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6話 心の内

 落ち着いていた陽斗の様子が一変した。

「おいおい、なくなるっそんな話聞いたことないぞ」

「そうね、なぜACCHがなくなるのかもわからないし、あなたが思ってるほど弱くわないわ」

 陽斗の言葉に大城が便乗した。

「簡単な話だ。日科研がつくる人工生命体が手に負えなくなるほど強くなっているからだ」

「...確かに、あいつは強かったわ。でも、私たち二人だけだったからよ。先輩たちが出撃すれば、倒すことができるわ」

「どうかな...少なくとも"月光"にわたる予定だった。ということは、量産も不可能ではない。さらに、厄介な能力をもってる...。君達ではもう手に負えなくなるぞ」

「で、でも、どうして日科研はACCHをなくしたいのかな、蓮夜?」

「...派閥か。正確には解体したいってことだな」

 答えたのは蓮夜ではなく陽斗だった。

「ACCH内はしっかりと派閥が存在している。ていっても、上層部同士だけなんだが、それはもうバチバチしてんだ。その中に肩入れしている奴がいてもおかしくねぇが。だが、なぜだ?なぜ派閥争いに入ってくるんだ?」

「ちょ、ちょっと待って、話についていけてない。そもそも、なんで派閥争いがあるなんてわかるのよ。それにそれだけでACCHはなくなることはないでしょ!」

「...わからないやつはみんなそう思う。けど、派閥争いは実際に起こっているし、そもそも二人があの大男に襲われた理由がわかっている?」

「...わからないわ」

「僕は今日、日科研と月光の取引を実際に見に行ったんだ。そこであの大男が運び込まれていた。この意味わかるか?」

「...はっきり言っていほしいわ」

「...なぜ、君たちを襲いたんだ?」

「...」

 大城はやっと気づいたようだ。

 陽斗と凛はもう気づいていたのか、あまり驚いた表情はしなかった。

「...どうしてかしら」

「君の優秀な成績を見たやつが、早めに消しておくべきと判断したんだろう。この任務を出した人って誰だ?絶対に知っているはずだ。」

「...ちょっと待って、たまたま私たちが狙われたとかじゃないの?」

「いいや、違う。そもそも君たちがいたところからは少なくとも10キロは離れてんだ。その前に他のところで被害が出ているはずだ。だが、街にはなんも被害がなかったんだ」

「だったら、なんで私たちを任務に向かわせる必要があるのよ!始末するなら別に任務じゃなくても、」

「あ、あそこでやった方が何かと人目に付きにくいからじゃないかな?私たちが任務を失敗したっていえば、わからなくなるから...」

 凛が答える。

「...そうだ、魔獣がいたみたいだしな。普通の人はまず近づかない」

「...死因を偽装しやすくなるってことね」

 大城が納得したような顔をする。

「まず、誰が君たちに行くように命令したんだ?」

「......山中律っていう人よ」

「まさか!!」

 陽斗がかなり動揺している。

「...別に任務を伝えた人が殺しを要求した奴らと無縁の可能性もあるだろう。そう動揺する必要はない、陽斗」

「ああ、だが、あいつが、な...」

 陽斗は何か考えているようだが、さっぱりわからない。

「そういことで、大城君。君に協力してほしいことがある」

「...ずっと言ってるでしょ。あなたたちとは協力しないって!」

「君の安全を保てるのはACCHじゃない。今の話で分かっただろう。それに僕は君に頼みたいのはそう難しいことじゃない。ただ、動きを見ていてほしんだ」

「動き?」

「そう、ACCHがやろうとしていることを僕たちに伝えてほしんだ」

「それを伝えて、あなたたちは何をする気なの?次第によっては、あなたたちの命がなくなってしまうわよ」

 大城がにらみつける。

「そんなことはできないさ。それに命がなくなるのは僕たちじゃないからね」

 そもそも僕は命という概念がほぼないみたいなもんだ。

「...わかったわ。乗ってあげる。でも条件がある」

「なんだ?」

「もし、私たちが助けを求めていたら助けること。それと魔獣の討伐を手伝うことよ」

「...そんぐらいなことならいいじゃないか?蓮夜」

「...金がついてくればいいがな。いいよ、それでいい」

 これで交渉はうまくいったというところか。あとは僕たちの頑張り次第って感じだな。

「あ、それと今のことは誰にも話すんじゃないぞ。そもそも、僕とあってる時点で君まで疑われることになると面倒だからな」

「わかったわ。行くわよ、凛」

「う、うん」

 二人は扉を開けて出て行った。最後に凛が手を振りながら。

「陽斗、わかっているよな」

「ああ、ていっても半分ぐらいしかわからなかったが、結構な名演技だっただろ。さすがの俺様も見入ってしまうほどに」

「そんなに大げさじゃなくてもよかっただろうに。ちなみにどこまで知ってたんだ?」

「日科研が目に付けたのは凛ちゃんだけだろ。それに襲わせるタイミングは今日じゃなかったってこと」

「そこさえわかっているなら説明する必要もないな」

「というかひどくないか?エリちゃん、結構純粋そうな感じな子だったんだがな」

「関係ないだろ。何かの拍子で凛のことをばらされたら困る」

「俺らの方についてるってことか?それならもうとっくに気づいているだろ。それとも、日科研の実験体ってことか」

「まあ、そんなところだよ。奴らがいつ仕掛けてくるかわからないし、さっさと月光に話を聞きに行った方が早いとは思うが」

「勝てるかどうかわからない、ね。まあでも、今回も()()()()()()みたいじゃないか」

「そうだな。でも、死ねないことは今は重要じゃないさ。それに僕は果たさないといけない約束が残ってるんだ」

「はは、まあ、頑張れや。あ、それと月光の居場所をどうやって突き止める気だ?まさか凛ちゃんたちを巻き込まないようにしないと、ロリコン失格だぞ」

「なぜ、あの二人が出てくるんだ...。まあ、待っているうちに奴らからやってくるさ。ほら、今そこにちょうど手紙が」

 扉の前に一通の手紙が落ちていた。今入れられたばっかりだ。

「...なるほどな」

 陽斗はふっとにやけた笑いをした。


  一時間前

 廊下を歩く。腰が重い。あいつ押さえられたときにやったのか。

「あいつ、どんだけ力強いんだよ」

 あの赤水とかいう間抜けを絞めないと到底この怒りは収まる気がしねーぜ、クソが。

 どうしても抑えられない怒りを抱えながら最深部にある扉を開ける

「今戻りました」

 扉を開けると長い緑の髪をおろした人が立っていた。やっぱり迫力は段違いだ。

「カイ君、ずいぶんと遅かったね」

 笑っているのに圧がすごいな...。

「すいません。ターゲットと接触しましたが、捕獲できませんでした」

 はなからするつもりはなかったが、生き返るとは思わなかった。

「...次はしっかりと捕獲したい、次は私もついていくことにするわ。今のうちに手紙を渡すように言ってあるから、その時にでもその怒りを晴らしたらどう?」

「わかり、ました」

 会釈をした後、扉を閉めて退出する。しばらく廊下を歩き自分の部屋に入る。

「やあ、カイ君。君、任務ミスったんだって?いやーまさか天下のカイ君がミスることがあるなんてな。今日は記念にパーティーを開催しないといけないな?ねぇ、赤水に負けて逃げてきたカ、イ、君」

「黙れ、メイ。お前はなんか勘違いしてるようだが、俺は別に奴から逃げるのには理由があるんだよ」

 本気の殺気を彼女に向けた。

 しかし、全く動じることはなく彼女は答えた。

「ほお、それはなにとぞ。聞かせてくれたまえ」

「相性が最悪だったからだ。性格も、能力もな」

「なぜ能力で負けちゃうの?魔法も使えばいいのに?それって何?プライド?!あっははは。笑えるよ。そういえばカイ君は魔法が得意ではなかったね。ごめんごめん、すっかり忘れていたよ」

「うるさい。俺はそもそも長期戦向きな能力じゃないんだよ」

 彼女がすごく君の悪い笑いをする。思わず引いてしまった。

「あとは情報だ。お前はそういうところがかけているせいで状況判断ができないから、あの人に怒られるんだぞ」

「あの人?あー瀬戸川さやさんか。でも状況判断するほど相手が強くないってことだよ。あと、君結局逃げたことを認めたってことは負けたってことなんだね」

「はあ、ああ、そうだクソったれ女が」

「あっははは、今日のパーティの主役は君だからね絶対に来てね。このパーティーに来ることは強制だから、来なかったら無理やり連れていくからね」

「いかねーよ。クソ女」

「はいはい、じゃあ後でね」

 そしてそいつは部屋から出で行った。

「本当に連れていく気かよ。...とりあえず、着替えるか」

 服を脱ごうとしたとき、ベットに座った時に急に眠気に襲われた。

「クッソ、もう限界だったか」

 そして、目をつぶった。


 ACCH戻った後、一応けがを見てもらったが、結果は何もなかった。やっぱり陽斗さんのあれはすごい能力を持っている。山中は安堵した様子で話しかけてきた。しかし、蓮夜が言っていた言葉が頭の中で駆け巡っているせいで、何も頭に入ってこない。

「...ということで君たちは昇進だ。いきなりすぎて僕もびっくりだよ」

 ...どういうこと?

「お褒めの言葉、ありがとうございます。凛、行くわよ」

「え、あ、う、うん」

「つれへんなぁ。まぁ、お二人さんゆっくり休みやー」

 エリちゃんに手を引っ張られて、寮の部屋に入った。

「エリちゃん聞きたいことがあるんだけど」

「...何?今考え事としてたから」

「なんで私たち昇進したの?」

「聞いてなかったの?昇進したのは青火先輩が江口さんに直談判したらしいの。今回の任務を完了させて帰ってきたら昇進させるということをね」

「あの、江口さんって誰?」

「...はあ、ACCHの最高責任者よ。覚えておいて」

 エリは少し呆れた表情をしながら言った。

「つまり、命令を出したのは中山先輩ではなく青火先輩ってことになるわ。でも、あの人がそんな人には思えないのよ」

 なんで悩ましいような顔をしているのかやっとわかった。でも、青火さんに何かあるのだろうか。昔に何があったのだろう。

「もう寝るわ。疲れたし、凛も早めに寝てよね」

「うん分かった」

 いつの間にか着替えている。エリは布団に入って寝るようだ。私も寝る準備をしよう。


「はあ、憂鬱だ」

 一週間後の早朝、陽斗の店に来て、席に着いた瞬間、陽斗らしからぬ言葉が聞こえた。

「なんだ陽斗。いやな夢でも見たのか?」

「その通りだよ。全く、見たくなかったぜ。思い出したくもない」

 陽斗が明らかな嫌悪感を示した顔をした。

 きっと彼女のことでも思い出したんだろう。あの事件は陽斗にとって人生の分岐点となった時だったし...

「今度はお前も見るようになるのか?そしたらお前も僕の仲間入りだ」

「はあ?俺はまだ、お前ほど立派な過去をもってねーわ。俺は今はただの"一般人"だからな」

「お前の能力は..."変化"であってたっけ?それもだいぶ凶悪だと思わないか?少なくとも一般人がそんな能力持ってない」

「条件があるんだよ。5本指で触れないといけないっていうのがね。ほらよ、コーヒー」

「でも、逆に言えば、五本しか触れなくていいし、それに該当しない物体はないんだろ」

 しゃべりながら陽斗の手元にあった砂糖を取ろうとする。が、陽斗に奪われた。

「正確には、ないわけじゃないが、ほとんどに通じるだろうな。あと砂糖は禁止で。お前、砂糖入れすぎなんだよ。その中に十分入れただろう」

「足りないから、使おうとしてんだよ」

「いいやだめだ。これ以上はお前が結婚してから砂糖(これ)を使うことを許可する」

「やることともらえる物との対価が見合ってないんだが」

「いいだろ。報酬がある方がやる気が出るだろ」

 陽斗が上機嫌な顔でそういった。多分、僕はすごく嫌な顔をしただろう。それでも砂糖が欲しい。

「辛いことを乗り越えてこそ、新たに得られるものがある、か」

 昔に言われたことだ。思い出すだけでもあんまりいい気はしない。

「どうした、蓮夜らしくないな」

「そうか?ちょっと昔のことを思い出しただけなんだがな。まあいい、そろそろ行く」

「おう、何かあったら連絡しろよ」

 大体そうだ。何かあってもたぶん自分は連絡しないこと、そして陽斗もそれを察しているということも、

「わかった」

 そう言い放った後、陽斗の店の扉を開けた。

 夜の月明かりが地面を照らす。その日の月は満月だった。

瀬戸川さや

日本犯罪組織”月光”の創設者および統率者である。しかし、さや自身はあまり何もせず、部下に任せている。Lv6でありながらACCHのほぼ全員を上回る実力を持つ。

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