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第2話「嘆願! 指名! 弟子入り!」

「……はっ! ご、ごめん俊介…」


小さな体に肩を寄せ、左手で手を繋ぎボーッと瑞希が戻ってくるのを待っていると慌てた様子で瑞希が声を上げた。


「おっ。お目覚めですかお嬢様」

「お嬢様とかやめてよぉそんなんじゃないからぁ。…ぁ、てか食堂……。混む前に行こって私から言ったのに…」

「あぁー、そういやそうだね。…ぅーん……ちょっとダメそう」


うちの学校の生徒数は多い。

そして食堂を利用する生徒も多い。


それに対して食堂は特別大きいと言うわけでもなく、だから毎昼カバーしきれず一生あの場に人を混在させている。


一応学校は移動販売する業者と提携して生徒の分散を図っているが、それでも人の波は変わらず荒い。


マジでいつも運動会している感じだ。


ただ、授業が終わって直後はギリギリ秩序が保たれている。俺たち2年の教室は校舎4階。

食堂まで1番遠いから少し急足ではあるがその瞬間を狙って来たのが今さっき。


瑞希はひどく落ち込んでいた。


うん。仕方ない。こう言う時は…。


「瑞希さんや」


そう呼びかけると、今度はちゃんと顔を向けてくれた。ただその顔は見て取れるほどに落ち込んでいる。

とてもわかりやすい顔というのは見ていて疲れない。


それに一喜一憂がしっかり100%のとこまで振り切ってくれるから可愛く見える。

正直落ち込んでる表情もかわいい。


こう、なんだろう。ぎゅって抱きしめたい。


けれどここは外。

人前。

そう言うのは控える事にしている。


「……?」


俺は瑞希に息が当たらないように呼吸をして、ポケットから一つの包み紙を取り出す。


「目、閉じて」

「え、うん…」


長いまつ毛。

折り畳まれる大きな目。

綺麗な鼻筋の下にある薄い赤桃色の唇。


俺はそこに茶色い長方形のカケラをクイッと優しく押し入れる。


「んっ…」


パリッと、瑞希の口の中で砕ける音が聞こえて来た。


そうしてバリバリ咀嚼する瑞希の頬は緩んでいく。

目尻も満足そうで、さっきの落ち込みはどこへやらと言った雰囲気。


「美味しいっ」


瑞希は大のチョコレート好き。

だから一段と笑顔が強い。

ニヘラと笑うその顔は死にそうなくらい愛おしかった。鋭利な歯はどこか柔らかそう。


(くぅう…!! はぁ…。マジで天使)


そんな昼であったが談笑で時間を潰していたらあっという間だった。


今はお腹が空いているが、放課後喫茶店に行こうと言う約束をしていて、どちらかと言えば楽しみの気分の方が強い。


だったのだが…。


「ごめん俊介っ、ちょっと用事できて喫茶店行けないっ」


放課後に入り10分くらい教室で待ってと言われ待ったあと、小走りで戻って来た瑞希は早々にそんな言葉を口にした。


その顔はとても申し訳なさそうで、苦渋の決断と言った風だった。それに瑞希が喫茶店に行くのを諦めると言うのは相当な事があったのだろう。


「…分かった。じゃあ俺先に帰っとくね、また連絡する」

「うん…ごめんね」


俺は敢えて理由を聞かず階段を降りていく。

そして、近くのロッカーの影に身を隠した。


(やっぱキモいなぁ俺…)


そのあとしばらくしてキョロキョロと不審者な挙動を振り撒いて階段を降りてきた瑞希を観測する。


向かう先は2階。


近くに3年生の教室があるその階で、瑞希は不安そうに歩みを進める。


そして、たどり着いた先はーー


「お邪魔します…ぁの、白鳥菊さんはいらっしゃいますか」

「……ぁ、あーはい! 私です…けど……」


髪の毛をポニーテールに結んだ女の子は瑞希の元へと小走りでやってくる。

そして初対面。

開口一番、瑞希は言った。


「あっあの!」

「うん……なに、かな」

「白鳥さんの…その…で、弟子にしてください!」


ーー家庭科調理室だった。


「……ぇ」

「入部届の紙とこの時期からの入部も認めてもらってますっ…なので……お願いします…!」

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