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1話 決められたもの


 少女は走る。ただひたすらに。息が切れても、石を踏んでも、雨の中、少女は走る。左右の建物がこちらを見つめている。

「一体どこに行ったんだ」

 男は愚痴をつぶやく。

「何とかして見つけろ!彼女を逃したら、幹部に怒られるのは俺なんだぞ!」

 別の男が叫ぶ。

「わかっている!だから、こうやってお前についてきたんだろうが!」

 男共は言い合いをしている。

「こっちだ!いたぞ!」

 少女は振り返らない。もうあんなところに戻りたくない。その気持ちだけが少女を動かす。でも、体の限界にはもう気づいている。まともに走ったことがないのに走れるわけがない。まともに呼吸ができていない。でも、捕まりたくない。せっかく掴んだチャンスを無駄にはできない!

「あ……」

 少女は転んだ。少女はもう立ち上がれない。いや、もともと立てるのがおかしいのだ。彼女の足は血だらけで、足に折れた釘や小石、ガラス片が刺さっている。まだ13の子供がこの状態で走れるのは、小さい時から痛みを経験している者だけだろう。それほど、少女は追い込まれていたのだ。

「転んだぞ!とっ捕まえろ!」

 男は叫ぶ。血走った目で迫ってくる。そして......

「捕まえたぞ。」

 男は少女の手を掴んだ。

「いや!やめて!」

 少女は抵抗する。しかし、力の差は雲泥の差ある。

「おとなしく、してろ!」

 男が押さえ込む。

「きゃあ!」

「見つけました」

 別の男が連絡している。そして、ため息をついた後。

「俺たちが運べだとよ」

「はなからそのつもりだ」

 少女は目は絶望に染まる。もう助からない。魔素も力もない私にはも何もできない。そう思っていた時、足音が近づいてきた。でもそれは男たちのものではない。

「なんだお前?見せもんじゃねーぞ!」

 通信をしていた男が叫ぶ。しかしその刹那、男の上と下が分かれた。

「なんだ?」

 私を押さえていた男が立ち上がる。そして私は、足音の正体がわかる。それは膝くらいまである長く白い髪、瞳孔まで白い目をした片手にナイフを持つ身長の割には細い男性だった。

「お、お前は?!」

 男はうろたえている。目の前に立っている男にとてもおびえているようだ。少女はわからない。なぜ、男がおびえているのか。目の前に立つ白い男性はいったい誰なのか。

「子供を放せ」

 白い男性は冷たく言った。男はいやいや私を放した。逃げようとも思ったが、足がもう限界だ。動くこともできない。

「た、頼む。命だけは助けてくれ。何でも話す。お前が求める情報をなんでも話してやる。だから頼む。俺を、俺を殺さないでくれ」

 男は懇願した。

「お前は、どこの人間だ」

 白い男は質問する。

「俺は、雇われの身だ」

「どこのだ」

「答えられ...」

 男は絶句した。なぜなら、彼の右腕がなくなったからだ。男は悶絶をする。白い男は彼のミゾウチを蹴り強制的に黙らせる。私は震えた。こんなにも、こんなにも、()()だっているのだから。

「もう一度どこから言われた」

「お、俺は日科研から雇われたんだ。もう答えただろう。だから、に...」

 そこで男の首はとんだ。血しぶきをあげて。そして私を見て白い男は、

 涙を流していた。

 それは雨なのかもしれない。いや、やっぱり涙なのかもしれない。私には、それがわからなかった。

「大丈夫か?」

 私に問う。

「なんで...私を助けたの?」

 私は問う。白い男は嫌悪感が顔に出ていた。少し悩んだ後、

「気分だ」

 と答えた。違う。そうじゃない。私が聞きたいのは...

「あとは...子供がこんな治安の悪い街の真夜中に走っていて、かなり目立ってたし。服装もここらの人間じゃない。こいつらも含めてな」

 納得していない顔で察したのか、白い男は追加で説明をする。

「とりあえず、足見せろ。ほら」

 私は言う通りに足を見せる。

「どんな道を走ったらこうなるんだ。とりあえず異物は取り除かないと。少し痛いだろうけど、我慢しろよ」

 彼は私の足に刺さったものを抜いていく。とても痛い。今すぐ叫びだしたいぐらいに。早く終わってほしいと思う。だが、意外に早く終わったようだ。彼はどこからか取り出した消毒液で消毒し、包帯を巻き始めた。そこで私は疑問に思った。

「なんで回復系の魔法を使わないの?」

 彼は答えて、

「僕にはあの魔法は不向きだからだ。そもそも、一般の戦闘メインの人間が扱うのは難しいぞ」

 そして、包帯が巻き終わる。

「これで多少はマシになっただろう。歩けるか?」

「うん」

 私は立つ。痛みが引いている。しかし、まだ素足だ。靴を履きたい。そして彼はあるものを取り出す。布だ。そして私の足に包み始める。

「これで多少は防げるだろう」

 彼はそうつぶやいた。

「あなたの名前は何というのですか・」

 私は質問する。

「......赤水蓮夜だ」

 悩んだ後、彼は答えた。

「...お前は名前があるのか?」

「私は...ないよ。被検体番号しか」

「そうか、では、僕が名前をつけよう。そうだな...凛なんてものはどうだ」

「...それがいい」

 なぜかはわからない。でも、なぜかその名前に親近感を覚えた。

「あなたに、ついて行ってもいい?」

 否定されないだろうか。拒絶されないだろうか。そんな不安が心のどこかにある。でも、それ以上に安心感もあった。まだ出会ったばかりなのに。

「いいぞ」

 その返答が聞けて、私は安心した。しかし、その瞬間、前から誰かが来る。それは肩にACCHと書かれている女の人だった。蓮夜は焦っていた。それが表情からわかる。

「久しぶりだな。怪物」

 女は言った。

「ああ、一年ぶりだな、朝衣(あき)

 怪物(れんや)はそう返した。

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