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姉妹①

「……良かったの? あんな感じで。余計なお世話かもしれないけどさ」


 選んだ道を正解にする。

 そんな使い古された慰め文句をダシにするわけでもないが、もはや正攻法にこだわるフェーズは過ぎ去った。

 無論、あぁも最後まで俺たちを諦めずにいてくれたばかりか、その先の生活すらも慮っていくれた人の気持ちを、半ば足蹴にしたことについては些か後ろめたさがないでもない。

 間違いなく。

 俺たちから正当性が奪われ、名実ともに犯罪者として社会から吊るし上げられることを一番恐れていたのは、他でもない神取さん自身なのだ。

 だからこそ、俺はどんな手段に訴えてでも、この選択肢を正解にしなければならない。


 ところが、昂貴はそんなこちらの事情など、一切気にも留める様子はない。

 そればかりか、やっとの想いで漕ぎ着けた俺の決意に水を差すかのように、一丁前にお節介を焼いてくる。


「……本当に余計なお世話だな。これが俺たちの最適解なんだよ。何も分かってねぇクセに、いらん気ぃ遣うなっての」


「……ふーん、そ。まぁどうでもいいけど。で、なんだったっけ? クーデター? ボクが言えることじゃないけど、キミも随分思い切ったこと考えるね」


「思い切ってんのは連中の方だろ、むしろ。……つーか、ナニ他人事みたいに言ってんだよ。念のために言っておくけどな! 俺の()として使われて終わりだと思ってんなら、大間違いだぞ? 何のために神取さんと別れたと思ってんだ。少なくとも、二階堂さんの分の訴状は上がってるんだからな。全部片付いた後は、ソッチはソッチでケジメつけてもらうぞ」


「へいへい、分かってるよ。大体そのツケも、キミの計画ってヤツを成功させなきゃ意味ないんだろ。そんで……、結局この先、どうするつもりなの? 具体的にさ」


 昂貴は諦めるように溜息を吐き、聞いてくる。

 ここからが本題であり、俺の描く『理想』を実現する上での第一歩だ。

 それも、崖際にまで追いやられた『持たざる者』が、確たる勝算もないまま、全てを擲つ途方もないギャンブルになるのだろう。

 昂貴から説明を求められ、改めてそれを思い知らされる。


「……そうだな。まず不幸中の幸いとでもいうか、諸々のゴタゴタもあって、新井の依頼は、形式上未だに完遂していない。差し当たっては、それを利用させてもらう。今度こそな」


「へ? アタシの依頼?」


 そう言って新井は顎に指を当て、首を傾げる。


「そもそもの話だ。ヤツらは、俺がどう転んでも良いように手を打っていると考えるのが妥当だ。でなきゃ、こうして俺と昂貴が繋がるのを黙認しているはずがない」


「だね……。ここまで何かヤケにアッサリしてたしね」


「あぁそうだ。だから恐らく、宇沢さんの動きもある程度は割れてるだろうし、昂貴がこちらに付くことも含めて、連中のシナリオの範疇だと考えた方がいい。つっても、宇沢さん自身はソレを承知の上で、行動しているフシはあるけどな」


「それは確かに……、そうかもね。でも、それなら何でアタシの依頼を利用するって話になるの?」


「まぁ一言で言えば、目くらましだな」


「め、目くらまし?」


 俺の返答に、新井は一層怪訝そうに目を丸くさせる。


「考えてもみろ。今、俺たちへの監視は最大レベルになっていると言っていい。どこで何しようが筒抜けと考えた方が無難だ」


「確かにそうかもね」


「そこで、だ。まずヤツらの注意を分散させようと思う。お前の依頼を利用してな」


「……言っておくけど、これ以上キミたちに提示できるような情報はないよ。さっき散々話したこと、アレがボクの全てだ。ボクがキミたちの計画に貢献できることなんて、ほとんどないと思うけどね」


 昂貴は、ガサガサと頭を掻きながら、念を押してくる。

 

「そんな卑屈になるなっての。今からアンタが出来ることなんてヤマほどある。まずはだな……」



「あ、あのさっ! サトル……、ちょっといい、かな?」



 俺が具体的な方策を話そうとした、その時だった。

 突如、里津華が口を挟む。

 気もそぞろと言った具合に、碌に目も合わせず、前髪の毛先を指で弄くりながら、チラチラとこちらの様子を窺っている。

 いつかのフリ姉を彷彿とさせる仕草に、二人はどこまでいっても姉妹なのだと、場違いな感傷が湧いて出てくる。

 ただ、その怯懦(きょうだ)な態度を見る限り、ここまでの俺の手前勝手な話に言いたいことの一つや二つ、あるようだ。


「里津華……。どうした?」


「え、えっと……、リッカはさ! この話、聞いてていいのかな、なんて……」


 語尾も定まらず、いつになくおどおどとした様子だった。

 そんな里津華の姿を見て、ここまで彼女を置き去りにしてしまった罪悪感が、漸く芽生え始める。

 ただでさえ、里津華は今現在、考えるべきことが多すぎるのだ。

 配慮が足りず、何も知らない彼女に気を遣わせてしまったことについては、俺自身多いに反省すべきだろう。


「その、悪い……。出来れば出ていってもらった方が、いいかもしれん」


「……そっか。だよね」


「すまん……。それとな。お前とフリ姉には、後で話がある。コッチの話が一息ついたら、また連絡する」


「うん。分かったよ。じゃあお姉ちゃんに言っておくね。じゃあ……」


 里津華はそう言って、律儀に昂貴や新井に小さく会釈し、静かに応接室から出ていった。

 去り際に見せた里津華の表情は、酷く青白く沈んでいて、これから起こり得る残酷な現実を本能的に感じ取っているかのようにも見えた。


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