A.17 動物のお話
前略、風の魔女と戦うことになった。
なんとか対話に持ち込めた……か?
「————どうだ?」
「……」
風の魔女、フール・ルーへの提案。それは俺の世界について……特に動物に関しての話だ。
この世界のことをよく知ってそうな相手ならば、この世界以外のことを話せばいいというだけの話だ。
……フレイアが言っていた。こいつは人よりも動物との方が仲が良いと。ならば、食いついて————
「ン、良いよ」
「へっ?」
「着いてキテ」
あまりにあっさりした返事に思わず拍子抜けする。その瞬間、フールを縛っていた鎖は風によって断ち切られる。
だが、そのまま彼女と俺はふわりと地面に降り立ち、ユーラフェンが心配するように駆け寄ってくる。
「大丈夫ですか、メグル?」
「あぁ、大丈夫だ……それより、よく俺の意図を汲んでくれたな」
「メグルが叫んだ後、不自然にお二人が停止したので……時間停止、ですか」
「流石はネメアの弟子、気付いてくれたか」
「驚きました。まだ我が師から教わって居ないのかとばかり」
「それが……教わってはないんだ。ただ魔術と魔法の要領って同じじゃないかって思ってさ。土壇場でやってみたらできたんだ」
少し誇らしげにユーラフェンに語ってみせる。できるという確証があったわけではないが、自分の推測と決意が結果につながったという優越感に浸っていると……。
「着いてキテって言っタ」
「んぃっ!? す、すみませんっ!」
ぐりんと、無理やりこちらを向くように首が捻られる。このまま首を捻じ切られてしまいそうな気がして、恐怖で背筋に悪寒が走り、大人しく着いていくことにした。
ーーーーーーーーーー
「ココ、適当に座っテ」
「あぁ、わかった」
「失礼します」
そうして案内された場所はとても古い庭であった。かつては荘厳な庭だったのだろうという面影を残し、錆びついた柵には蔦が絡まり、最低限の手入れだけを施された自然豊かな光景が広がっていた。
しかし、椅子と机だけは小綺麗に整えられており、フールが普段ここを使っているのだということがわかる。
「それデ、ナニを聞かせてくれるノ?」
「そうだなぁ、どうせならこの世界にないことを話したいし、まずこの世界にどんな動物が居て、何が居ないのかを知りたい。ユーラフェンの料理で肉は食ったし、何かしらいるとは思うんだが」
「任せテ」
既に知っている動物の話をしてまた機嫌を損ねられても困るし、まずは何がいるかを知りたい。そう言うと、フールは立ち上がって少し離れて空に浮かぶと、辺りの枝葉や草原が風に揺らめき始め、フールは歌を奏で始める。
「……幻想的だな」
「猛々しく荒れ狂う嵐も、穏やかに歌を風に乗せるのも、どちらも彼女の顔なのでしょう」
まるで楽器のように軽やかで耳に心地の良い歌声を奏でていると、そこかしこから動物たちが顔を覗かせる。
鳥に羊に……豚、牛……猫に犬と、俺の世界でも見たことがあるような動物ばかりだ。
異世界と言ってもそこまで生物に違いはない、ちょっと残念ではある。
「みんなフーのお友達。コレでイイ?」
「ありがとう。そうだな、陸にいるのは大体同じか……じゃあここに居ない海の————」
「ウミ?」
「海知らないのか?」
「私も知りません」
「————まさかこの世界に無いのか、海」
流石に陸上には海上生物も居ないだろうし、と海洋生物について話そうとしたところで2人の反応に違和感を覚える。
いくらなんでも海を知らないというのはたとえ内陸国の人間であってもそうは居ないはずだ。
特に風を操るフールであれば潮風なども能力の対象だろう。
「————ってのが海なんだけど」
「チキュウの7割を占める巨大な塩水溜まり……という事でしょうか」
「お魚は知ってル。ココの川にも居るカラ。でもイルカやクジラってのは知らずナイ」
「本当に知らないんだな……」
ざっと海についての概要を説明してみた。2人ともピンときていなおようで、なんだったら地球という単語も知らない。いやまぁそこはこの世界での名前があるのかもしれないが。
「水の中で暮ラス哺乳類……」
(興味を惹かれたみたいだな)
「気になるならまずはそこから話すか」
そうして俺はフールに海の生物について話すことになった。イルカやクジラなどの哺乳類について、サメやイカタコのような海にいる特殊な生物の話を。
意外とユーラフェンも興味津々に話を聞いてくれていて、こういうところは子供らしいというのか、それとも魔女の弟子としての知的好奇心なのだろうか。
「ってな感じで、俺の世界じゃ海は命の母って言われるくらいには重要な存在なんだぞ」
「そうなんダ」
「そうだぞ。俺たち人類を含めて、地上に生きている動物たちも元を辿れば海にいた生物が————」
説明しているうちになんだか俺も楽しくなってきた。浅学の身なれど他人に知識をひけらかすのは楽しいものだな、ふふふ。
「キョウリュウ……!」
「太古のロマンって感じだろ? 昔にはそれだけクソでかい生物が居たって、大人になってもワクワクするよ」
話し込むうちに話題は太古の生物の話になった。
最初は興味なさげだったフールも、話が進むにつれてキラキラと目を輝かせながら話を聞いてくれている。
「それで————」
「あの、メグル?」
嬉々として語っているとユーラフェンが話を遮るように口を挟む。
「当初の目的を忘れていませんか?」
「え? あ、あぁ、忘れてないぞ? えっと……そう! なぁフール、魔女会議に出てくれないか?」
「んー……」
「頼む!」
「別にココで話しちゃえばイイんじゃナイノ?」
確かに風の魔女に聞きたいことを聞くだけなら今聞けば済む話ではある。
けれど今まで顔を見せなかった風の魔女を連れてくることができた、という実績があれば他の魔女たちにも話を通しやすくなるのではないか? と思う。
「頼む、フール」
「……正直メンドくさい。行かなくてもフーには聴こえてくるカラ」
「……そうか」
「でもイイよ。その代わりモット聞かせテ。あなたの世界のコト」
「! 本当か!?」
「うん」
「よしっ、ありがとうフール!」
ここからまた別の交渉材料を探さなければならないかと思い始めたところで、フールはわりとあっさり許諾してくれた。
「じゃあ、今はフーに話してほしいコト、ナイ?」
「あー……世界の魔女のことは会議中に聞くとして、そうだな……この世界そのものについては今聞きたい」
「コノ世界のコト?」
海がない、そしておそらくだがコノ世界の生物は人間を含めて俺たちの世界のような“進化”を辿っていない。
人は最初から人、牛や豚も最初からそのままの姿で生まれていると思われる。
「まずコノ世界の形について確認だ。俺はここにきてから地図だったり……地球儀の類を目にしていない。教えてくれ、この世界は球状なのか?」
最初に確認したいことといえばこれ。2人とも地球という名称にはピンときていなかった。さっきはもしかしたらこの世界では別の呼称なのかとも思ったが、海がなければほとんどが大地で形成された惑星であるということになる。
「? 違うヨ」
「!!」
「この世界には今いる十字の大陸の他に島がいくつか、それ以外はそこが見えない奈落が広がっています」
2人の返答はNoだった。この世界は球状ではない……どころか、大陸一つと島複数しかないという。
これでわかったことと言えば、おそらくここは惑星などではないということくらいだろうが。
……いや? 木星などのようなガス惑星系で大陸が浮かんでいるという可能性もあるにはあるか。それにしては空は綺麗だし夜には星も————何故星空が見える?
考えてもわからないことは置いておこう。次だ。
「それじゃあこの世界にしかいない生物とかはわかるか? フーが見せてくれた子たちはみんな同じ種類の動物が居るし、魚もいる。例えば今ここにいない生物とかさ」
「んー……フーが意思疎通できないコなら二種類カナ」
「居るのか?」
「一つはあなたも会ったことがある。時空のケモノ。あの子とはお話できナイ」
「……確かにあれは俺の世界にもいないな。概念的にはティンダロスの猟犬と近いとは言われたが……あれはそもそも創作だし」
「もう一つは————天使」
「天使……?」
ここに来る前にフレイアたちが少し話題に出していた存在だ。何かと問うても天使は天使だとしか言われなかったが。
「天使って、なんなんだ?」
「ナニって言われても……天使は天使、ヒトの敵」
「人の敵?」
穏やかな話ではないな。人の敵と来たか。
「気になるナラ、直接見に行くのがイイ」
「! フレイアのところとかか?」
「んーん、あっちの天使はもう炎の魔女が倒シタ」
「そうなのか、じゃあどこで?」
「剣の魔女。ブレンダ・セリオンの領地」
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