5話 戦い
4月上旬、ACCHの入隊式が行われた。凛は入隊式を終えた後、一度、陽斗の店に荷物を取りに戻り、説明会の資料を置いて寮に向かった。凛を見送ったあと、陽斗と前にもらった依頼の内容を確認している。
「これ本当か?依頼内容がとっても胡散臭いぞ」
「でも、本当だったらとても大きな情報を得られるかもしれない。陽斗、今回は僕だけで行ってみるよ」
依頼の内容は数年前から活動している犯罪組織"月光"と日科研の闇取引を阻止してほしいという内容だった。月光の奴らと接触できれば日科研の情報を聞き出せれるかもしれない。
「...もしそれで、お前が連れて行かれたらどうするんだ?」
「自害するよ。それに連れていかれない」
「...はあ、その固有能力便利だよな」
「まあ、そもそも使わないだろ。死んだ時だけに発動するわけじゃないし」
「......幸運を祈るよ、相棒」
「ああ」
そして、旧式拳銃とナイフを持って、その指定されている場所に向かう。陽斗はあんまりいい顔をしなかった。罠だとわかっていてわざわざ行く奴なんて普通じゃおかしく感じるだろう。でも、あの時から僕はもう普通じゃない。そうして、店の扉を開けた。
陽斗さんの店から荷物をもって寮に向かっているとき、例の彼女に出会った。大城エリだ。待ち伏せをしてたみたい。蓮夜は避けた方がいいといったけど、ここは話した方がいいのだろうか。
「ちょっと聞いてるの?」
「はぇ、な、なに?」
話しかけてたみたいだ。聞いてなかった...。とりあえずは話してみよう。
「はあ、何じゃないわよ!今日からあなたと私がバディになるって聞いてなかったの?」
「え、そうなの?」
「そうよ。見てなかったの?入隊式の後にもらった紙に書いてあったじゃない。ちゃんと見なさいよ!」
「あ、うん、ごめん、みてなかった。なんで私とあなたがバディになったの?」
「そんなの私にもわからないわよ!きっと能力の相性とかだと思うけど。はっきり言うけど、私は一人で十分だから」
「あ、いや、私も全力でサポートするから」
二人の間に沈黙が生まれる。彼女が私をにらんでくる。ちょっと怖い。
「はーい、そこまで。初日から喧嘩せんといてや、二人とも。ここは仲良くしよな」
えっと確か入隊式の時にいたような、名前は山中さんだっけ。
「いえ、ちょっとした相談です。バディの問題は赤水と二人で解決するのでお気遣いなく」
「そんなピリピリしないでな。二人とも、まずはバディ同士の握手をするべきや。さあ、二人とも手出して」
「山中先輩、二人が困っています。よくないですよ、それパワハラです」
「お疲れ様です。青火先輩」
エリは頭を下げる。
「うわ、僕ん時とは大違い」
「そんなに硬くならなくてもいいよ。あら、君、試験場で会ったよね。名前を聞いてなかったわね。なんていうの?」
「赤水凛、です」
「そっか、凛ちゃんだね。君はなんていうの?」
エリの方を見て言う。
「大城エリです」
「あ、もしかしてあの大企業の娘の?すごいわね。能力二つ持ちなんてACCHにはいないから珍しいよ。」
「ありがとございます」
中山先輩は隅で体育すわりをしている。
「はあ、先輩。ここに来るってことは二人に用があったということですよね?」
「あ、そうやった。忘れとった」
体を起こしてこちらに来る。
「今から二人だけで魔獣の一掃にいってもらう。二人の協力がないと死んでしまうで」
急に怖い顔になる。
「はあ、君たち、本気にしなくていいからね。そんなに危険なら君たち二人だけのことなんてないから。でも、協力するのはとても大事なことよ。仲良く、ね」
「まあ、そういうこった。あとで場所は教える。とりあえず、着替えてこい。話はそれからやな」
「頑張ってね」
そういって二人とも去って行った。
「...早く来なさい」
「え」
「着替えるんでしょ!早く行くわよ!」
「う、うん」
とりあえずは着替えに行こう。
指定された場所の近くまで来た。確かにここら辺は人がいないし、周りに建物があって見られにくい場所だ。とりあえず、屋根の上から見よう。そうして少しすると黒色の軍事車両4台が来た。どうやら、取引が始まるみたいだ。
「今日はこいつをお前らに渡す。うまく活用してくれよ」
「ふん。俺は実験に利用されているのは気に食わねーが、まあ、戦闘データぐらいは取っといてやるよ」
青髪の奴と白衣の着た男が話している。そして、その部下たちが大きな箱を運んでいる。中はきっと兵器なんだろう。
「あと虫を排除する、これからの取引が有意義になるようにしろよ」
青髪の奴と目が合った気がする。とても嫌な予感がした。とっさに後ろ向く。すると大きな斧を持った男がいた。その時、僕は頭に大きな斧が刺さった。
「おい、やったぞ」
「よくやった。虫ごときが、厄介だったぜ。月光を追いやがった報いだ。その辺に捨てとけ、間抜けの虫に用はない」
「運び終わりました。カイさん」
「ああ、ご苦労だった。ではこれで俺らも撤収するとしようか」
「待て、僕ら日科研に支払わないといけないものがあっただろう」
「それは前にも言ったはずだ。戦闘データで我慢しろと。たく、これだからせっかちは」
「忘れるなよ、お前らが取引できているのはお前らのリーダーの力だからな」
そうして会話が終わり、二人が別れ、それぞれ車に乗る。その時、カイと呼ばれた男は違和感を覚えた。いたはずの部下がいなくなっている。運転していた奴も、虫を殺した奴も、運んでいた奴も、いない。
「はあ、どうなってる」
車の外に出る。
「後ろか!」
金属音が鳴り響く。二人とも後ろに飛ぶ。青髪の奴は驚いた。それもそうだ。だってさっき殺した奴がいるのだから。
「やあ、今のを防ぐのはすごいね。動体視力は人間を超えている」
「どういうことだ?お前はさっき、頭が完全に割れていたはずなんだけどな。どうやって生き返ったんだ」
「別に聞いても驚くようなことじゃない。それよりも自分の状況を把握した方がいい」
「ふん。お前みたいな間抜け、俺一人で殺して帰れるんだよ」
そうして手から火花が散った。次の瞬間、爆発した。その衝撃で後ろに吹き飛ばされた。どうやら運ばれていた箱が空いたみたいだ。中にいた大男が外に出でいる。それよりも、
「どうしたお前はこんなものなのか?もっと本気で来いよ」
僕は銃を取り出して、四方八方に撃つ。しかし、爆発の煙幕が薄くなるとそこに青髪の奴はいなかった。
「旧式拳銃?!今時、そんなもの持ってるやつ初めて見たぜ」
上から回り込まれていたようだ。そして爆発が来る前に避けるが、服が少し燃えてしまった。熱い。
「それがあんたの固有能力か。爆発。めんどくさいな」
「そういうのは口に出さなくてもいいんだぜ!」
また爆発が来る。さっきよりも強い。僕はそれを水の魔法で打ち消す。
「クソ、最初から使えよ、間抜けが」
カイと呼ばれた男が悪態をつきながら接近してくる。僕は水の魔法を今度はさっきよりも数倍強くして打ち続ける。
「俺の爆発が、お前なんかに負けるはずねーだろが!」
「そうだね。僕の得意分野は魔法じゃない」
接近してきた彼に接近し、壁に二人とも激突する。僕は首元に銃を突きつける。
「動くな、動くと首が」
お腹に何か刺された。きっと先のナイフだろう。
「ふん、俺がこれを手放すと思ったか?ずっと持っていたのに、よく接近できたなこの間抜け!」
「......痛った。まさかこの状況で反撃してくるとは思わなかったよ」
「本当に不死身かよ。クソが」
目の前の男はあきらめたようにナイフを手から離す。
「さあ、教えてもらおう、カイ君。日科研と何の取引をしていた?もらったもので何をするつもりなんだ?」
「ふん、少しだけ教えてやる。俺ら月光は奴らとただ生物兵器の実験を手伝ってるだけだ」
「なぜ手伝う必要があるんだ?」
「少しだけといっただろう。間抜けが!」
その瞬間、足元から爆発した。油断した。近距離で自爆覚悟の大爆発をしやがった。吹き飛ばされた僕は体全体が燃えたせいで、着ていたコートが今や地面のチリとなっている。
「逃げられたか」
周りを見渡したときに違和感を覚えた。さっき箱から出た大男がいない。爆発の衝撃で起きたのか。急いで探さないと。
「しっかし、多いわね。この辺の魔獣は遅いのにね。ねえ、ちゃんとついてきてる?」
「うん、ちゃんとついてきてるよ。しっかりとサポートするから」
「余計なお世話なのよ。ちゃんとついてきなさいよね!」
二時間前、山中先輩に任務を与えられた。最近活発になった魔獣を処理してほしいといういことだった。あんまり強くないけど、数が多いらしく。この前の試験で見せた、エリの強さと速さでここら辺は十分ということになった、みたい。
「しっかし多いわね。こんだけ多いのに、なんで私たち二人だけなのかしら」
「それはさっき先輩が」
「上で決まったことね。でもそんなのでこの量はさすがにおかしいわよ」
気づけば、そこら中に魔獣の死体のが転がっている。エリはメイスを使ってもう200体ぐらいは倒しただろう。周りが木で囲まれていて人がいないので存分に能力を使っている。
「これで、終わりかしら」
エリが疲れを見せながら言う。周りには魔獣の鳴き声が聞こえなくなり、討伐がうまくいったことを意味する。
「よしこれで終わりね。帰るわよ」
「う、うん」
結局、私は小さいものやすばしっこいものだけをやって終わった。そうして帰ろうとしていた時、大きな足音が聞こえた。それも何かジャンプしているような、
「あぶない!」
次の瞬間、私はエリに勢いよく引っ張る。そして、上から白の服を着た大男が降ってきた。大体4メートルある。エリが間一髪、救ってくれた。
「あ、ありがと」
「お礼は後にして。あいつめっちゃ強いよ。それにあの体、見たことはないわ。魔獣じゃない。」
エリの言葉と表情から焦っていることがわかる。どうやら、
「とりあえず、構えなさい」
「わ、わかった」
大男が走って、エリにつっこむ。エリは回避するが、大男はすぐに切り返した。早い。基礎能力だけじゃない。魔法だ。魔法で体を強化してるんだ!
「うぅ」
棒立ちしていた私に大男がタックルをしてきた。そのまま二人とも木にぶつかる。重い一撃で全身に悪寒が走る。魔法で反撃しようとするが、
「だめよ、凛!」
エリが叫ぶが、大男に腕を掴まれた。そのまま殴られそうになるが、空間操作で手をゆがませて何とか距離をとる。次にエリがメイスで攻撃する。が、ガードされる。そして、大男の動きが早くなり始め、エリに無数の甲攻撃を繰り出していた。エリは何とか避けているが、疲れが残っているせいか動きや反応速度が落ちている。火の魔法で援護しているのに、大男にあたっても全く効いていない。私も距離を詰めるが、大男は標的を私に変え、吹き飛ばした。再び木にぶつかった私の体は痛くて動かせない。
「凛!」
必死に呼びかけたエリ、そのせいで隙が生まれ、大男のパンチを顔にくらった、ひるんだエリを大男は容赦なく殴る。
「う、ごへぇ、ぐはぁ」
体が動かない。目の前で友達が殴られているのに。右腕を地面につこうとしたとき、痛すぎて力が入らなかった。エリの顔が血で染まり始めている。彼女はもう気絶してしまった。
「やめてー!」
そう叫んだ時だった。目の前の大男が吹き飛ばされた。エリも驚きの表情でいる。そして、それをやったのは、私のよく知っている人だ。
「僕が相手になろう」
山の方に逃げたのはわかっていたが、まさか凛たちが襲われていたとは。
「頭から血が出てるぞ、凛。無理に立たない方がいい。あとで止血するから今は休んでくれ」
かなりの出血だ。殴られていた子は......大城エリ?!この子と一緒に来たのか。二人で挑んでこの状況ということは厄介そうだ。
「立てよ、蹴り一発でノックアウトは恥ずかしいって、陽斗がいつも言ってるぞ」
大男に向けて言う。それに伴って大男は立つ。
「蓮夜、その大きな人、魔法を無効化する能力があるよ」
「なるほど。わかった、凛」
それだと、確かに凛は戦いずらかっただろう。なんせ体術は一個も教えていないし。
「まあ、魔法が効かなくても物理攻撃は効くわけだ。対処法はある」
大男に向かって距離を詰める。大男は殴ろうとするが、それを避けて顔に拳をぶつける。大男は顔から血を流す。しかし、拳は衝撃に耐えられず骨が折れ、ぐちゃぐちゃになっていたが、直す。さらに腹部にストレートを入れる。大男は悶えこみ始めた。最後に顔に蹴りを入れて大男は倒れた。しかし、そのときに手と足も同様に折れ、僕も倒れる。
「蓮夜!大丈夫?」
「ああ、大丈夫だからじっとしていて。傷が広がるよ」
すぐに直し、倒れている大男の胸にナイフを刺してとどめを刺す。
「よし、凛、止血するからじっとしていてくれ」
「え、あ、うん」
凛の頭に包帯を巻いていく。
「蓮夜」
「どうした?」
「あそこにいるエリの止血を優先してあげて、私は大丈夫だから」
「......本当に大丈夫か?」
「うん。だからお願い」
「...わかった」
包帯を巻き終わり、大城エリのもとに向かう。
「意識は...ないな。呼吸はあるな。顔を殴られたみたいだな。脳に異常がないといいのだが」
彼女に包帯を巻き始める。打撲痕と鼻血に吐血...痛々しい。
「...とりあえずできることは済んだ。凛、歩けるか?」
「うん、歩ける」
「とりあえず、運ぼう。治療できるところにね。凛も軽傷じゃないな」
「うーん」
おっと、どうやら大城が起きたようだ。
「......どうなっているの?」
さっきまでいたはずの大男が地面に横たわっているのを見て驚いているようだ。
「何が、起こってるの?凛」
「蓮夜が助けてくれたんだよ」
そして、大城は僕を見る。そしてさっきよりも目を見開いて、
「...どうなってるの!」
大城は置いてあったメイスを取り、かまえた。
「なんで特犯のあなたがいるの?それに凛、なんでその男の横に立てるのよ!」
「......驚くのも無理はない。それが普通の反応だ。とりあえず、脳に異常はなさそうだな。なら少し話そう。歩けるか?歩けないなら担ぐよ」
「結構よ。それになんであなたなんかと話さないといけないのよ!私に何の関係があるわけ?あなたの組織に犯罪を助長することはしたくないわ」
彼女は叫ぶ。それを見ている凛は勢いに押されてあたふたしている。
「はあ、いいか。君はあの大男に殺されかけたところを俺が助けたんだ。君の頭の傷の止血もやってる。それに対して話がしたいだけなのにこの態度は失礼だと思わないか。そもそも僕は組織なんかとつるんでない。それにACCHが把握できていない情報を僕は持ってる。君は絶対知らないようなね。君が僕に勝てる自信があるならここで戦ってもいいだよ」
「ちょ、ちょっと喧嘩はだめだよ」
大城はとても悩んだ顔をした。
「......凛、その男に何かされた?」
「え、いや、なにも」
「......いいわ、話をするだけよ。あなた犯罪者たちに協力したくない」
「わかった、じゃあ行こう」
凛になぜあそこにいた理由を聞きながら歩き、陽斗の店の扉をくぐる。
「おーい、お前またお嬢ちゃんを連れてきやがったな。このロリコンめ。どこでナンパしてるんだ。18未満は犯罪なんだよ、蓮夜君」
「うるさい。それに服を見てわからないお前じゃないだろ」
「ああ、わかってるよ。でも、なんで連れてきた?しかも、凛ちゃんと一緒で」
「凛のバディらしい。で、要件は治療とお話だ」
「......なんでこいつを治療しないといけないんだ」
「いいだろ別に、それに凛のためなんだしさ」
「...はあ、わかったよ。それじゃ、お二人さん背中向けて触らせてね」
そして陽斗は二人の背中に手を付ける。
「ちょっと、これに何の意味があるの?私は治癒なんて頼んでなし、なんで背中を向けないといけないのよ」
「おっと、気が強いお嬢ちゃんだ。俺の魔法は触れないと発動できない。それに凛ちゃんのお友達ときたら、それはもうずいぶんな対応をしないといけないだろう。君はとても美しいからね」
「怪しい。すごく怪しいわ」
「だ、大丈夫だから心配しないで、ね」
疑いの目を向ける大城を凛がなだめる。不機嫌な顔をして陽斗に触れられる。
「よし、これで終わり。お二人さんの傷がきれいさっぱり無くなったぞ」
「...これ、魔法じゃないわよね。何をしたの?」
「それは秘密。レディにリピートしてもらうためにもこれは隠し通さないといけないことだ」
「二度と頼まないわよ!」
陽斗の冗談に怒りながら蓮夜の方をみる。
「...じゃあ話そうか。まず君は凛についてどう思っている」
僕は真剣な表情で彼女を見つめる。凛はとても不思議そうな顔をしていた。彼女は迷いもなく言い放った。
「ただの相棒よ。短い期間だけど、彼女の能力は大体わかったわ。魔法だよりだけどそこそこいいじゃないかしら」
「じゃあ、凛と死地を共にすることになっても君は受け入れられるか?」
「ええ、大丈夫よ。それに死なないわ」
「...じゃあ、彼女が僕の仲間で裏切り者だとしたら君はどうするつもりだ」
「...相棒の責任は私が取るつもりよ」
大城は真剣な表情で答え返した。空気が一気にピリついていく。
「そうか。君は僕の仲間になってくれそうだ」
「はあ?今のどこを聞いて私が仲間になるなんて言う結論になるのよ!」
「君の優しさを知ったからね。それに頼みたいこともできた」
「はあ、なんでよ。来る前に言ったでしょ、私は犯罪者に協力したくないと」
「はいはい、落ち着け。この問題は僕たちだけの問題じゃない。このことを知らないとACCHは近いうちに無くなるかもしれないよ」
目を見張ったのは大城や凛だけでなく陽斗もだった。