりました。ではそれら合わせて、価格は————」

 そんなこんなで商品の購入手続きが進んでいく。ドールが手を加えると2人の後ろ首あたりに紐が取り付けられる。

 価格はお手頃価格、本当に土産品のキーホルダーくらいの価格じゃなかろうか。


「メグル、こちらをどうぞ」

「これ……いいのか?」

「はい。メグルが持っていてください」

 会計を終えて、ユーラフェンが人形の片方を手渡してきた。ユーラフェンを模った人形だ。

 まぁ、これなら俺が持ってても、いずれネメアに身体を返した時にそのままつけていてもらえるだろう。

 お互いの可愛い人形をつけていれば、あのネメアでも少しは弟子に優しくなるかもしれない。


「さて————約束、というか条件? は満たしたし、予言について教えてくれるか?」

「はい、もちろんお話しさせていただきます。魔女の預言を————」


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