A.19 二度目の旅出!
前略、家に帰ってきた。
これから剣の魔女に会いに行く。また旅だ……。
「おはよう……ふぁぁ……」
「おや、おはようございますメグル」
目を覚まし、あくび混じりに身体を起こして寝具から足を下ろす。
ユーラフェンに声をかけると、今日も俺より先に起きて朝食を用意していたようだ。
絶対俺より遅く寝てるのに俺より先に起きてるんだよなぁ。
「ご馳走様。今日も美味しかったよ」
「ありがとうございます。それで、本日の予定ですが」
「あぁ……剣の魔女に会いに行って天使を見る……だったか」
「はい。それなりに長期日程の旅となるので、出立のタイミングはメグルにお任せしようかと」
「だよなぁ」
風の魔女、フール・フーの描いてくれた簡易世界地図。そこでの位置関係として、このアトリエは大陸の中心近くに位置している。そして最初に立ち寄った街は西側、黒魔術の町はそこから北、嵐の領域は南東……と、俺たちの足跡は菱形に近い形となっている。
そして今回の目的地は南方を直下していく形になるが、南方の広範囲が囲われていた。
要するにそれが剣の魔女の領地なのだろうが、そんな広大な土地をあてもなく歩き回れ、という話ではないと思いたい。
「そういやユーラフェンは天使を見たことがあるのか?」
「はい、ありますよ」
「マジか」
これからの億劫な旅程を考えることから逃げるように、ユーラフェンに訊ねてみる。
「と言っても私が見たことがあるのは二枚羽でしたが」
「二枚羽?」
「天使は個体ごとに翼の大きさや数が異なるそうです。基本的には大きく多い方が強力なのだとか」
「へぇ、俺たちの世界で1番メジャーな天使も確かそんな感じだった気がするな」
そこまで詳しいわけではないが、確かケルビムっていうのが4枚でセラフィムっていう1番位の高い天使が6枚生えてるんじゃなかったか?
「二枚羽であれば数にもよりますが、戦闘の心得がある者であれば抗する事も可能です」
「じゃあ俺やユーラフェンでも倒せるか」
「……数によりますが。1、2体の時もあれば数十体規模の時もあるので」
「うわぁ……」
強調するようにそう語るユーラフェン。数十体の天使の軍勢……最終戦争かな?
「羽が増えると実力者が複数人でかからないと戦うことすらできなくなります。六枚羽は未だ目撃例が一度のみとの事ですが、魔女クラスでも厳しいと我が師に聞きました」
「六枚羽……セラフィムか」
「? 知っているのですか?」
「えっ、いや俺の世界の天使で1番偉い……って言えばいいのかな、まぁ1番翼の多い天使が熾天使なんだよ」
「我が師も六枚羽の天使をセラフィムと仰っていました」
呼称も同じなのか。じゃあ認識としては俺の世界の天使と同一のものだと考えても……いや、それならなんでまるで人類の敵みたいな扱いを……。
「そういやその目撃例一件ってのはどうなったんだ?」
「我が師が倒したそうです。空間ごと身体を両断して」
「……マジか」
「炎の魔女の領地に出現した際に、偶然近くにいたそうで、天使と三日三晩戦い続けていた炎の魔女の目の前で倒して見せたそうです」
「おぉ……それは……」
「その際にきっと余計な事を宣ったせいで、炎の魔女からは一方的な敵意を向けられるようになり、今日に至るというわけです。我が師が最強の魔女と呼ばれているのにもこういう実績があるからこそ、ですね」
表情の変化には乏しいが、呆れたり少し自慢気に語ったり、最近はユーラフェンのちょっとした変化にも気づけているような気がする。
……まぁ、フレイアは見た通りプライドが高そうだし、領民を守ることに対して責任感も持ってそうだった。そこをあっさりと救われて、あまつさえ煽られるような事を言われたのなら……そりゃあ怒るだろうなぁ。
「とにかく、天使を見るついでに剣の魔女と会う。ここまで来たなら会える魔女には会っておきたい」
「魔女会議で滞りなく話を進めるためにも、事前に話を通しておくのは良いと思います」
「あぁ、幸い北の領主様は協力してくれそうだしな。南北の領主を味方につけることができるのであればきっと心強い、はず」
正直危険を冒してまで行く必要はない気もするが、天使は魔術や魔法、時空の獣と同じで明らかに俺のいた世界にはいない存在だ。
概念としてはあっても、実在はしない存在であるはずだ。
どうにもその違和感が気になってしまう。そしてこの違和感について考えようとすると、ネメアにこの世界について知ってほしいと言われた事を思い出す。
「よし、じゃあ昼飯を食ったら出立だ!」
「かしこまりました。体力がつくものをご用意いたします」
「あ、俺も手伝うよ」
「座っていてください、私の仕事です」
「あっ、はい」
どうやら仕事には手を出されたくないタイプのようだ。
ーーーーーーーーーーーー
「よし、出発だ」
「はい、参りましょう」
昼食を摂り終え、最後に荷物の確認をして出発する。
今回は人の寄り付かない嵐の領域ではなく、人の生活する場所に向けて旅をする。
道中には街もあるとの事なので、都度立ち寄って食料などの物資を補充するという手筈だ。
「今回は楽な旅になるといいな……」
「旅に楽なんてありません。苦難の中にちょっとした楽しみを見出すものなのだと我が師は仰っていました」
「ちょっとした楽しみか……」
歩き始め、少し考える。
目的だけを追い求めてしまうと過程がおざなりになってただただ苦痛な作業になってしまう。
嫌だ嫌だと仕事を続けるよりは、休憩時に良いランチを楽しめるくらいの余裕はあった方がいい。
「……道中で寄った街に何か美味しいものがあればいいな」
「我が師と立ち寄った事のあるお店で良ければご案内できますが」
「いいね、頼むよ」
そうして、小さな旅の小目標を立てつつ、俺たちは南に向けて歩き出した。
ーーーーーーーーーーーー
「ふぅ、やっと一つ目の町だ……」
「今夜はここで一夜を明かしていきましょうか」
「そう、だな……そうしよう、ベッドで寝たい……!」
「お疲れのようですね。宿を探してきますので、メグルはそこで休んでいてください」
「あ、あぁ……悪い、頼む」
二日間歩き続け既にクタクタになった俺はユーラフェンの言葉に甘えて座れそうな場所に腰を下ろす。
煉瓦造りの雰囲気の良い建物が立ち並ぶ街並みは夕日に当てられたどこかノスタルジックな印象を受ける。
「ここは何の街だろうか……」
「知識の街、あるいは本の街でしょうか」
「!?」
息を落ち着け、ぼーっと街を眺めている時にぽつりと呟いた言葉に誰かが答える。
不意に声をかけられると油断していた事もあって心臓が飛び跳ねるほど驚いてしまう。
「ど、どちら様で……?」
「あぁ、失礼しました。私、この街の図書館で司書をしておりますロアナと申します。以後お見知り置きを」
「あ、これはご丁寧に……俺は橘巡留と言います」
「珍しいお名前ですね。どこかで見たお顔だと思ってお声がけさせて頂いたのですが……初めて聞いたお名前なので気のせいでしたか」
「えっ、あー……はは、そうかもしれないっすね……」
ネメアの顔を見たことがあると言われると、ついそっとフードを被って顔を隠してしまう。別に俺自身には後ろめたいことは何もないのだが、ネメアが何をどこでやらかしてきたかわかったものじゃない。
「おや、お連れの方が戻ってきましたね」
「お、本当だ。流石ユーラフェン、仕事が早い」
「では私はこれで、気が向かれましたら図書館のご利用をどうぞよろしくお願いします」
「あ、はい。ありがとうございます」
ユーラフェンがこちらに戻ってきているのを確認した女性はそう言って一礼すると立ち去っていく。
落ち着いた雰囲気の知的な女性だったなぁ。この世界にきて初めて普通の女性と話したかもしれん。
「戻りました」
「お帰り、部屋はとれた?」
「はい、空きがありましたので。先程誰かとお話しされていたようですが」
「あぁ、なんか俺のことを……いやネメアの顔を見たことがあるとかで話しかけてきたみたい。名乗ったら気のせいだと思ってくれたみたいだけど」
「なるほど。この街には我が師と何度か訪れているので、その際に見かけたりしたのでしょうか」
「来たことがあるのか」
「えぇ、なので今回のお宿は何度か利用したことがあります」
「道理で戻ってくるのが早かったわけだ」
どうやらネメアとユーラフェンはこの街に来たことがあるらしい。
図書館のある本の街か……調べ物にはいいかもしれない。
明日、この街を発つ前に図書館にでも寄ってみようか。
そんなことを考えながら、俺とユーラフェンは宿へと向かっていった。
天使や魔女について何かわかるといいが……。
このお話がおもしろいと思った方は是非いいねをしてください!
気になる、応援していただけるという方は評価や感想、拡散よろしくお願いします♪
モチベーションがぐんっと上がります!
X(旧Twitter)で更新報告をしています、更新を心待ちにしてくださる方はフォローお願いします♪
X(Twitter)→@You_Re622