A.13 死の魔女、魂の本質?
前略、黒魔術の町に来た。
死の魔女と出会った。
「あなたがここに来た理由は?」
「えっと……何から話せばいいか……いや、まずは結論からだな」
俺がネメアの身体に転生だか転移したこと。この世界から元の世界に帰りたい事。世界の魔女のこと。色々と話したいことはあるが、まずは彼女に関係のあることから話すべきだろう。
「とある目的のために魂に関する魔術について知りたくて、黒魔術の町と呼ばれるここに情報収集に来たといったところだ」
「あなたには魂が見えているのでしょうけど、彼の身体はネメアのものなの」
「ネメア? あぁ時空の……倒錯した趣味の一つや二つ持っていそうだし、驚かないけれど」
「いやまぁ理由はちゃんとあるみたいなんだけど、それはそれとして俺は巻き込まれただけだから、元の体に戻りたいんだ」
「ふぅん」
こちらの事情にはさほど興味がなさそうに返事をすると、まじまじと俺の方を見るスカーレット。
「まぁ、魂に関する知識なら私以上に詳しい人は居ないと思う」
「でしょうね。我が師もあなたに黒魔術を習ったと仰っていました」
「まず魂だけど、基本的に魂と肉体は二つで一つ。魂のない肉体は例え健常なものであっても衰弱して死に至るし、肉体の無い魂は劣化していって最終的には自我を失った悪霊になる」
「ふむ……」
「で、例えば肉体に異なる魂が入った場合だけど……原則として拒絶反応を示してそのうち肉体が腐って死ぬ」
「え————」
「はぁっ!? し、死ぬ!?」
まさかの事実に思わず声が上擦る。肉体が異なれば腐って死ぬ。流石にそんな事を言われたら誰だって冷静でなんていられないだろう。
「動かせはしても感覚が違うもの。自分ではないという感覚が魂を歪ませ、魂に引っ張られるようにして肉体も歪む……そういうもの」
「そんな……い、いつそうなるんだ?」
「相性によるからなんとも。翌日からの人もいれば数年後の人もいる。結局のところどれだけ“自分と違う身体”を受け入れられるかによるから」
「俺は……慣れてきたとはいえ違和感がすごいんだが……」
「じゃあそう長くないかもね」
くす、とスカーレットは笑いながら告げる。いや笑い事じゃないんだが。
「冗談よ。時空の魔女だってそれくらい理解しているのだから、何かしら考えてはいるでしょう」
「何かしらって……」
「さぁ? まぁでも私が見る限り魂の状態は正常だから問題ないと思う。歪んでいたりしたら気づくもの」
「……わかった、信じよう。ちなみに元に戻る方法とかは……?」
「あなたの本来の身体を持ってきてくれるのなら私が戻してあげられるのだけれど」
「それは……」
違う世界から肉体を持ってこられるのか? いや……そんなことができるのであればネメアは自分の身体のままあっちの世界に行ったんじゃないのか?
「まぁ、魂をどうにかしたいと思っているのなら肉体は必須。さっきも言ったけど肉体のない魂は劣化していくから、考えもなしに魂だけを切り離すなんてことはしない方がいいよ」
「わかった、ありがとう」
「用件はそれだけ?」
ひとまず当初の目的は話した。魂をどうにかして戻す……という手段は取れなさそうだ。
となれば手がかりとなるのは……。
「世界の魔女について知りたい」
「世界……それはなぜ?」
「俺がこうしてネメアと身体を入れ替えられたのは、世界の魔女が原因だからだ」
「意味がわからないけれど……そんなに話せることは無いよ」
「ちょっとでもいい、知ってる事を教えてほしい」
今は手がかりが一つでも欲しい。頭を下げて誠心誠意頼み込む。
「んー、私と姉様が最後に世界と話した魔女だったかな。3回目の魔女会議だったっけ」
「魔女会議?」
新しいワードが出てきた。魔女会議とはなんだろう。
「魔女が一堂に介して会議する。そのままの意味ですわ。もっとも、必ず全員が出席するというわけでは無いのだけれど」
「世界、闇、風が無断欠勤常習犯」
「私と剣の魔女は忙しくて何度か顔を出せない時期もありましたが、基本的にそれ以外の魔女が集まりますわね」
「大体9人前後の魔女が揃うのか……」
まだ知らない魔女の名前もちらほらと出てきている。
死の魔女、スカーレットは比較的接しやすい方だが、他の魔女もこうであればいいと思う。いや本当に。
「基本的には報告したいことがある魔女が招集をかけたり、新しい魔女が生まれた時に、その子を迎えるために開いたりとか」
「最後に会議を開いたのは絡繰の魔女が誕生した時でしたわね。それからは特に何事もなく……」
「あ、そうだ」
懐かしむように話す2人、ふとスカーレットが思いついたように顔を上げる。
「世界について聞きたいのなら魔女会議を開けばいいじゃない」
「————えっ」
「ですわね。と言っても付き合いとしてネメア、アクア、スカーレットの3名以上に世界の魔女と関わりがある魔女なんて居ないでしょうけど」
スカーレットが提案したのは魔女会議の開催であった。
いや、一瞬俺も思ったが、何もわざわざ魔女を集めなくてもいいんじゃないか?
話を早く済ませるという意味では最も効率的ではあるだろうが……。
「どうせなら世界以外全員集めたくなるね、こっちから開くっていうのなら」
「クォ・ミルならあなたであれば引っ張り出せるのではなくて?」
「あなたの協力ありきだけどね、ねぇ、熱の魔女さん?」
「う……や、やっぱりわたくしは反対……」
「はぁ、相変わらず炎や光ばっか使ってるんだ。自分の力を自分で制限してちゃ困るのは自分自身なのに」
勝手に話を進める2人だったが、スカーレットの言葉にフレイアがバツが悪そうに視線を逸らして縮こまる。
「どうしたんだフレイアのやつ」
「……魔女の二つ名、炎や時空、闇などは本人の自己申告で決まる、と我が師が言っていました」
「そうなのか?」
不思議そうにフレイアを眺めている俺のところへ、ユーラフェンが耳打ちする。
「おおむね自身の司るものの名前をそのままつけるのですが、一部の魔女は力の中でも好みや自己解釈で選ぶことがあるそうで、その中の一人が炎の魔女、フレイアなのだとか」
「……スカーレットの言い方的に、あいつの本来の力は熱そのものを司る……ってことか」
「その通り」
ひそひそと話していたこちらへスカーレットが視線を向ける。どうやら秘密の会話の内容は丸聞こえだったようだ。
「炎の魔女フレイア。司る力は熱と……光。光そのものを自由に屈折させて暗闇を作ることも、熱を奪って絶対零度下にする事もできる」
「————凄いな」
「けどこの子は温度を上げたり、発火や発光しか使わない、勿体無いよね」
「……なんでだ?」
聞く限り時空を操るネメアとも遜色無い様な強大な力だ。なのにそれを制限して使っているという。
当然疑問も湧いて出てくる。
「えっと、それは……」
「あ、悪い。話したく無いなら————」
「いいえ! これは、わたくしの……ただのこだわりでしかありませんの」
少し視線を逸らしながら迷う姿に、気を遣ったほうがいいかと思ったが、フレイアは声を上げて語ってくれた。
「私は領地を……そして守るべき民を持つ身。この力で温かな陽の光と温暖な土地を民に与えてきました」
「領主ってやつか……本当に偉かったんだな」
「わたくしにとって、民にとって炎こそ、光こそが救いの力であり恵みなのです。降り掛かる猛吹雪で陽の光さえ遮られ、ただ生きているだけで凍りつく様な土地に住まう民を率いる私が、光を、熱を奪う様な真似……できませんわ」
……どうやらフレイアの治める土地は相当厳しい環境にある様だ。光の届かない土地……道理で妙にこの町に対して当たりが強かったのか。
黒魔術の町、薄暗く、自ら陽の光を遮る様な建造物やローブを纏い、冷たい青い炎を灯す町。
それがフレイアにとっては自らの領地に重なって見えたのだろう。
「……なるほど。ありがとう、話してくれて」
「いつ聞いても理解できないな。力なんて与えられた役目を果たすための道具に過ぎないのに……」
「……人でなくなったあなたに人間としての情を理解して欲しいとは思いませんわ」
「言うね、呪ってあげようか」
「どうどう……誇りがあるのは良いと思うけど、喧嘩っ早いのは人を率いる者としてどうかと思うぞ? 領主様ならこう、懐の広さとかも必要じゃ無いか?」
言い争い始める2人を嗜めつつ、俺は次の目標を考える。
魔女会議……開くにしてもどうしたものか。
「なぁスカーレット」
「何?」
「俺が元の身体に戻るためにはこれからどうすれば良いと思う?」
「元の身体をもってこい、というのは大前提だとして。んんー……まぁネメア本人を見つけ出すとか。人探しなり資料を読み漁って戻る手段を見つけるとか」
「具体的な方法はやっぱわからないか……」
「……ま、やっぱち手っ取り早いのは魔女会議で直接話を聞くって所かな。ただ、欠席率100%の風の魔女には直接会いに行ったほうが良いと思う。自分が生まれた時の招集にすら応じなかったからね」
「風の魔女……聞くだけで相当な問題児に思えるんだが」
次の目的は……風の魔女に会うことか。呼び出しに応じない魔女……クォ・ミルは引きこもりだとフレイアが言っていた。
では風の魔女はどういう理由で出席しないのだろうか。
「まぁ……頑張ってね」
「えっ、それだけ?」
「わたくしも……お役に立てそうにありませんわ。むしろ……いえ、とにかく頑張ってくださいまし」
「えっ」
何故か急に消極的になる2人。やめてくれよ不安になるだろ。
「えっ?」
気まずい沈黙の中、俺の次の目的が決まった。
風の魔女……一体何者なんだ……?
ESN大賞7応募作品です。
応募期間中はなるべく早く更新頻度を高めて、できる限り書き上げていく予定です!
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