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醜悪②

「いやあ! まさか入社一月にして、新規開拓とは! やはり私の目に狂いはありませんでしたね! よっ! ()()!」


 釈然としないこともある。

 むしろ、釈然としないことだらけだ。

 その中でまず真っ先に挙がるのは、()()()()だ。

 というのも、フリ姉との一件以降、田沼さんは俺のこと『後継者』などと囃し立ててくるが、近頃特にその頻度が増えてきた気がする。

 それこそ外堀を埋めるかのように、事あるごとにやたらと俺を持ち上げてくる。

 疑心暗鬼が極まった今では、ああいった軽口の一つ一つが既成事実化を目論む彼女の策略のように聞こえ、心がざわついてしまう。


 無論、ソレは飽くまで俺の個人的な見解であり、被害妄想だ。

 少なくとも、今、議題に挙げるべき問題ではないだろう。

 というより、今()()を確定させてしまえるほど、俺の覚悟は据わっていない。


 当面の問題は、向かいの応接用ソファーでどこかよそよそしくしている石橋だ。

 『依頼がしたい』などと事務所に転がりこんだまではいいが、いつものようにエントランス越しに待ち伏せしていた田沼さんの姿を見てからというもの、さしもの石橋と言えどこの調子である。


 石橋が警戒する気持ちは分かる。

 というより、正常な感覚が機能していたら、警戒して当然だ。

 だが、向こうに多少の認識があったとは言え、俺と石橋はほぼ初対面と言ってもいい。

 そんな彼の周辺事情など一切預かり知らぬ状態で、アレコレ勝手なことを宣うわけにはいかないだろう。

 現状、何を判断するにしても、石橋の話を聞くしかない。

 きっと、腑に落ちる()()はあるはずだ。

 一見、全てを手に入れたかのような石橋が、実際にこうして依頼に訪れたからには、()()()()()込み入った話が始まるのだろうから。


「おいっす、イシバシ! 久しぶり……、じゃなくて初めましてか! はは!」

「うん。新井さん、だよね。よろしくね」


 新井は、適当極まりない挨拶をする。

 石橋も石橋でそれを全く気に留める様子はなく、お得意の胡散臭い笑顔で応戦する。


「にしてもオギワラが、イシバシと面識あったのは意外だったわ! キャラ的に、接点とかなさそうだし!」

「そんなことないよ。荻原くん。スゴく()()だから」

「マジ!? 聞いた!? 良かったじゃん! オギワラ、人気者だって!」


 石橋の言葉に、新井はルンルン顔で俺を煽り散らかしてくる。

 新井は軽く言うが、その()()の方向性次第で最近になってようやく沈静化してきた()()()が再燃しかねないことを、彼女はまだ知らないのだ。

 それこそ、俺の現状が劇的に変わってしまうレベルで……。


「……あぁそうだな。生きてりゃいいことあるもんだな。嬉しいサプライズだ。……つっても、俺としては石橋がココの存在を知ってたことの方がサプライズなんだけどな」

「それは確かに! チサさん。ココってそんなに知名度高いんですか?」

 

 新井が聞くと、田沼さんは大きな溜息を吐く。


「チッチッチッ! 新井さん。ナメてもらっては困りますね。我が社は大々的に広告を打っているわけではありませんが、追い詰められた弱者の最後の拠り所として、一部界隈では()()()()な人気を誇っているんですよ!」


 わざとらしく人差し指を振るジェスチャーで応える田沼さんを前に、石橋は全力で苦笑いをする。

 それにしても、彼女の言う『カルト的』が文字通りの意味にしか聞こえない。

 

「もうちょいマシな言い方なかったんすかね……。まぁソレで言うなら、石橋が何に追い詰められているのかは気になるところですが……」

「まぁまぁ、荻原さん。そう結論を急がずに。時に石橋さん。あなたの依頼をお聞きする前に、一つ私の方から伺ってもよろしいでしょうか?」

「は、はい。何でしょうか?」


「あなた、整形手術をされていますか?」

 

 田沼さんはがそういった瞬間、時間が止まった感覚に襲われ、咄嗟に口を噤んでしまった。

 俺が気を取り直した頃には、石橋はこれ以上ないほどにその端正な顔を引つらせていた。


「出会い頭になんつぅこと聞いてんすか……。一応言っておきますが、『おかしな人』って言葉は万能の免罪符じゃありませんよ?」

「そ、そうですよ! 流石にそれは……」

「『おかしな人』とは心外ですね〜。それで……、どうなんですか? 石橋さん」


 俺や新井の制止をものともせず、田沼さんは石橋に詰め寄り、グッと顔を近づけ、そのまとわり付くような視線を浴びせる。

 そして、観念したと言わんばかりに石橋は……。


「はい……」


 頷いた。


「え……。マ、マジで?」

「その……、何かすまん」


 真意の程はともかく、俺は申し訳ない気持ちで一杯になる。

 対して、その()()は鬼の首を取ったかのような、満足げな笑顔を浮かべていた。


「それで……。本日お越しいただいたのも()()に端を発している、ということでよろしいですか?」


 石橋を看破し、一層弾みがついた田沼さんは、前のめりに問いかける。

 彼はそれに屈するように、小さく首を縦に振った。


「では、聞かせていただけますか? あなたの『不幸』を」



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