A.14 風の魔女を見つけに行こう!
前略、死の魔女に色々と情報を聞いた。
風の魔女を探さないといけないらしい……。
「色々教えてくれてありがとう。世話になった」
「人々を教え導くのは魔女の役割だと私は思っているから」
「我が師に聞かせたい言葉ですね」
「弟子をとる魔女自体少ないけれど、特定の個人だけを弟子にする魔女なんてネメアくらいだけどね」
「そうなのか?」
「例えば私は言ってしまえばこの町の黒魔術師全員が弟子とも言えるけれど、別に指導なんてするつもりはないから弟子をとってるつもりじゃない」
「わたくしも領主であって誰かの師ではありませんわね」
どうやら魔女は弟子をとらないものらしい。ネメアはなぜユーラフェンを弟子に取ったのか……案外小間使いが欲しかっただけ、とか?
「そしてこれから探すことになる風の魔女にも弟子は居ない」
「なんだったらあの方が人と仲良くしているという話自体聞きませんわね」
「どういうやつなんだ?」
まずは風の魔女がどういう人物であるのかを知りたい。
「自由人だね」
「自身の力を無差別に奮い、己の快不快だけで行動する……野蛮な魔女ですわ」
「フレイアに野蛮って言われるのか」
「それはどういう意味ですの!?」
今のところいい要素が皆無。魔女の力というものはここまでで十分強力なものだと理解できている。
そんな力を無差別に奮う?近づいたら死ぬんじゃないか?
「後は人よりは動植物との付き合いの方が多いんじゃないかな」
「我が師曰く、風の魔女は世界中のありとあらゆる音を聴くことができるのだとか」
「耳がいいって事か?」
「というよりは音を拾うことができる……というべきかな。まぁ耳がいいって認識でも問題はないけど」
「なるほど……?」
「後はあれだね、死生観は私と似ているかな。生きとし生けるものはいずれ終わりを迎える。私の場合は死は魂の行き着く休息だけど、あの子にとっては魂を託されることだとか」
ここまでの情報をまとめると地獄耳の野生児……って所だろうか?
正直あまり人物像が思い浮かばないな。
「あぁ、大事なこと忘れてた。そいつは何処にいるんだ?」
「んー……っと」
「“嵐の領域”ですわ」
「何そのヤバそうな場所」
嵐、風……言ってしまえば嵐は荒れ狂う風の様なものだ。
風の魔女が本当に野蛮で無秩序に能力を使っているのであれば、それは嵐にもなるんだろうか。
行きたくねぇ……。
「こちらをどうぞ」
「? この炎は……熱くないな」
「スカーレット、ランタンか何かありますか?」
「適当に部屋に置いてるの使っていいよ」
「ありがとうございます。お借りしますわ」
フレイアが手のひらから光を放つ炎を作り出す。普段の轟々と燃える炎とは違う、温かみを感じる穏やかな炎であった。
それをスカーレットの部屋にあったランタンの中に移すと、それを手渡してきたので受け取る。
「導きの光というやつですわ。手に持ったまま行きたい場所を念じることで光が方向を示してくれます」
「おぉ、便利だな。これも魔法か?」
「導きの光というもの自体は魔術ですわ。ただ、その炎はわたくしの魔法で作ったものなのでそう簡単には消えません。いわば導きの灯火と言ったところでしょう」
「ほぇー……魔術ってことはこれ自体は俺でも覚えたら使えるのか……ありがとう、フレイア」
なんやかんやフレイアには世話になってしまっている。本当にネメアや他の魔女以外には優しい人間のようだ。
「本当はついて行きたいのですけれど……どうやら少し用事ができそうで」
「? そうなのか?」
「えぇ、少し……些事、とは言えませんわね」
「“天使”かな?」
「……えぇ、と言っても雑魚のようだけれど。私が対処した方が確実……万が一があってはなりませんもの」
フレイアは何やら用事があるようで、ここで別れることになりそうだ。
天使、というワードが出てきたが……天使ってあの天使か?
「それではお先に失礼。ご武運を祈りますわ、死なないように」
「おう、世話に……えっ? 死ぬ可能性あるの!?」
不穏な一言を残してフレイアはスカーレットの家から出ていく。やっぱり危険なんじゃないか嵐の領域!
「それじゃ、君たちも行くといい。そうそう、嵐の領域に向かうなら歩いた方がいいよ、人が飛んで入ろうとしたら彼女に撃ち落とされるから」
「……本当に会いに行かなきゃダメかなぁ……」
「良かったじゃないですかメグル。飛ばずに済んで」
「それはまぁそうだけど……ユーラフェンはいいのか? 危ない場所っぽいけど」
「私は我が師の命であればなんでも。今はメグルの行く道を支えるのが与えられた命だと判断しています」
ついてきてくれるのはありがたいが、本来であればユーラフェンは無関係……ってわけでもないか、そうだよな、俺の体は師匠の体なんだし、あまり無茶をして心配をかけるわけにもいかない。
「じゃあまだ日も高いし……嵐の領域ってところに向かうか」
「ん? 日帰りで行くつもり? ここからだと2日かかるよ」
「えっ」
飛べないと言うことで時間がかかるかもしれないというのは頭の片隅にあったが、まさか徒歩で日を跨ぐことになるとは。
「うーん……それじゃあこの町である程度食料とか必要なもの買い揃えておいた方がいいか」
「そうですね。行きましょう」
「買い出しが終わるまでついて行ってあげる。私の客人なら騙されたり変なもの買わされたりもしないだろうし」
「そうじゃなかったら変なもの買わされたりするのか……」
「そりゃあここは黒魔術の街、誰も彼も新鮮なサンプル……もとい材料、じゃなかった人間には飢えているよ」
「こっわぁ……」
なんて町だここは。スラムか何かか?
「じゃ、行こうか」
「お、おう……」
ーーーーーーーーーーーー
「————これでひとまずは足りるかな」
「4日分の食料ですね」
「風の魔女と話して、帰りは時短できたとしても真っ直ぐ最短でたどり着けるとは限らないしな」
いくつかの店を周り、荷物を入れるためのリュックタイプのカバンと食料、水を手に入れた。
……流石黒魔術の町というだけあって、骨でできた置物のようなものや怪しげな薬など、見るからにヤバそうなものが置いてあったが、スカーレットの言っていた通りスカーレットを見た瞬間違和感を覚えるほどに丁寧に接客してくれた。
まぁ……死の魔女だもんな、普通におっかないよ、肩書き。
「じゃあ出発かな? 行ってらっしゃい」
「あぁ、色々とありがとう」
「どういたしまして。こう長生きしていると刺激も少なくてね、風の魔女が魔女会議に初出席するってイベントが起きるのであれば楽しみにもなるさ」
「努力はしてみます……」
「もう死んでるでしょって突っ込むところだったのに……」
「あっ、そ、その……すんません……」
「緊張を柔げてあげようという心遣いを台無しにしちゃったね? あんま背負い込むものじゃないよ、無理な可能性だって高いんだからさ」
苦笑しながら気を遣ってくれるスカーレット。死の魔女だというのに、これまで会ってきた魔女の中で1番印象が良い、肩書きで判断してはいけないということだな。
「……じゃあ、行ってきます」
「お世話になりました、死の魔女スカーレット」
「また遊びにおいで。今度は姉様と一緒にお話をしよう」
「あぁ、わかった!」
別れを告げて背を向け、歩き始める。リュックに付けたランタンから伸びる光に視線を向け、進むべき方向へと歩みを進めていく。
「目指すは嵐の領域! はぁ、億劫だけど……何事もありませんように……!」
「メグルはここに来てからトラブル続きですね。次もきっと大変な目に遭うと想定しておきましょう」
「やめてくれよユーラフェン……」
足取り軽くとは行かないが、それでもただ黙ってネメアが目的を達し、身体を返してくれるのを待つわけにも行かない。
世界の魔女がどんな目的で俺の世界に向かったのかは知らないが、それをわざわざ別の肉体を借りてまで追ってきたんだ。
下手をしたら命に関わる無茶をするかもしれない、そんなことになって俺の身体が死にましたなんてことになったら目も当てられない。
必ず無事に戻る。そう改めて決心し、それを原動力に俺は旅に向き合うのだった。
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