2話 やってみること
僕は焦っている。
目の前に立っているのがACCHの青火朝衣だからだ。
「なぜここにいるんだ?ここに来る目的がないだろう」
僕は問う。
「上からの命令で、ここら辺にあなたの目撃情報があってね」
朝衣は見ている。何か考えているようだ。ここで戦闘になれば、確実に増援が来るだろう。人数差で不利になるのは得策ではない。やったことないがあれをやってみるか。
「逃げても無駄よ。私の固有魔法は知っているでしょ。その子供を守りたいなら降参するのをお勧めするわ」
「お断りだ。そもそも、君はこの体を本質的にわかっていない。わかっているふりをしても、僕にはお見通しだ。」
「......上からの命令よ。私に拒否権はないわ。あなたが捕まれば、子供に手出しはしない」
「嘘つくなよ。僕は君たちに連れていかれた子供たちが行方不明になってるって噂になってるぞ。」
「根も葉もない噂を立てないでほしいわ。そもそも、その子らは保護施設に行ってるの。ここにいると情報が入ってこないじゃないかしら」
「保護施設って、人体実験をしそうだな」
「はいはい、おしゃべりは終わり。あんたがおとなしくついてくれば発砲しないわ。そもそもACCHではあなたを見つけた瞬間発砲するように命じられている。まだ打たないだけましだと思ってほしわよ」
朝衣が持っているのは小型電磁砲。といっても彼女の身長ぐらいあるが、威力は絶大だろう。しかも彼女の固有能力はホーミング。彼女のセンスもあいまって対処するのがとても難しい。仕方ない、ずっと見せるつもりはなかったが、この際やむ負えない。体の魔素を魔力に変えて...
「僕につかまっていろ」
「う、うん」
私は困惑している。
私は確かに彼を見ていたはずなのに。瞬きしたの瞬間、彼は消えた。いや、彼だけでない。あの子供も消えた。通常の魔法ではそんな技はない。固有能力でも彼の能力と矛盾する。一体どういうことだろう。
「どうや、そっち状況は」
「怪物に逃げられました」
「はぁ、またか、お前の固有能力を使えばイチコロのはずやろ。今度はどうやって逃げたんや」
「わかりません。瞬間移動したような...何かの魔法かと思われますが、私にも詳細がよくわかりません」
「...わかった。どういうことかはわからんが、君が言うならホンマなんやろ。まあいい、また捕まえる機会はある。とりあえず戻ってこい。別の要件があんねん」
「了解しました」
「さてと、ここまでは来たらわからないだろう」
僕は自分の隠れ家にとんできた。といってもオンボロの部屋だが。この能力は彼女は知っているのだろうか。
「ねぇ」
凛が話しかける。
「蓮夜って指名手配犯だったの?」
「......失望したか?」
「大丈夫。だって蓮夜は私を守ってくれたから」
「ありがと」
子供は純粋というが、ここまで...
「それと魔法ってどうやって使うの?」
「魔法を使ったことがないのか?」
「うん」
魔法は完全にセンスが問われる。初めての彼女にできるのだろうか。
「ではまず、魔法というものなんだが、魔素というもの魔法のもとになるものを消費しながら想像したものを実体化できる。つまり、想像力が大事なんだ。例えば指先に炎が出るイメージをつくれば。こんな感じでできる」
「うーん、こう?」
そして彼女の指先から炎が出た。彼女はあっさりできてしまった。かなりのセンスがあるといっても過言ではないだろう。というか見ただけでできるのってまさか...。
「凛、君の能力ってわかるか?」
「えっと、コピーする能力って言ってた気がする」
コピー、か。追われている理由が分かった。こんなのを世の中に出したら...犠牲者が出そうだ。しかし、名前を変えても顔を覚えられていると厄介だな。まあでも、その時は僕が彼女を守ってやろう。
「あ、あのー」
「どうした?」
凛が僕に質問する。
「あのおねーさん、あなたのこと怪物って言っていたよね。なんでそういわれたの?」
「うーん、まず、ACCHについて知っているか?」
「わからない」
「まずはそこからだな。ACCHていうのは能力を駆使した犯罪を予防、対処を行う組織なんだ」
凛がうんうんと相槌をする。
「そこで階級っていう制度があるんだ。5級から4、3、準2、2、準1、そして1級。そして、あのおねーさんは準2級そこそこの階級にいる。またレベルというのもあって、これは0から10まである」
「ふむふむ」
凛が理解した顔をする。
「でも、それとあなたに何の関係があるの?」
彼女は問う。
「続きがあるんだ。階級は犯罪の大きさにも表現することがあるんだ。犯罪階級と一般的には呼んでいるかな。そして僕は、日本に二人しかいない特別犯罪階級っていうところにいるんだ。で、僕はいろいろしてしまったことを含めて人々は日本の怪物って呼ぶようになったんだ」
実際、魔人は日本にいるかも怪しんだが...
「その、いろいろって」
「機会があればまた話すよそういえば、お腹すいていないか?これから出かけるんだ。食べたいなら一緒に行こう」
「うん。何か食べたい」
「そうか。じゃあ行こうか」
そして向かう。陽斗のところに。
「ついたぞ」
またこの能力をつかってしまった。でも遅刻しているし。誰にもばれていないからいいだろう。凛は早く食べたそうにしている。とりあえずに店に入るとするか。
そして階段を下りて店の扉を開く。
「遅かったじゃねーか」
ドアを開けると陽斗にそう言われた。まあ仕方ない30分も遅刻しているのだから。
「お前が連れを連れてくるなんて珍しいじゃん。名前はなんていうんだ?」
「凛だ」
答えた。
「そうか、凛。俺は武田陽斗。ここの店を営んでいる。あんまり客は来ないがな。で、こいつとは親友だよ」
陽斗は肩を組んでくる。
「まあ、否定はしない」
「そうなんだ」
「それより、飯をつくってくれるか?そのためにこの子を連れてきたんだ」
「いいぜ。営業時間外だがな。親友とかわいいお嬢ちゃんの凛ちゃんに免じて作ってやるよ」
「う、うん」
凛はこのノリについていけないようだ。まあ仕方ないか。こんなにテンションが高いのは久しぶりだからな。
そして、陽斗はおいしそうな料理をふるまってくれた。凛はよだれを垂らしている。
「食べてもいいぞ」
「い、いただきます」
凛が食べ始めた。とても幸せそうな顔をしている。
「金はここに置いていくぞ」
「わかった。それとお前が欲しがってたものを仕入れてきたぞ」
そして箱を出す。僕は箱を開けた。すると時計のようなものがあった。
「これはつけると魔素を吸い取り、放出して抑制をする機械だ。しかも、お前用に改造しとくように頼んだから、量はかなりだぞ」
「ああ。ありがとな」
「気にすんなって。とりあえずつけてみろよ」
凛も会話を聞いてこちらを見ているようだ。時計をつけてみる。すると髪が根元からどんどん黒くなり、目も黒くなった。かなり魔素量が抑えられているようだ。これなら魔素量での警戒が薄くなり、接近が容易になるだろう。
「なんで髪が黒くなったの?」
凛が質問する。
「えーと、魔素っていうのは体中に循環しているんだが、その影響で髪色や瞳孔が変化している人が多いんだ。君もそう。でもコントロールすることで循環を抑えると体内にある魔素量を測るときにばれにくくなるんだ。多すぎると認知されてしまうからな」
「へー」
凛は感心したようだ
「まあ、魔素が有り余る人なんてそうそういないし、魔法が使える人は魔素量によるオーラが見えてくるんだ。これを抑えられるだけでもかなりの儲けもんなんだ」
「でも、顔が割れていれば意味がないがな」
「目視して、攻撃までに遅延が生まれるのはいいことだろ」
「それは朝衣がいないときに限るがな」
凛が下を向いている。この話はつまらなかったようだ。まあ、それもそうか。
「私これからどうすればいいのかな」
凛がつぶやく。確かに彼女を養うには彼女を一人にするタイミングが増えるだろう。連れて行っても彼女の見たくないものがあるだけだ。
「うーん、だったらACCHに行ってみたらどうだ?犯罪者じゃないなら」
陽斗が言う。
「は、いやそれは...確かに指名手配はされていないが」
「ならいいだろう。お前が連れているっていことはとてもすごい能力を持っているんだろう」
「はぁ」
さすが、といったところか。でも凛がそれを望むのか?僕は彼女のほうを見る。
「わたしは...蓮夜がいいならいいよ」
...まあACCHのスパイ入るのはいいのかもしれない。奴らもさすがに手が出せないだろう。
「...はあ、そうだな。そうするか。」
「でも、入るともう蓮夜には会えない?」
「いやそうでもない。一か月に何度か外出許可が出るからな。会おうと思えば会えるし、スマホを使って電話で話せるだろう。電話ができなくても手紙を介してできるだろうしな」
陽斗が言う。それはそれでいいのかもしれない。
「うん。それなら」
凛が同意する。これで否定されたら凛がかわいそうか。
「俺もいいよ。任務中に会わないようにはしたいな。あんまり知られたくないからな」
「うん」
凛が返事をする。少しワクワクしているようだ。
「しかし、どうしたものか。戸籍とか、高校の卒業資格は偽造できても、そこまでの知識を短期間に詰め込めるとは思えないが」
「う、うーん」
凛が顔をしかめてしまった。別に落ち込ませるつもりはなかったんだが。
「別に対策すれば問題ないんだよ。あれ結構簡単だから。それと、体力面だが、魔力を使ってごまかせばいい。別に魔力の身体強化は禁止されてなかったはずだよ、あれは。」
「ねぇねぇ、魔力って何?」
凛が疑問を口にする。僕はそれに答える。
「あー、魔力っていうのは魔素を変換したものなんだ。しかしそのまま体に流すこともできる。すると身体能力が飛躍的に向上するんだ。といっても、その魔力への変換が難しんだが、凛の能力を使えばできる」
「私の能力で?」
「そういえば、凛ちゃんの能力ってなんだ?」
「コピーする能力だよ」
陽斗の質問に凛が答える。
「それは...確かにできるかもな。そのコピーって許容量はあるのか」
「多分、忘れない限りずっとだと思う」
「それは強力だな。俺とお前の固有能力も...」
「それはやめたほうがいい。僕と陽斗の能力と一緒ってばれたらまずい」
「そうか」
「まあ、とりあえず明日からだな。今日はもう帰ろう」
「おう」
ちょうど凛も食べを終わったようだ。とりあえず明日また考えよう。
あいつ、どうやって逃げたんや。朝衣は目の前から消えたとかいっていたが、あいつの情報かなり絞り出したはずやったんやけどな。どうしたものか。あそこに潜んでんのはわかるんやが、あんまり肩入れして捜査できへんのがネックやな。
「ただいま戻りました」
「おう、戻ってきたな。じゃあ君に頼みたいことがある。」
「何でしょうか」
「まず、君を特別指名手配犯の確保から外すことになった」
「...なぜですか」
彼女は静かに答えた。その言葉には怒りが感じられる。
「根本的なのは変わってへん。君は別の組織を捕まえてもらうんや」
「...月光...ですか」
「当たりや」