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第7話「脱出」

「サリサさん。その節は大変お世話になりました」


灯りのせいか、カミラは以前よりも肌が白く感じるが幸せに満ちた笑顔を4人に向ける。


「こちらこそぉ。ご結婚おめでとうございます」


サリサは不自然なまでに受付嬢トークでカミラと接する。


「よかったらお相手の方との馴れ初めを私たちに教えてください」


カミラははにかんだ笑顔で答える。

「なんだか照れるわ。でもせっかくだし教えちゃおうかな」


満更でもないようだ。


「私、パーティー追放されてからひとりぼっちになっちゃったでしょ?

戦闘スキルもないし困ったけど、廃ダンジョンのモンスター駆除なら弱いモンスターばかりだし私にもできるかなって思って

思い切ってはじめたの」


「廃ダンジョンの駆除ってなんだ?」


ヴィルはサリサのうしろに隠れるようにして質問する。


「廃ダンジョンって言っても放置しておくと新しいモンスターが棲みつくのでボス化しないうちに定期的に冒険者に駆除を依頼しているんです」


「はじめはスライムばかりでとても倒しやすかった。あれって杖で叩くだけで倒せちゃうからとても楽だった。

これならしばらく生活に困らないなぁなんて調子に乗っちゃって。そしたら背後に強いスライムがいるのに気が付かなくて。

やっぱ油断しちゃダメねぇ。スライムが飛びかかってきたら反撃できるような態勢じゃなくて。おもわず“あぶない”って身体すくめたら

彼が颯爽と現れてスライムを一撃で倒してくれたの」


「頼もしい彼氏さんですね」


「サリサさんもそう思うでしょ! そのときから彼に会いたくて会いたくて毎日このダンジョンに通うようになったの。

これが恋ってやつかしら。はじめてだからわからなくてーー」


「彼ってどんな方ですか? よかったら私たちにも会わせてください」


「待ってて。彼、恥ずかしがり屋さんだから聞いてみるね」


そう言ってカミラは目をつぶってコクリコクリと頷く。


「うんうん。彼もみなさんに顔を見せたいって」


カミラが明るい方へ徐々に近づいてくるにつれてヴィルとマークとリシリーの3人の顔が恐怖に歪んでくる。


「ところで彼氏さんってお仕事なにされている方ですか?」


「へへ。“ダンジョンのボス”」


「んーー」


カミラはウェディングドレスのような白い装束に身を包んでいる。


だが、彼女の下半身は大型の蜘蛛となっている。


「おいおいっ!」


恐怖のあまりサリサに後ろから抱きつくヴィルは、あまりの怖さゆえにサリサの服を胸ごとしっかり鷲掴みにして離さない。


「どこ触ってんのよ!」


サリサの肘打ちがヴィルの腹部にダメージを与える。


「今そこ大事?」と、しゃがみ込んで悶えるヴィル。


「いったいあのモンスターはなんだ!」と、マークはカミラに剣を向ける。


「武器をしまって!彼女たちに戦闘の意思はないわ」


「じゃああのモンスターは?」


「あれはスパンチュラス。求愛したオスはメスと同化することで交尾するモンスターよ。

だから、あの2人は本当に結ばれているの!」


「いったいなんなのよッ!」とリシリーは悲鳴をあげてその場にしゃがみ込む。


「私たち。魔力の波長がとてもあうの。こんなに見事に一致する方に出会えたのは本当に奇跡」


「それはよかったですね。ヒューリックさんもここにやってきてお2人になにかお祝いを」


「そうだったわね。ヒューリックはなぜだか私に土下座をして現れたわ。あれはなんだったのかしら」


ヒューリックは街中を駆け回りカミラが廃ダンジョンに頻繁に出入りしているという情報を掴んで一目散に最下層までやってきた。


マークたちに打ちのめされたヒューリックは『俺にはカミラが必要だと気づかされた』とダンジョンの石畳に頭を打ちつける。


ヒューリックには打算がある。


カミラを連れていれば他の上級冒険者たちは自分のことをぞんざいに扱わない。


結婚してしまえばなおのこと。


都合のいいことにカミラは執着するほどに自分に恋心を抱いている。


本来ならば血統のわからない孤児と貴族の人間が結婚することはありえないし、


たとえ遊び目的だとしても交際したりしない。


しかし、価値があれば話は別だ。とにかくカミラを手に入れれば俺は成り上がれる。


ヒューリックの目にはもはやカミラはひとりの女性ではなく、レアアイテムにしか見えていない。


「よかった。私、ヒューリックに会って話したいことがあったの。私、彼と結婚したのよ」


「はッ!」


カミラの言葉に思わず土下座の態勢のまま顔をあげる。


目の前には大型の蜘蛛。


「わあああああッ!」


ヒューリックはお尻を地面につけた状態で後退りする。


「カミラ、カミラお前、ずっと俺のことが好きだったんじゃ⋯⋯」


「ああ。ヒューリックって出会ったときから色白で細身だからなんだか弱そうで守ってあげたくなっちゃって。

かまってあげすぎたから勘違いさせちゃったかな⋯⋯」


「は?」


「ヒューリックの気持ちは嬉しいよ。だけど、私も素敵な旦那様見つけっちゃったから。テヘヘ」


ヒューリックはカミラの目線の先に視線を落とすとカミラがモンスターと一体化していることに気づく。


「か、カミラ下半身⋯⋯」


カミラは「うんうん」と、コクリ、コクリと頷く。


「彼がね。そんなに私といたいならいい方法があるって。なんだろうね」


暗がりから小型のスパンチュラスがゾロゾロやってきてヒューリックを取り囲む。


すっかり腰を抜かしてしまったヒューリックは叫ぶことしかできない。


「お前たちはなんなんだ!近づくな」


「ヒューリック、この子たちは私と彼の間にできた子供たちだよ」


「やめろ!やめろ!」


スパンチュラスの子供がいっせいにヒューリックに飛びかかる。


スパンチュラスの意図を察したカミラは右手をかざしてヒューリックをワープさせる。


残ったのはヒューリックの肉片とおびただしい量の血液ーー


***


「とても哀しかった⋯⋯だから彼にはよく怒っておいたよ。私の仲間を子供たちに食べさせちゃダメって。はじめての夫婦ゲンカ⋯⋯」


「いったいなんなのよ。あんたたちッ!」


リシリーは両手で頭を抱えながら叫んだ。


「もうこんなところにいられない逃げましょう。マーク!」


そう言ってリシリーはマークの手を引っぱってその場から走り去る。


「ちょっと待って! ダンジョンの中は今、危険!」


カミラは走り去るリシリーたちに忠告をする。


「どういうことですかカミラさん!」


「子供たちが成長期を迎えてこれから“スタンピード”がはじまるの。興奮した子供たちは私にも止められない。

だから、私の力でワープさせて脱出させたかったの」


***


「一体なんなのよ。なんなのよ⋯⋯」


と、ぶつぶつと繰り返しながら肩をいからせて歩くリシリー。

追いかけてきたマークはそんな彼女をなだめるようにうしろから抱きつく。


「いったん落ち着こうリシリー」


「今、そんな気分じゃない」


「落ち着いて考えるんだリシリー。スパンチュラスは報酬の高いモンスターだ」


「なるほど。いい考えね」


「ヒューリックの弔いと称して仲間たちと狩り尽くそう」


「カミラを殺したって誰も罪に問われない」


「借金だってすぐチャラさ」


ニヤニヤと笑いあうリシリーとマークの目の前に大量の紅い光の玉が出現する。


2人が武器に手をかけるまもなく飛び出してきた小型のスパンチュラスたちがリシリーとマークの身体を貪り食べる。


***


『ぎゃあああッ!』というリシリーとマークの悲鳴がサリサたちのところまで轟く。


「なんなの⁉︎」


「はじまったようです。子供達のスタンピード」


「サリサ逃げろ!上からだッ!」


ヴィルの叫び声に天井を見上げるサリサ。反応が遅れて反撃の態勢が取れない。


ヴィルはそんな彼女を突き飛ばして剣で弾く。


「ヴィルッ!」


その場に倒れたサリサはヴィルの方を見上げると剣を構えてスパンチュラスに立ち向かおうとするヴィルの横顔がいつもより凛々しく見えた。


スパンチュラスは反撃で炎を吐く。


ヴィルは予想外の攻撃にガードするも服の袖に引火。


「ヴィルッ!」と、叫んで立ち上がったサリサが手で払って消化するがヴィルの右腕に皮膚は赤く爛れてしまっている。


「まだこれなら治癒魔法で治せる。早く脱出しましょう」


サリサはヴィルに肩を貸して出口を探す。


するとサリサとヴィルの背後に緑色に輝く大きな魔法陣が現れる。


「サリサさんたちが子供たちと殺し合う姿は見たくないの。これでお別れです。

私たち家族はこのダンジョンで静かに過ごしたいの。そっとしておいてくださいね。

それじゃあ。さよなら」


カミラの目から一筋の涙が伝うと、魔法陣はサリサとヴィルを飲み込む。


***


眩しい光が消えて目を開けるとそこはダンジョンの入り口。


“ハッ”としたサリサはすぐさまヴィルの右腕を見やる。


目をギョロギョロと動かしてケガの具合を確認する。


「⋯⋯治っている」


袖は炎で焼かれて残っていないが腕もなんともない。


「カミラだ。きっとワープするとき俺に治癒魔法をかけたんだ」


「よかったぁ」と、サリサはヴィルを抱きしめて涙を流す。


「おいおい。恥ずかしいだろ」


「いいじゃない。生きてたんだから」


そしてダンジョンの入り口は轟音とともに地中に沈んでいったーー

***


数日後ーー

冒険者ギルドには似つかわしくない高級な馬車が再びやってくる。


ギルドの入り口の前で受け取った報酬を分配している冒険者パーティーを甲冑を身につけた大柄の兵士2人が払いのけて、

赤い絨毯を広げる。


馬車から降りてきた領主ヴィルテイト・リーベルトは赤絨毯の上を悠々と闊歩しながら、

サリサが事務仕事をこなす、受付窓口へ進み出る。


カウンターの上に次から次へと金貨が詰まった重量感のある白い皮袋を並べる兵士たち。


「これは追加の報酬だ。サリサよ」


「ではこれから数えますので30分ほどあちらの席でお待ちを」


「おいおい待て待て!死戦を2人で乗り越えてきたのにその事務的な受け答えはなんだ!

他人行儀が過ぎないか」


「他の冒険者さんたちに迷惑ですので騒がないでいただけますか?」


ヴィルはサリサの目を見やると諦めたように笑う。


「致し方ない待つとしよう」


サリサはマリーとロザリー手伝ってもらって重たい革袋を全部別室に運び込む。


テーブルの上に金貨をひろげて一枚一枚数える。


一見すると集中して数えているサリサだが頭の中は別のことに意識が向いている。


(ヴィルは私を庇うとき手にしていた剣は納めていた鞘より短い短剣だった。

しかも女性用⋯⋯火傷したヴィルの腕を確認するとき素手が顕になっていた右手の掌には短剣が貫通して刺さったような傷が。

交際していた女性に剣を向けられた経験ーーヴィルが手にしていた剣は柄の部分こそ違うけど確かに行方不明になっているティナーシャ姫の剣)


黄金の装飾と純白の壁に囲まれた空間。


腹部から血を流して倒れているティナーシャ姫。


あたりを見まわしながらドアを開けて入ってくる甲冑を着て腰には大型の剣を携えて髪も腰まで伸びていた頃の過去のサリサ。


サリサは倒れているティナーシャ姫を見つけると「姫ッ!」と叫びながら駆け寄って姫を抱き起こす。


ティナーシャ姫はサリサの頬にそっと手をそえて掠れた声でサリサに別れを告げる。


「サリーヌ・サシャーサ。あなたはあなたの人生を生きて⋯⋯」


サリサはティナーシャ姫の最期の言葉を思い出し、ヴィルが待つ窓口へ。


「お待たせしました。確かに100万ゴールドいただきました」


「そなたの活躍見事だった。また依頼があれば頼むぞ」


「またまたご冗談を」


「安心しろ俺は困ったことがあればすぐにでもここに駆け込むぞ」


(やはりこの女の観察眼は使える。俺のよき相棒になれる)


(ヴィルテイト・リーベルト。この男は姫様の仇。いつか私がこの男を殺すッ!)


「領主様、冒険者ギルドの窓口で謎解きの依頼はおやめください」




感想やブックマークそして☆ ☆ ☆ ☆ ☆で評価をしていただけると

本当に励みになります。

何卒よろしくお願いいたします。


いったんシーズン1で完結です。


シーズン2ができましたらまた再開します。

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