第6話「伝われ! 俺の! この思い!」
それからひと月ほど経ったある日の昼。
俺は瑞希に何も買わないでと言われたので何も買ってこないままその時間にやって来た。
外は11月。
結構本格的に冷えてくる。
それでも瑞希は中庭を選んだ。
そして、あの時。
弁当を渡していたカップルの使っていたベンチに腰掛ける。
ベンチは冷たい。
けれど人肌を受けてすぐに温まる。
「ぁ、あー、寒いねー」
「ね、これから冬になるって感じ。アマゾンでカイロ箱で買わないと」
「…カイロって箱で売ってたりするの?」
「うん売ってる売ってる30個入りとか全然ある」
「そうなんだ。私も買おっかな」
「手袋だけじゃあったまるの遅いしオススメ」
とても緊張してるのが伝わる。
もう表情が力んでるし、何より放つオーラが緊張してるって声を大にして溢れている。
「………」
「……」
沈黙が、入り浸る。
かと言ってここで会話を広げるのも違うと思った。
俺は瑞希が勇気の蛇口を開け切れるのを静かに待った。
「そろそろ、お腹、空いてくるね」
そしてそれは、強い呼吸の後開けられた。
口から多量の白い吐息が顔を出す。
「…だね。俺なんだったらもうお腹空いて倒れそう」
「えぇ!? ぁご、ごめんじゃあえっと!
けど、おどけた言い方をした俺の言葉にすっごく申し訳なさそうにして持って来たリュックの口を開けていた。
このリュックは恐らく何かを悟られないためなんだろうけど。確かに木を隠すなら森とは言うのだけれど。
「はい!!」
「これは…? って言うのは変か。お弁当、作ってくれたの?」
こんなに眩しい木の枝、森なんかじゃ到底隠せるわけが無い。
「い、いったでしょ、私にかかれば余裕なの」
「…ふーん。じゃあお手並み拝見しますかね…」
「…ぅ、ぅん…」
俺は知っている。
彼女が家庭科部の部長に弟子入りしたことも。
毎週一回、どこかで急用だといって部活に行っていることも。
白鳥さんと言う友どちができて、土日のどちらかによく遊びに行っていると言うのは建前で料理を教わっていることも。
それが俺に渡すお弁当のためだと言うことも。
それを俺が知らないと思っていることも。
でも俺はあれから家庭科の調理室に向かってはいない。
だから知らない。
どれだけ瑞希が料理上手になっているのかを。
「おぉー…何これすご」
そうして現れたのは、あの日、丁度ここで見た料理のラインナップ。飾り野菜はなかったが、料理自体は全く同じだった。
形は歪じゃ無い。
かなり整った卵焼きの形。煮物やタケノコの火の通りも色味からして柔らかそう。肉巻きや黒豆の照りも良い。
「凄いね、大変そうなものばっか」
「うへへ、実際大変だった」
「へぇ……余裕なのに?」
「ぁ"っ。余裕でも大変なの!」
ぽかっと肩を叩かれる。
ムスッとした表情がすこぶる可愛い。
睨みつけてくる目もとっても可愛い。
上目遣いのダメージに倒れてしまいそう。
ほんとまつ毛が長い。
これでメイクじゃ無いんだから本当に彼女は、鮫島瑞希は至る所全てが美人だ。
「それじゃあ、いただきます」
「…どうぞ」
俺の手には少し小さいプラスチックのピンクのお箸。
それで早速と、卵焼きを一つ掴み取る。
口に入れようとした時に見えた卵焼きの裏っかわ。
そこに少し、ほんの少し狐色の焼き色が卵焼きに抱きついていた。
(もー隠しちゃってーかわいいなぁもー)
焼き色があるからって不味くなるわけじゃ無いし、逆に色味が食欲をそそることもある。
でも多分、瑞希は余裕と言い放ったからには完璧な姿を見せないと、と思ってるんだと思う。
墓穴にハマってるとこも可愛い。
けど、違うよ瑞希ーー
「すっごい美味しい」
ーー君はもうずっと、俺にとって完璧な存在なんだ。
「ほんと…?」
「うん、ほんと」
なにが、とか、細かい食レポはしない。
ただ俺は美味しさを味わっていろんな料理を口に入れていく。
凄く愛の味も感じる。
そして俺はふと、思った。
母さんのご飯を味わって食べたことなかったけど、もしかしたら愛のあるご飯を振舞っていてくれたのかもしれない。と。
母さんはいつも疲れて帰って来てもご飯を毎日作っていた。
料理本も買ったり、動画を見てみたり。
そう言う日は確かに味は不味くなかった。
まぁ性格がどうしても長続きをさせなかったのだけれど。
もしかしたら俺は母さんの気持ちを蔑ろにしてしまっていたのかもしれない。
「この卵焼き好き」
「ぅ、うん…ぁっ」
切り分けられた卵焼きを一つ、瑞希の口に軽く押し入れる。
出汁の効いた卵焼き。
味付けは甘くもなくしょっぱくもなく、どちらにも転んでいないから万人受けする味付けで。
でもだからこそ普通と言われがちで、普通になりがちな味付け。
だけどこれはちゃんとおいしくって。
それは凄いことで。
瑞希が頑張ったのがよく分かる味で。
だから美味しい味になっていて。
この場で一緒にその美味しさを味わって欲しくて。
俺はそうして食べてもらった。
間接キス。
そんな事を意識するほど子供じゃない。
けど、瑞希は違ったようだ。
口からスッと抜き取る箸の軌跡を目で少し追って、シュンっと高速で俯いて、ゆっくり咀嚼して、少し顔を赤らめて。
でも。
「すっごい美味しくない?」
卵焼きを食べ終えると。
「…ふふん」
彼女は満面の笑みを浮かべてこっちを向いた。
綺麗な白い歯。
鋭利な歯先。
けれどそれは表情が加わるとどうしても、とても柔らかそうで。
「言ったでしょ、料理なんて余裕なのよっ」
ひまわりのような綺麗な笑顔はとても眩しくて、綺麗だ。
あぁ可愛い、もうすっごい可愛い。愛おしい。
なんですか殺しますか、殺されてますかなんですか?
え、俺の死因心不全ですか?
(あぁ、でもそれでもいいや)
と、思ったが、それはダメだと俺は心の中で首を振る。俺は一生この子を手放さないし置いていかない。
そんなことしたく無い。
だから決心する。
この子を絶対に幸せにすると。
そして、同時に強く思った。
「あぁ"マジ天"使"!! も"ぉおおおまじ大好き"! 可愛すぎてマジ無理! いやほんとありがとう神様!! そんでもって瑞希ありがとう愛してる!!!!」
「んぇっ!!?」
そんな俺の気持ちを、瑞希がどう受け取ってくれるのかだけは想像がつかない。
けど、俺はわからないからこそ期待した。
彼女に俺の全身全霊の大好きが伝わっている事を。
俺が鮫島瑞希の事を、どれだけ愛おしく思っているのかを。どれだけ俺が可愛すぎて無理だと思っているのかを。愛しているのかを。
2万文字の読了お疲れ様でした
本作品は、他に連載しているローファンタジー作品に恋模様やそうした恋愛の変遷を描いていきたく、そして「自分がちゃんと書けるのか」と言う練習を目的として書いた物になります。
……要は恋愛小説書き慣れてませんアピールです。
誠に本当にとんでも無いくらい拙作ではありましたが、最後までお読みくださりありがとうございました。
また、「高校生2人のすれ違った結果の歪な恋愛模様」を描いた短編・短編分割版もございます。
【だから、まだ、僕達はベストフレンド】
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よろしければご一読下さい。




