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A.12 目指せ黒魔術の町!

 前略、ネメアの過去を見た。

 どうやらここでの一週間程度が俺のいた世界の一日に相当するようだ。

 そしてネメアがとった休暇は一週間、つまり、大体一ヶ月半と言ったところか。




「っ……はぁ、朝か……」

 何もない(くう)に手を伸ばす。今日はここに来てから初めて静かに目が覚めたような気がする。


「おや、おはようございますメグル。今日は静かなお目覚めで」

「あぁ、おはよう。今日は色々と話したいことができたよ」

「では、お茶を淹れましょうか」



ーーーーーーーーーーーー



「————というわけで、俺がこっちで活動するにあたって一ヶ月半程度の猶予ができた。ネメアはその間にこの世界のことを色々と知れ、と」

「なるほど。世界の魔女……我が師から名前は聞いたことがあります」

「何か情報はあるか?」

「これといって。会ったことも無ければ我が師も多くは語らなかったので。……第一の魔女、この世界を創ったとされる人物で、人前に姿を現すこともなく、世に影響を及ぼすこともない謎多き魔女……一部では彼女は魔女ではなく女神だと崇める派閥が存在するといった程度でしょうか」

「何もわからんってことか」

 夢で見た彼女は神秘的な女性だった。ユーラフェンの白髪よりも銀色のような輝きを持った髪、赤い瞳でもあったしアルビノというやつなのだろうか。


「とりあえず当初の予定通り、黒魔術について調べに行こう。余裕ができたとはいえ早く戻れるならそれに越したことはないんだ」

「かしこまりました。支度をしましょう」

「ちなみに距離は?」

「空を行けば1時間ほどでしょうか」

「……徒歩は?」

「5時間ほどかかりますね」

「こう……気を失える魔術とかないかな……」

「万が一手を滑らせてしまった時にご自分でなんとかしていただく必要があるので。何だったらメグルが自力で飛べばよろしいのでは?」

「……それはー……」

 思わず目を逸らして言い訳を探す。

 わかってる。時間が〜とか言うのであれば手段を選ぶなと言われることくらい。

 けれど怖い物は怖い、地に足つかない感覚とか重力を感じてるのに浮いている感覚とか滅茶苦茶怖いんだ。


「……わかった。我慢しよう……」

「魔術の中では簡単な部類なので今からでもお教えしますよ。何回か落ちると思いますが」

「いや……それは……」

「まぁ無理強いはしませんが。では時間も掛かるので旅支度と参りましょう」

「あぁ、わかった」

 呆れたようなため息を吐かれてしまった。……少し悔しい気もする。




「よし、行くか————」

「ご機嫌よう!」

「————フレイア。いつからそこに?」

 軽い旅支度を整えて玄関の扉を押すと、そこにはフレイアが突っ立っていた。

 朝から元気な挨拶ができて大変よろしいことで。


「30分ほど前からですわね」

「ドアベルとか……無いのか。聞こえるかわかんないけどノックくらいしてくれたら良かったのに」

「えぇっと……そう、ですわね。いえ、ネメアに会いに来た時はいつも襲撃する形が多かったので、こんな改まってお会いするという事に慣れていなくて……」

「殺伐としてんなぁ……普段ネメア以外と会う時はどうしてるんだ?」

「わたくしは会いに行く側ではなく迎える側なので、自ら出向くのはネメアか……どうしてもわたくしが顔を出さなければならない場合のみ、ですのでこうしてわたくしに足を運ばせたことを光栄に思ってもよろしくてよ?」

「うーん上から目線。それはそうと何の用だ? 俺たちはこれから町に向かう予定なんだけど……」

 胸に手を当てながら見事なドヤ顔で語るフレイア。偉そうだけれど言動から察するに実際に偉いのか?

 いまいち魔女とやらの社会的地位というやつがわからないな。


「えぇ、ちょうど時間ができたのでわたくしも町へ向かおうかと思いまして。この炎の魔女フレイアが、あなたの旅路を光で照らしてさしあげます!」

「あー……うん」

「ここは泣いて喜ぶところではないのかしら……? こう、両手を握り、感謝の言葉を並べわたくしを称える……そういう場面ですのよ」

「いや、まぁ……面倒事は起こさないでくれよ?」

「癪に触る言い方ですが、もちろんその辺りは弁えてますのよ」

「ならいいか」

「よろしくお願いしますね、炎の魔女フレイア」

「えぇ、何かあれば存分に頼ってよろしくてよ!」

 自信満々な様子のフレイアを連れ、俺たちのちょっとした旅は始まった。

 と言っても道中は飛んでるだけだし、俺は目を閉じて必死にユーラフェンに捕まっていただけだ。


 ユーラフェンを守れるようになりたいと言っていた男の姿か、これが————



ーーーーーーーーーーー



「はぁ、ひぃ……つ、ついた?」

「えぇ、到着しましたよ」

「情けないですわねぇ……」

 到着する頃にはよろよろと、何もしていないと言うのに疲労感でいっぱいになっていた。

 呆れるように吐き捨てながら隣に降り立つフレイアに言い返すこともできないまま、俺は到着した町を見渡す。


「な、なんか暗い町だな……」

「黒魔術の町ですもの。陰気で日陰者が集まるくらぁい町になりますわ」

「偏見が過ぎる……」

「フレイアの言うことにも一理あります。魂や呪い、霊といった存在と密接に関わる黒魔術は精神に影響をきたす事も多く、生身の人間よりも死者や霊的存在と関わっている時間が多い者も居ると聞きます」

「狂う事も珍しく無い、と」

「人の死体を使ったりもするし、昔から

忌み嫌われる事も多いのですわ」

 そに話を聞いて改めてあたりを見渡す。ローブを深く被った怪しい魔術師といった風体の人間が多く、街灯も青い炎のランプだったり、もはや敢えて怪しく見せているのでは無いかとさえ感じる。


「そういう事情もあって、町や村に居ると墓荒らしをする黒魔術師や拉致事件が起きたりする事もあって、黒魔術を学ぶ人はこの町に集められています。一種の隔離施設のようなものでしょうか」

「隔離施設って、酷い言い方をしますね、呪いますよ」

「うわぁっ!?」

 どこからともなくユーラフェンを包み込むように現れた少女。黒いローブに身を包み、青白い肌をしたその身体は明らかに透けて見えていた。


「あら、ご機嫌よう死の魔女」

「ん、誰かと思えば炎の魔女。この子は時空の魔女の小間使い? 珍しい組み合わせ、時空の魔女が居ないのに一緒にいるなんて」

「? ネメアの事を知ってるのにここに居ないって……」

「君は初めましてだね。この魂は————いえ、男の子……どちらかの彼氏とか?」

「違うわい! って、俺が男だってなんで————」

 まじまじと俺の方を見ながら男だと看過する少女。ネメアでは無いと見抜かれたのはクォ・ミルの時もそうだが、黒魔術に関係する人物はそういうのがわかるのだろうか?


「? だって君の魂は————」

「彼女は幽霊ですもの。物理的な視覚は持っておらず、魂そのものを視ることができますの」

 フレイアが説明する。幽霊、やっぱ透けてるのは勘違いでは無いのか。

 そして当たり前のようにしている辺り、幽霊という存在はここでは非現実的なものではなく、実在するものなのか……。


「……なんだか色々と事情がありそう。来て、用件は私の家で聞くから」

「あ、あぁ……その、君は? 死の魔女って呼ばれてたけど……」

「私はスカーレット。そこのフレイアと同じ魔女で、この町のー……管理人みたいばもの」

「街の管理人?」

「私は死そのものだから、黒魔術に関して色々と融通を利かせられるの。だから黒魔術を学びたいって人をここに集めて、必要な知識や資材を用意してあげる代わりに面倒事を起こさないっていう条件で住まわせてあげてるの」

「そして面倒事を起こした人……要するに黒魔術を悪用したり、黒魔術のために他人に害をなす人物を死に至らしめると言うのが彼女の役割。とんだディストピアですわね、姉と大違い」

 死の魔女、スカーレットに連れられるまま町の中を歩いてゆき、彼女の役割について説明を受ける。

 死を司る幽霊少女、単純に考えたら直接的な死を与えられるという意味ではネメアよりもよっぽど最強の魔女っぽいが。


「姉様は生命を司っているもの。みんな命の誕生には祝福を贈るのに、旅路の終わりには怯えて遠ざけようとする」

「……誰だって死は恐ろしいものですわ。だから私たちは不死をまず手に入れる。死という概念そのものであるあなたも、そういった意味では不死の存在でしょう」

「そうかもね。けれど私は存在していたいからこう在るわけじゃない。命の生まれを祝福する人がいるのなら、終わりを迎えた命に「お疲れ様」と祝福を与える存在も必要だと思ってるだけ」

 話をしている中で妙にフレイアが否定的な反応を示していた。死に対する忌避感だろうか?

 死が怖いという感覚自体はわかる。俺も祖父を亡くした時に死が恐ろしいものだと感じたから。


「ここよ、私のお家」

「ここが————」

 たどり着いたのは鳥籠のような建物だった。蒼炎を灯し、黒銀の檻の中へと案内されると、部屋の中心に丸テーブルと椅子が置かれたシンプルな部屋があった。


「殺風景だと思うけどごめんね、飾っても私には意味がないから」

「あぁ、いや、大丈夫」

 家具らしい家具は椅子と机だけ、生活感の欠片もないが、むしろそれが一層不気味な雰囲気を際立たせている。


「さぁ、あなたのお話を聞かせてくれる?」


ESN大賞7応募作品です。

応募期間中はなるべく早く更新頻度を高めて、できる限り書き上げていく予定です!


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