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A.16 風の魔女

 前略、風の魔女と出会った。

 さて、この魔女は話が通じるのだろうか————



「あ、えっと……実は俺、別の世界から魂だけこっちに来てまして……この身体は同じ魔女のネメアっていう————」

「知ってル。全部聞いてたカラ」

「……マジか」

「要件だけ話シテ」

 淡々とした話し方をする風の魔女。前情報からのイメージだと粗暴な野生児という予想だったが、存外冷静で落ち着いた雰囲気を漂わせている。


「じゃあ、魔女会議に出席してほしい。世界の魔女についての情報共有とか、色々と魔女たちに伝えたいことや聞きたいことがある」

「フーにはナイ」

「ぐ……やっぱり二つ返事で終わりなんてことはないか……」

 ここからは説得フェイズか……正直何をどうすれば頷かせることができるのか見当もつかない。


「要件は終ワリ? じゃあ帰ッテ」

「いや、待ってくれ!」

「……フーの言うコトが聞けないノ? やっぱりヒトはワガママ」

 ふい、と興味を失ったかのように立ち去ろうとする風の魔女フール・フーを呼び止める。

 すると無表情だったその顔は少し不機嫌そうに眉を(ひそ)め、それと同時に周囲の風音が激しくなった気がした。


「い、いやちょっと……俺たちはあんたと事を構える気は無いんだ、ただ話を————」

「フーには外のお話は全部聴こえてル。あなたも、あなたタチの話してたコトも知ってル。————その上でナニか知らないコト言うのかと思ったケド、何もナイならもう話すコトはナイ」

「っ、そんな————」

 一方的にそう語るフールはこちらを見下ろしながら、風が彼女を包み込んでいく。

 近くを流れる川からは、まるで水が意志を持っているかのように渦巻き、舞い上がり、龍のような長くとぐろを巻いた形を持って鎌首をもたげる。


「帰る? それとも……フーの邪魔、スル?」

「邪魔をする気は無いけど、頼むよ……!」

「時間のムダ」

 聞く耳持たず。一言で切って捨てるとフールは水の龍をこちらへと突撃させる。

 警戒していたのもあって初撃はなんとか回避し、俺とユーラフェンは戦闘態勢に移行する。

 結局荒事になってしまうのか……!


「さて、どうしたものでしょうか」

「力づくで話を聞かせるか?」

「唯一我が師に敵意というか、一方的にライバル視している炎の魔女に対してはカウンターとなる魔法を仕込んでいたようですが……果たして風の魔女に対して有効な魔法を我が師が用意しているでしょうか」

「……用意周到だからあると信じたいが、そんな不確定要素には頼りたく————」

 これからどう立ち回っていくかをユーラフェンと相談する。最初、フレイアに襲われた時はネメアが残していた魔法によって事なきを得たが、今回はこちらから乗り込んだ形になる以上、あまり期待はできない。

 そんな事を考えていると風の刃が俺たちを襲う、水龍の方に視線を奪われていたと言うこともあったが、眼前に迫るまで気づくことが出来なかった。


「っ!“時よ戻れ”!!」

 咄嗟に時間を戻す。しかしさっき言った通り水の龍に意識を割いていたこともあって戻せる時間僅か数秒、その一瞬にできることといえば————


「しゃがめ!」

「っ!」

 一言声を上げてユーラフェンに指示を出す。実直で従順なユーラフェンはすぐに言われた通り深くしゃがみ込み、俺たちの頭の上を風の刃が掠めていく。


「今の……時空の魔女のチカラ? へぇ、使えるんダ」

「認識されてる……? そうか、範囲外か……!」

 ネメアが言っていたように、今の俺では魔法で時間を戻せる範囲が決まっている。意識して範囲を決めているわけでは無いが、少なくともここからフールまで、7、8メートル程か、長く見積もっても5メートル程度の効果範囲しかないということになる。


「こうなったら叩き落として話を聞いてもらう!」

「お守りします、メグル」

「身の程知ラズ。出て行けばイイだけなのニ」

 そう言いながら水の龍を放つように突撃させるフール。ユーラフェンが防壁を展開して正面から受け止めれば、破裂するように周囲に水が飛散するが、飛散した水がそれぞれ小さな蝙蝠のような形を作り、全方位から防壁に衝突しては再生してを繰り返す。


「っ、このままだとすぐに突破されてしまいます……っ!」

「なら、最大出力で————」

 杖を構え、狙いを定めて一撃を放つ。けれど発射前から察知していたかのように回避行動を取られてしまえば、広範囲の最大出力砲撃であっても容易く避けられてしまう。


「くっ、なら数で撃ち落とす!」

「援護します!」

 ユーラフェンと共に攻撃魔術を放つ。俺は砲撃魔術を出力を下げて連射重視、ユーラフェンは追尾する光の球のようなものを発射する。

 しかし、それらが風の魔女を捉える事は決してなく、優雅に舞い飛ぶようにひらりひらりと躱していく。


「くそ、先読みでもしてるみたいな動きだ」

「この空間にある大気は彼女の身体も同然、おそらく風を使って攻撃の軌道予測をしているのかと」

「自由自在に飛べるみたいだし、撃ち合いじゃ部が悪いか」

 悠々と飛び回りながら、こちらの攻撃をするりと回避してみせるフール。更には風の矢のようなものを生成して反撃すらしてくる。


「っ、結局防戦一方になるのかよ……っ!」

「どうしますか、メグル? っあ、これでも、明らかに手加減されていますが……本気を出される前に撤退した方が————」

 反撃こそ行ってはいるものの、散発的で殺意を余り感じられない。

 本当に面倒だから追い返したいというような————


「うぉあっ!?」

 ユーラフェンがそう言った矢先、背後から水龍が襲いかかってきた! 着弾の衝撃で俺たちは分断されるように別方向に転がっていく。

 俺はフールの足元に転がり込み、こちらを空から見下ろすフールを見上げる。


「気が変わった。加減してもらってるカラ今のうちに逃ゲルって、なんかムカつく」

「えぇっ!?」

「あなたタチ、動物のエサ。バラバラにしてばら撒いてアゲル」

「猟奇的だな!?」

 気が変わったの一言でどうやら俺たちはそれはもう無惨な目に遭うらしい。遭ってたまるか!!


「この……っ! っ!? うわわっ!」

 上にいるフール目掛けて魔術を使おうとするが、纏わりつくような風に包まれてしまうと、ふわりと身体が浮き上がる。

 四肢の自由も利かない、あぁ、これはこのままだと死ぬ。

 時間を戻すか? 戻したところでおそらく離れたところからでも風を操って————


 時を戻す、魔法も……魔力を放つ魔術も、仕組みというか、使い方は同じだ。

 イメージ、脳内に何をどうするかをイメージする……思うに、魔法と魔術を使えるか使えないかというのは本人に使える資質があるかどうかなのだと思う。

 そして、俺の身体はネメアなのだ、つまり、素質は十二分にあるはず————!


「ユーラフェン! 鎖を!」

「何を、そんなモノ出したってフーには届かな————」

 要領は同じはずだ。イメージしろ。

 指一つ動かせないように、刹那の思考すら許さないように、一瞬でも良い、時間を————


「“時よ、停止しろ”!!」

 時間を停止させる。持つのは明確なイメージ、ありとあらゆるものが静止した、“今”を創り出す魔法。



「っ!?」

「————い。っ!? な、ナニが起こったノ?」

 魔法を唱えた次の瞬間、フールの身体が鎖で縛られる。成功……したのか?

 ユーラフェンの方へと振り向く。俺たちがいる場所からは10メートル以上離れている場所。そこから鎖を伸ばすユーラフェンの姿……間違いない、時間の停止に成功したんだ!

 でなければフールが逃げる間も無く鎖に絡め取られるわけがない、彼女なら伸びてきた鎖をたたき落とす事だってできるはずだ。


「こんな、モノで————」

「! いけません、メグル! 逃げてください!!」

(身体はまだ動かせない。考えろ、そもそも俺たちは話に来たんだ。話————風で全てを知ることができる魔女、なら……!)

 俺の身体よりも先に自分を束縛する鎖を引き裂こうと試みるフール。

 次の選択をしなければならない。こいつは何も話をしたくないわけじゃないんだ、したくないのなら最初からこの領域に招かずに無視するか、いっそ吹き飛ばして拒絶すればいい。

 ただ、風で音を拾うことができるという能力のせいで、相手が話す、大抵のことが“知っていること”なのだ。

 ならば、知らないことを話せば興味を持ってくれるかもしれない————


「俺の世界の動物について話そう!!」


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