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A.24 熾天使 VS 剣の魔女

 前略、剣の魔女と遭遇した。

 そして————熾天使(セラフィム)とも。



「ッ!」

「援護する!」

 大剣を構え、斬りかかる剣の魔女。しかし、金属がぶつかる音と共に力任せに払い除けられていく。

 追撃しようと向けられた弓が放たれる前にこちらが攻撃魔法を放ち、相手の動きを妨害する。

 当然というべきか、傷ひとつつかない。


「くっ、智天使(ケルビム)すら貫ける我が刃が届かないとは……!」

「確か、炎の魔女……は三日三晩戦ったって……なぁ、フレイアとあんた、どっちが強いんだ?」

同じ領主としてどの程度実力差があるのか知りたい。曰く剣の魔女は戦闘に特化した魔女らしいが。


「試合、という形式であれば私の方が速い。だが————手段を選ばなければ、炎の魔女の方が強いだろう。破壊力の規模が違う」

「なるほど……熾天使と戦った時のフレイア、きっとなりふり構ってはいなかっただろうな」

「おそらくな————来るぞ!」

 破壊規模で考えれば武器を扱う彼女よりもフレイアの方が上だという。熱を操る魔女、その気になれば膨大な熱波……それこそ巨大な爆弾のような攻撃だってできるのだろう。

 そんなフレイアが苦戦するような相手————そう余計な思考を巡らせている間も敵は攻撃の手を止めたりはしない。

 振りかぶった剣が振り下ろされれば大地を破り、衝撃波が地面を伝って襲いかかる。


「ッ! ただの一振りでこんな————」

「次が来る!」

 地面に幾つもの大剣を突き刺し、盾がわりにして衝撃を受け流す剣の魔女。

 それでも吹き飛ばされそうなほどの風圧、いや剣圧に圧倒されていると、剣の魔女が声を上げる。

 ユーラフェンが俺を抱えて飛び上がると、盾代わりの大剣を巨大な矢が貫き、俺たちがいた場所を抉り飛ばす。


「はあぁぁァァッ!」

 創り出した槍を全身全霊で投擲し、投げた槍に追いつく程の速度で熾天使に接近する剣の魔女。

 投げた槍は熾天使の手で、まるで飛んできた矢を掴むかのように受け止められ、接近中の生成した槍の穂先は剣で受け止められる。


「他の木偶人形とは反応速度が違うな!」

 たたみかかけるように槍で連撃を放つ、攻撃の合間合間に剣を生成しては放ち、弓を生成しては矢を浴びせる怒涛の1人波状攻撃。

 それを受けてなお傷一つつかない熾天使の身体は、鎧姿の大天使よりも強度があるということになる。


「手数の暴力……けどあれじゃ熾天使には————」

「おそらく単純な攻撃は通用しないのでしょう」

「どういうことだ?」

「かつて、我が師が熾天使討伐に向かった地、そこは現在こう呼ばれています————”黒鏡の荒野“と」

「黒鏡の荒野……?」

 剣の魔女が熾天使と激闘を繰り広げる最中、手出しもできなくなった俺たちはその光景をただ眺めるしかなかった。

 そんな中、ユーラフェンが語り出す。


「一面黒くガラス化した荒野です。かつては一面の草原が広がっていたそうですが……熾天使と炎の魔女の戦いによって変わり果ててしまったと」

「ガラス化……つまり、草原一帯が荒地どころか、一帯の地面が溶けるほどの熱量を出しても熾天使には倒せなかったのか」

 加熱、というのは肉体の損傷に並んで最も生物を簡単に殺害する事ができる手段だ。

 どんな生物であっても、それが細胞を持つものであれば熱によって壊れ、死に至る。

 俺のいた世界ではアタカマ砂漠という砂漠にガラス化地帯が存在する。

 そこでは大昔に彗星が降り注ぎ、空中で爆発したことによって膨大な熱量に晒され、ガラス化地帯が形成されたのだという。

 その際に放たれた熱量は最低でも1650度近くあると考えられるそうだ。


「質量でも……熱量でも殺せない敵————」

 人間は転んで頭をぶつけただけでも、当たりどころによっては死に至る。

 けれど、周囲の気温の変化に対してはとても強い生き物だ。

 しかし、それでも生命活動を維持できるのは最大でも50度までだという。

 あの熾天使は、今振り下ろされた大斧すら素手で受け止めて見せ、1000度以上の熱を受けても死に至らない……文字通り地球上の生物とは格が違う存在なのだ。


「物理的に倒せない————だから、空間ごと……?」

 しかしネメアはあれを倒して見せた。それも、一蹴してしまえるほど呆気なく。

 そう、ネメアは()()の魔女、司っているのは時間だけではなく————


『やぁ、熾天使と出会っちゃうなんて君はついてるねぇ、宝くじ買ってみたことはある?』

「この声は————」

「————ネメア!!」

 俺が空間というワードを口にした瞬間、帽子が1人でに話始める。フレイアの時にもあった録音音声だろう。


『できればこれが再生されることがないことを祈ってたんだけど、まぁ現実はそう甘く無いってことで。あれ? じゃあこれってボクの運が悪かったってコト?』

「相変わらず無駄話が長い!」

『おおっとそうだ。きっと今は熾天使と対面でもしてるんだろう。便利で簡単な時間魔法と違って空間魔法は難しいからね、ボクもあえて教えてないはずだ。下手したら自分の体が真っ二つになったり、世界に穴を開けちゃうからね』

 いつものような飄々とした態度。しかしその声からは真剣さを汲み取る事ができた。

 冗談めかしているが、ネメアは馬鹿じゃない。むしろ先々を予測してこのような録音を残している。きっと言っていることは正しいのだろう。


『空間魔法は難しい。けれどやっていることは魔術の基礎である()()()()()()()の応用でしかない。自分の中に魔術を使う、家の中の空間を拡張する、範囲を指定して魔術を放つ。その延長線上に存在する魔法だ』

 身体強化、範囲指定の時間遡行、そして時間の停止。意識していたかは別だが、空間に対して魔術を行使するという経験はしているはず。


『空間魔法の使い方、それは三次元的空間の把握が肝になる。いわゆる空間認識能力だ』

「空間認識能力……」

『距離感を正確に把握し、座標を把握し、範囲を指定する。そして、この世界とは別の次元を認識する』

「別の次元って言ったって————別の、次元……こことは異なる空間……!」

『そう、君は理解しているはずだ。なによりも()でね』

 イメージする。

 別次元なんて急に言われてもわからないと言い切るよりも前に思い出す。何を言っているんだ、俺はなによりもこのネメアと散々異なる空間で対話したじゃないか。


 イメージしろ。

 深い水に沈む感覚。見上げれば日が差す水面が見える。魂が深海で浮かぶように揺蕩う、あの場所を想起していく。


『さぁ、いつものようにぶっつけ本番行ってみよう! できなかったら死ぬけど、これを成せば君は名実共に————時空の魔女の力を手にしたと言える!』

「あぁ、やってやる! 熾天使相手に————失敗したら死ぬ、そんな経験、この世界に来てから毎回そうだったよ!」

 顔を上げ、視線の先に悠然と浮かぶ熾天使を睨む。

 剣の魔女は未だ熾天使相手に切り結べていた。変わる変わる武器を生み出しては休むことなく攻撃を仕掛け続けている。

 熾天使はそれを受け止め、いなし、反撃を織り交ぜているが、剣の魔女は反撃を紙一重で回避しながら攻撃を続けていた。


「接近しないと、だよな」

「あそこに飛び込むのは自殺行為のように思えますが、熾天使と戦おうとしている時点で自殺行為でしたね、助力しますよメグル」

「あぁ、助かる……作戦は、そうだな————」

 とめどない剣戟の嵐の中に飛び込むわけで、下手したら剣の魔女の攻撃で死ぬかもしれないわけだが、今の俺に遠距離から魔法を行使できる力はない。

 つまり触れられる距離まで接近しなければならない。


 意を決して、俺はユーラフェンに作戦を伝える————


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