A.18 お家に帰ったらお風呂!
前略、風の魔女とお話をした。
結果、この世界には天使と呼ばれる生物?が居ることがわかった。
「剣の魔女————」
「北方の地を治めているフレイアと同じ、南方の地を治めている領主です」
「なるほど」
剣の魔女はどうやら領主……つまり貴族か?
ならばフレイアと同タイプだろうか。
「年々天使が来る頻度が増えてル。まるで魔女が増える度ニ呼ばれてルみたいニ」
「魔女に呼ばれている……?」
「特に南方はココ最近ズット天使に襲われてル。だから、見てみたいのなら剣の魔女の領地に行くのがオススメ」
「わかった。ありがとう」
天使という存在がなんであるか。少なくとも人類に友好的な存在ではなさそうだ。
……というか危険地帯じゃないか?
「ちなみに具体的な位置とかは……」
「ん……これがコノ世界のカタチ」
南方ということはわかったが、具体的な位置がわかるのであればそれに越したことはない。
訊ねるとフールは服にぶら下げていた木製のケースを取り外し、蓋を開けると朱色の塗料のようなものが入っていた。
おそらく彼女の身体に描かれている模様に使われているものなのだろう。ほんのりと甘い香りのするそれで机の上に絵を描き始めた。
「ココが今居るトコ」
「嵐の領域だな」
「我が師のアトリエはここです」
「デ、剣の魔女のナワバリはココ」
「縄張りって」
ぐるり、と南方の一部地域を囲ってみせる。なかなかの広さだがここを歩き回って見つけ出さなければならないのか?
「剣の魔女はいつも最前線にデル。ダカラ戦場行けば会エル」
「勇敢な魔女なんだな」
「今はココで戦ってル。けど着く頃にドコで戦ってるかはシラナイ」
「……君に着いてきてもらえたら簡単に見つけられそうだけど?」
「ヤダ」
即答という形で断られてしまう。
「フーはココを出たくないノ。外はノイズが多いカラ」
「そうなのか?」
「ココならノイズを弾けル。音を選んで聴けるカラ」
ただただ引きこもりってわけでもないのか。外だと否応にも色々な音を聞いてしまうとかか?
「まぁ無理にとは言わないし。教えてくれただけでもありがたいよ」
「ン、頑張って」
「あぁ、わかった。それじゃあ、魔女会議の日程が決まったら……」
「適当に喋っててくれたラ、聴こえるカラ」
「わかった」
最後に魔女会議に出席する事の確認をして、俺たちは嵐の領域を後にする。
風の魔女フール・ルー、最初は殺されるかと思ったが、話さえできれば純粋でいい子……かもしれない。
……次に会うであろう剣の魔女で、魔女のうち半数と出会ったことになるが、既に3人から攻撃されているという現状。
どうか次の魔女は話が通じる方で有りますように。
ーーーーーーーーーー
「ふぃー……やっと帰ってこれたぁ」
「お疲れ様ですメグル。今日はゆっくりと身体を休めてください」
嵐の領域からの帰路の旅。3日かけてようやくネメアのアトリエに辿り着いた。
早々旅にな慣れるなんてこともなく、脚はパンパンになって足裏もひりひりと痛む。
疲労困憊な俺と違ってユーラフェンはテキパキと荷物を片付けており、この調子なら次の目的地である剣の魔女の領地に行く準備も済ませてしまいそうだ。
「ふー……生き返る……」
浴槽にお湯を張り、身体を湯の中へと沈める。
一瞬でお湯を用意できるのはこの世界で1番優れている技術かもしれない……。
長旅の疲れが溶け出るような感覚につい意識を手放してしまいそうになるが、頬を叩いて意識を保つ。
「そういや……外出てる間、ネメアと話してないな……」
うとうとしながらそんなことをぼんやりと思い出す。
旅の途中、野宿をしていた時はネメアと夢で会うこともなければ、ネメアの過去を見ることもなかった。
慣れない野宿で眠りが浅かったからだろうか?
「ふぅ、いい湯だった」
「メグル」
「お、ユーラフェン。どうした?」
「旅の支度ができましたので、明日にでも出立できます」
「おぉ、流石ユーラフェン、仕事が早い。お疲れ様、ユーラフェンもしっかりと休んでくれ」
「かしこまりました」
風呂上がりの俺にユーラフェンが声をかける。どうやらもう旅支度が整ったとのこと。
相変わらず仕事が早い。旅の道具自体は今回黒魔術の町で買い付けたものがあるとはいえ、先に休憩してくれてもよかったんだが。
「じゃあ俺は先に寝るよ。もうクタクタだ」
「はい、おやすみなさい、メグル」
「おやすみ、ユーラフェン」
最後にユーラフェンへおやすにと挨拶した後、寝具へと登り、十秒も経たないうちに眠りにつく。
ーーーーーーーーーーーーー
「……」
「おや、どうしたんだいネメア。こんなところで」
「ん、時計の針を眺めてた」
「あぁ————ふふ、懐かしいな」
「知ってるの?」
「知ってるさ。私も昔は良くそれを眺めてたから。村一番のお屋敷にあった時計なんだけど、壊れちゃって。そこに住んでた友達がくれたんだ」
「ふぅん……」
また、ネメアの夢か、これは? 俺の視線の先にあるのは金色の針。どうやら時計の長針のようだ。
小さな指で遊ぶように、ネメアはそれを眺めていた。
「無くしたと思ってたんだけど、君が持ってたんだね」
「昔から————そう、気がついた時から手元にあって。どこか懐かしい気がして……世界、君のものなら返そうか?」
「んーん、一度は失くしたものなんだ。君が持っていればいい。時間を操る魔女が時計の針を大事にしてるなんて、なんだか詩的で素敵だと思う」
「そう」
ネメアの頭を撫でながら世界の魔女はそう語る。懐かしむような、それでいてどこか悲しげな表情で針を見ていた。
「君も、そう思わないかな、覗き魔くん」
(っ!? また————)
「これで二回目。次は————君と直接お話しできるかもしれないね」
ーーーーーーーーーーー
「っ!」
『おや、話しかける前に起きちゃった。おはよう、そっちからしたら結構久々じゃないかな?』
夢から飛び起きたかとおもえばまた夢。久々にネメアの声を聞いた気がする。
「夢を、見た……時計の針の夢を」
『んー、あー……あれか』
「最後、世界の魔女が俺のことを認識してるかのように接してきたんだが」
『そりゃあ、世界の魔女だからね。夢の世界ってやつじゃないかな?』
「適当に答えてないかお前……」
驚きもせずあっけらかんとした態度で返してくるネメア。
久々だがやっぱりこいつの態度は人の神経を逆撫でするというかなんというか。
『ま、それはともかく近況を教えてよ』
「あぁ、そうだな————」
『なるほど、色々あったねぇ』
「というかネメア! あの化け物について説明しなかったろ!?」
前回ネメアと話してから今日までに起きた諸々を説明した。そして思い出す。初めて魔法を使ったときに時空の獣に襲われたことを。
『あぁ、別に言ってもどうもできないことだったし、良いかなって』
「良くないが!? 事前に言っておいてくれたら覚悟の一つくらいできたってのに」
『まぁまぁ、こうして無事に話せてるんだからなんとかなったってことじゃないか、流石ボクの身体』
「こいつ……」
何度目だろうか、こいつをぶん殴ってやりたいと思ったのは。
『お詫びにいい情報をあげよう。あいつは一度殺せば向こう十年くらいは出てこない』
「そうなのか?」
『100体以上倒してきたんだ。検証結果としてはそこそこ信用できるでしょ』
「……そういや、お前って幾つなんだ?」
まぁ確かに、少なくとも俺がここにいる間あいつに怯えながら魔法を使う必要がなくなったというのはいい情報だ。
それはそれとしてもう一つ、聞きたいことがあった。
『レディーに年齢を聞くなんて。だから彼女が居ないんだよ?』
「言っていいことと悪いことがあるぞお前」
『まぁ正確に何歳か〜なんて覚えてないけどね。今は大雑把に100年程度で換算してるから〜……2600とか2700くらい?』
「マジか……」
『そんな反応されると傷つくんだけど? そもそも魔女なんてどれだけ若くても100超えてるんだからみんなババアさババア』
開き直ったかのように早口で捲し立てるネメア。一応気にしてはいるのだろうか。
「まぁそれはともかく。次は剣の魔女に会いに行くんだが」
『……まぁいいけど。あの子はまぁいい子だよ。気高く誇り高い領主様、魔女っぽくはないけれど』
「魔女っぽくない?」
『ボク達はほら、力が強いからそれを戦いにも使えるって感じであって、本質としてはこれは戦うための力じゃない』
「まぁ、そうだな」
『けど彼女は領民を守るために、戦うために魔法を会得した。彼女の司る力は武器という概念そのものだからね』
「なるほど」
こうして話に聞く限り魔女というよりは騎士や、それこそノブレスオブリージュの精神に溢れた貴族のようにも思える。
『おっと、そろそろ時間だ』
「なぁ、こうして夢で話せるのって。もしかしてこの場所で眠ることが条件なのか?」
『その通り。じゃあね〜』
「軽いなおい————」
そんなツッコミがネメアに届く前に、俺の目が覚めてしまう。
「はぁ、旅立ちの前なのに全然眠れた気がしねぇ……」
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