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A.2 この世界の常識を学ぼう!

 前略。目が覚めたら魔女になっていました。

 俺は元気です……多分。


「では、まずはこの世界について最低限度の知識は有しておいた方がいいでしょう」

「まぁそうだな……教えてくれるか?」

「中身が違うとはいえ我が師にものを教えると言うのは中々貴重な体験です。精一杯努めさせていただきます」


「まず、この世界は現在正暦12界の199年目です」

「うん?」

「失礼、まずはどのように年が進むかの説明が先でしたか。そちらではどのような暦の進め方をしているのでしょう」

「あー、うちの国だと皇紀だとか昭和平成令和とかって数え方もあるけど、まぁ世間一般ではイエスキリストっていう世界的宗教のシンボル的な人が生まれたのを元年にして、そこから数える西暦って……音が同じだからややこしいな」

「ふむ、区切りはあるのでしょうか」

「一応西暦100年毎に1世紀って数え方をする。1から100年で1世紀、101から200で2世紀って感じ」

「なるほど、ありがとうございます。では……改めて、この世界は魔女が生まれる毎に一つの区切りを迎えます。それを正暦1界と呼んでいます」

「……魔女っていうのは決まった周期で生まれるのか?」

「いいえ、魔法とは人が極めた先に得るものですから」

「なら1界ごとに幅というか……経ってる年月に差があるという事になるんだけど」

「その通りです」

「なんつー非合理的な暦だ……」

 まずは暦の確認。改めて考えれば、この世界の一日一年が俺のいた世界と同じ進み方をしているとは限らない。

 戻った時にどれだけ経過しているのかを把握するためにも、時間の進み方は知っておく必要があるだろう。


「仕方ありません。魔女が生まれるということは世界の法則、在り方を変えることができる存在が増えたということ。それはともすれば世界が作り変わるほどの変化が訪れる可能性を示しています」

「……魔女ってそんなに凄いのか?」

「はい、我が師は時空の魔法を会得していますが、これを悪用すれば永遠に時が止まった世界にもできうると語っていました」

「時間が……止まった……」

 なんてこった、つまりこの力は9割偽物と言われる時間停止モノの残り1割ってことか。

 ……ダメだな、時間停止と聞くとくだらない事を思いついてしまう自分が呆れるほど馬鹿らしい。


「そういや12界って言ってたな。つまり今魔女は12人いる事になるのか?」

「はい。世界各地の魔術学院を統括する魔術研究の総本山、中央魔術学会では常に世界の変化を観測しているので、世界の理に干渉する魔女の存在はすぐに認知されます」

「世界を変える力を持った存在が12人……多いのか少ないのか」

「1人でもやろうと思えば世界を滅ぼせるので、1人だけでも十分多いかと」

「おっかねぇ……」

 良くまだ続いているな、この世界。などと思いつつ、時間の数え方についても確認しておく。


「この世界の時間ってどうなってる? あー……その、俺の世界だと秒、分、時間で1日24時間なんだが」

「概ね同じかと。1分が60秒、1時間が60分でしょうか」

「お、よかった。時間感覚は普段通りで良いのか」

 本当によかった。ここがもし違っていれば間違いなく俺の頭じゃ正確に記録できなかったであろう。


「文字……はさっきの手紙を見る限り違いそうだな。でも言葉はわかる……」

「それはおそらく魔術によるものかと。流石に我が師も言葉も通じない状態で任せるほどの畜生では無いと思うので」

「一歩違えば自分の師の事を畜生って言うつもりだったのか」

 アフターケア……と言って良いのだろうか。それならついでに文字を読めるようにもしてほしかったが。


「言語であればこの世界でもいくつか異なる言語が存在します。我が師はその辺り、読むために学ぶのは構わないが発音とかを一々覚えるのは面倒だと会話部分は魔術に頼りきりでした」

「優しさっていうより自分が面倒だからそのついでって気がしてならないな」

「かもしれません。やはり畜生でしたか」

 事実、言ってしまえば魔術で聞き取りや発音はできるが、読み書きは自分の力でやっていたという事なのだろう。

 聞いて、話すことができるのに読むことができないというこの状況は、おそらく彼女の怠惰というか……スタイルの影響なのかもしれない。


「では、次はこのアトリエを案内しましょう」

「ん、わっ! とと……身体が違うせいか立つのもちょっと感覚が違う……」

「大丈夫ですか? 歩行が難しいようであれば私が運びますが」

「いや、大丈夫……案内をお願いするよ」

 身長も自分より頭二つ分小さいような気がする。いや、一個半くらいだろうか?

 隣に立つユーラフェンよりも視線が低い、つまり彼女よりは小さいのか……。


「……広くないか?」

「それはまぁ、このアトリエにあるものの8割くらいは蔵書ですが」

「本がいっぱいあるのは魔女っぽいと言えばそうなのかな……」

 アトリエと称する家の中を歩いていく。

 天まで伸びるような巨大な本棚と、それを埋め尽くす蔵書の数々。

 木造の良くイメージするような西洋風ファンタジーチックな内装だが、とにかく広い。


「こんな広いところに住んでるなんて、流石は世界最強の魔女と言ったところか」

「? あぁ、いえ、このアトリエ自体はさほど広くありません。広く見せているのです」

「どういうことだ?」

「言葉で説明するよりも目で見たほうが早いでしょう。こちらへ」

 ユーラフェンに連れられるまま外に出て、振り返る。

 そこにあったのはこじんまりとした一軒家。ちょっとした場末の居酒屋の方が広いと思えそうな小屋があった。


「どういうことだこれは……」

「空間魔術の応用というものです。アトリエを持つような魔術師であれば誰でもやっていることですね」

「はえー……便利だな」

「魔法を目指す魔術師は大抵この空間拡張魔術を覚えます。実用性はもちろん、この魔術は魔法の基本であると考えられているからです」

「魔法の基本?」

 再び扉を開けて室内を見る。雑に見積もっても中は外から見た外観の10倍くらいは広い。


「魔法とは世界に干渉する魔術の極みです。そして魔術において世界とは何も一つ事に囚われるものではありません」

「ほう?」

「己の身体、部屋の中、それらも捉え方によっては一つの世界であると言えます。だからこそ、世界に干渉するという感覚を掴むために、魔術師はまず自身のアトリエの空間拡張に手をつけることが多いのです」

「なるほど……?」

 いまいちスケールが大きくて、かつ概念的な話であるためかよくわからない。

 というか、そんな気軽にできるものなのか?




「……魔術、使えるようになった方が良いですね。身を守るためにも」

「えっ、危険なの?」

 一通りアトリエの中を案内し終わり、元いた部屋へと戻ってきた。椅子に腰をかけて待っていると、飲み物を用意して切れたユーラフェンは呟いた。


「我が師はその性格上敵の多い方でして」

「あぁ……そう……」

「中には問答無用で襲いかかってくる方もいらっしゃいます」

「途端に外出たくなくなってきた」

「ですので自衛に使える魔術を幾らかお教えしようかと。残念ながら魔法の扱い方は存じておりませんので、簡単なものになりますが」

「いや、良いよ。魔法って下手したら世界を滅茶苦茶にできちゃうんだよな? 流石にそんな力怖くて使えないよ」

「そうですか。ではティータイムが終わり次第、外で練習いたしましょう」

「ん、わかった————美味しい」

「お褒めに預かり光栄です」

 ユーラフェンの淹れてくれたお茶は、紅茶とも緑茶とも違う、独特な風味がした。けれど馴染みがあるように感じたのは、この身体が普段飲んでいるものだからなのだろうか。



ーーーーーーーーーー



「では、教えた通り。杖先に意識を集中してください」

「お、おう……!」

 茶を飲み終えて外に出る。普段ネメアが使っているという杖を手に、その先端に意識を集中していく。


「イメージを、目の前の物を貫く閃光を想像してください」

「ん、ん〜……」

 言われた通りに想像をしていく……要するにビームって事だろうか?

 すると杖を中心に魔法陣のようなものが浮かぶ。


「さぁ————そのまま、“放て”、と」

「————“放て”」


 ————その瞬間、全ての音が消え去ったような錯覚に陥った。

 杖先から放たれた光の本流は、目の前の光景をまるごと消し去ってしまうかのようにとめどなく溢れ、遥か彼方の空を切り裂くように伸びていき……後には、地面を丸ごとくり抜いたかのような破壊の痕だけが残った。


「ふむ、普段の40%くらいの出力ですか」

「や————」

「?」


「やり過ぎだろ————!!」


 己の肉体が秘めている力、その底知れなさに対する恐怖を拭うように、彼方に向けてそう吠えた。


ESN大賞7応募作品です。

応募期間中はなるべく早く更新頻度を高めて、できる限り書き上げていく予定です!


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