A.27 絡繰の町へ寄り道!
前略、熾天使を倒してブレンダの屋敷で休む事になった。
折れた剣に触れた途端、また幻覚を目にした。
「っ! はぁ……また、なんだ……?」
栞に触れた時と同じ感覚が残った目覚め。折れた剣の柄に手を置き、ぼーっとしていたのだろう。
なんだ、あれは……あの視点は、同じ人物の視点だろうか。
どことなくネメアの夢と同じ感覚がしたような気がするが、あっちよりも自意識が薄れているというか……あっちが夢の中だと理解した上で過去の様子を眺めているのに対し、これは終わった後に夢だと自覚するような感覚だ。
「なんでこんなものがここに……あの栞と関係があるのか? ……わからん。キリエ、夢の中で俺はそう呼ばれていた。キリエ……日本語の切絵とか桐枝ってわけじゃないだろうし……どっかで聞いたことあるような、なんだったかな」
うんうんと悩みながら考え事をする。夢の中の光景はどこか古い景色のようで、この世界に近しい感覚がする。
それでいて向こうの世界にいる時のような感覚……なんなのだろう。
「まぁ、考えてもわからないし、もう戻って寝よう」
部屋を後にして、廊下に出る。
「————さて、どの部屋だったかな」
……日が昇るまでに部屋を見つけられるかな。
ーーーーーーーーーーー
「おはようございます、メグル」
「ふわ……んー……おはよう、ユーラフェン」
朝になった。何とか日が昇るよりも先にベッドに潜りこめたのは幸いだが、変な夢を見てから寝たからだろうか、あまり寝つきは良くなかった。
「あらかた支度は終えています。いつでも発てますよ」
「ん、じゃあ……お風呂借りてー……ご飯食べたら出ようか」
目的も達したし、あとは帰るだけだ。
軽い気持ちで旅に出て、色々な収穫があった。
天使、魔女、そして謎の夢。わかったこともあれば謎が深まった部分もある。
この全てが魔女会議で判明するのだろうか? それとも新たな謎が増えるのだろうか————
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「ありがとうございました、お世話になりました」
「我が主人への助力感謝いたします。旅のご無事をお祈りしています」
「剣の魔女へよろしく言っておいてください。それでは」
滞在中世話をしてくれた使用人達へ礼を言う。短い間だったが食事や物資の手配など世話になった。
「帰りのルートはいかがいたしましょう。来た時と同じルートの他に、もう一つルートが存在しますが」
「ん、何か違いでもあるのか?」
「南方にはあと1人魔女がいらっしゃいますので、そちらに会いに行く、というルートです」
「なるほど……」
今まで会ってきた、というか存在を認識しているのは世界、時空、命、死、炎、風、闇、そして剣。
世界と命の魔女は直接会ったことはないが、世界の魔女に関しては夢で会ったし、命の魔女は死の魔女の姉だろう。
ということは後は4人、本に描かれていた謎の魔女を含めるなら5人だろうか。
そのいずれか、ということになる。
「そのルートに居る魔女は絡繰の魔女、最新の魔女であり唯一の非生物の魔女と言われています」
「非生物————えっ、人形とか……?」
「はい、その通りです。絡繰の魔女は名を持たぬ人形で、自我を宿した人形です」
「ま、まじか……そうか、動く人形……」
人形。何を隠そう俺は昔から人形というものが苦手である。
別に怖くは無いよ? ただほら、不気味じゃん? なんかじっとこっち見てきたり、動いたりしそうじゃん?
いや動く人形なんだから動くわ。確定してるわ。いや別に怖く無いけど。
「や、別に今会う必要はー……」
「そうですね。魔女会議の際に会うことができるでしょう」
「う……」
そうだ、魔女なんだから魔女会議の時に会うじゃ無いか。
……じゃ、じゃあ事前に目にしておいた方が、魔女会議の時に驚かないで済む……いや別に怖くは無いけどね?
ともかく、心構えができるのでは無いだろうか、うん、挨拶回りは大事だしね。
「い、いややっぱり会いに行こうかな……うん、挨拶くらいはね?」
「声が震えていますが」
「怖く無いけど!?」
「そんなこと言ってませんが」
「……そうだな、うん……」
とりあえず行くことにした。なるようになれ、熾天使より怖いものなんてそう無いだろう。いや……怖く無いけどね??
ーーーーーーーーーーー
剣の魔女の領地を発って3日。行きとは違うルートで旅をして、目的の町に到着した。
「お、おぉ……これはまた凄い町だな」
たどり着いた町。それは絡繰仕掛けの一つの巨大な装置と言える、ギアの回る音が低く響く町であった。
「今までの街はなんというか、ヨーロッパって感じだったが……なんというか、ファンタジーというかSFというか……スチームパンク……でもないな」
蒸気機関じゃ無いのだからスチームパンクとは言えない。
ギアタウンとでも言うべきだろうか?
「さて、か、絡繰の魔女はどこだろう……」
「人形堂というお店を経営しているそうですよ」
「にっ……!?」
「人形や絡繰を販売、修理しているのだとか。彼女自身が最高品質の人形であると同時に、優れたドールメーカーという話です
」
「そ、そうか……人形屋……」
ユーラフェンの説明を受けて浮かぶのは扉を開ければ一面にズラッと並ぶフランス人形や日本人形という光景。
想像するだけで身の毛もよだ————いや、その、怖くは無いけど……。
行くと決めたのだから、行かないと……!
「よ、よし、行くぞ————」
「足、震えてますよ」
「こ、これは武者震いってやつだよ!」
「なんですか、それ」
武者震いが伝わらない。武者が居ないから、とかそんなところだろうか。
そういえば何気なく会話しているが、ユーラフェン達からすればこっちの言葉が向こうの言語で伝わってるわけだが、当然翻訳されてるわけだ。つまり俺が伝えたい言葉に対応した言葉があるということになる……武者震いってどう翻訳されてるんだろ。
「何を考え込んでるんですか。怖気づきましたか」
「誰が怯えてるって!?」
「行きますよ」
「あ、ちょっと————」
呆れたように、ため息をついた後少し強引に扉を開けるユーラフェン。せめて深呼吸はさせてほし————
「いらっしゃい、ドールクリエイターにようこそ」
扉を開けた先に広がるのは、絡繰仕掛けの店内。想像した不気味な人形窟ではなく、ギアの回る音とピストン運動の音が静かに一定のリズムを刻んでいた。
「店主のドールです。どのようなご用件でしょう」
「あ、っと……絡繰の魔女に会いにきたんだけど……」
「なるほど、それでしたら私が絡繰の魔女にございます」
カウンターに鎮座する受付の少女。金糸のような長い髪は床に広がるほど伸びており、いわゆる姫カットのような整えられた髪型で、その肌は比喩表現でもなんでもなく陶器のように白く滑らかなものであった。
確かに人形、人形であると一眼見てわかると言うのに、あの人形特有の不気味さが感じられない。
「? どうかしましたかメグル。口がぽっかり開いてますよ」
「ぁっ、えっ? あぁ……いやその、綺麗だなって」
「ありがとうございます。この身体は造形師たる我が母が文字通りその生涯をかけて創り上げたモノ、私の誇りにございます」
「そうなのか……あ、えと……俺は橘巡留、この身体は見たことがあるかもしれないが————」
「時空の魔女、ネメア・クロイシス様のお身体、ですね」
「あぁ……驚かないのか?」
「えぇ、私のこの宝石の瞳は、ヒトとは異なるモノの見え方をしております。死の魔女、スカーレット・ルイン様と近しい、と言えば伝わりますでしょうか」
スカーレットの名前が出てくる。確か、彼女は魂だけの存在……いわゆる霊体だ。だからこそ目に映るのは魂の形だけらしい。
「では————改めましてタチバナメグル様。私、絡繰の魔女めにどのようなご用件でしょうか」
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