(48)変わり果てた社務所
今回も、読んでくださってありがとうございます。
神殿の、社務所が。
あれも、これも、それも。銀色のアルミボディが眩しい、洗練されたデザイン。背面には、ちょっと欠けたパイナップルマーク。
「ほほほ。やはり持ち物には美意識が必要ですわぁっ♡」
ビビアーナが、ナップル信者と化していた。横では同じくアニェッラが「おおユート!いいなこれ!」と、スマホをスッスしている。
「お姉ちゃんたち、そういうの好きそうだと思って」
ベルティーナのデスク周辺には、ゴツいラックにチカチカと光る箱がびっしりと積まれている。仮想コインマイニングでもしているのか。
駄目だ。この神殿は、オーパーツの巣窟になってしまった。今更だけど。
こっちでは、あれから三日経過していた。壁の外では、ドレイパーの皆さんがまだ右往左往している。なんせ大所帯だ。指揮統率も大変なのだろう。ベルティーナは早速望遠カメラを城壁に設置して、村の首脳陣でモニター監視している。もはやサイバー要塞だ。応接室は円卓に模様替えされていて、各席には個別のモニター、そして正面にずっしり構えるのは国王カロージェロ3世。机に肘をついて手を組み、気難しげに黙り込んでいる。某特務機関の総司令のようだ。しかし、
「むぅん。さっぱり分からん。何がどうなっておるのだ」
「申し訳ありません、陛下。うちの娘が」
円卓に着くベニートさんが、申し訳なさそうに小さくなっている。
「良いのです、ベニート。これは良きものです。ユート様の世界の魔道具とは何と素晴らしい」
うぇっ、カルの隣の王妃様から、いきなりキラーパス。
「そのっ、魔道具っていうか、これを探して使いこなすベルティーナが凄いっていうか」
「ユート様は常に謙虚で素晴らしいお方だ!」
ちょっ、横からアレッサンドロさんがあらぬ燃料を。やめてくれ。俺のライフはゼロだ。
とりあえず、獅子族の側近さんから読み上げられた内容は、以下の通り。
・動員された兵士は、ほとんとが農民。数は多いが戦力としては微妙。
・元々一枚岩ではないが、兵糧が尽きかけて争いが起きている。
・多くの者が投降もしくは帰還を望んでいる。
・強硬に進軍を主張するのは軍を率いてきたダインリー侯爵のみで、ドイル騎士団長は内々に和睦を求めて来ている。
「ユート殿は、どうご覧になりますか」
いきなり話を向けられて、俺は面食らう。さっきまで、自分の出向のことで頭がいっぱいだったのに、紛争解決の判断を任されるなんて。
「えっと、これまでの皆さんの対応を見ると、不要な戦闘は避けたい様子。争いは禍根を残しますからね。僕としては、和睦の末の放流に賛成です」
「おお、ユートならばそう判断すると思っておったぞ!」
カルが机をバンと叩く。圧が凄い。
「問題は、彼奴らがぐずぐずと退却を決断出来ぬことです。いつまでも陣取られては邪魔ですし、どうしたものでしょうなぁ」
「えっと、それなんですが。カル、亡命希望者がいたら、ベスティアに受け入れるって可能かな」
するとカルと王妃が目配せをして、ニヤリと笑った。
「ハハ。ユートならそう言うだろうと話していたのだ。良いぞ、そもそも我らベスティアは多民族国家。猿人族とて我らの同胞だ。受け入れようぞ」
ならば話は早い。早速、彼らに働きかけよう。
「えー、ドレイパー軍の皆さんにお伝えします」
俺は城壁の一部を収納し、代わりに城門を設置した。城門の上には、通販で買った巨大スピーカー。ヤバい、ライブが出来そうだな。
「我らユート村は、移住希望者を募集します。未だ発展中の村ですが、食べ物と住居には事欠きません。ご家族揃っての移住も大歓迎です。条件は、こちらの門を潜って中に入れる方、およびベスティアに籍を移すのが可能な方。奮ってご応募ください」
天狼族の皆さんが、ギイ…と開門した先には———
「白コロ上がったよ〜!」
「イカ焼き美味いよ、イカ焼き〜!」
「らっしゃい!焼きそば食べてって〜!」
最近の通販は凄い。屋台のあのセットが、ほんの10万円もしないで普通に売られている。準備したのは、業務用の下処理済みのホルモンやイカ。焼きそばやフランクフルトに至っては、チルド品をそのまま袋から鉄板の上に出しただけだ。調理技術も何も要らない。熱々の鉄板の上でジュウジュウと音を立て、凄まじい芳香を放つ屋台飯たち。同じく大量にポチったテーブルとベンチでは、既に役場で出来上がった面々が、競うようにビールを呷っている。
「っかー!!!たまらん!!!」「何じゃこの喉越しは!!!」「キンッキンに冷えてやがる!!!」
どういうわけか、ビールも常温ではなく冷えた状態で購入出来る。大陸共通語にも対応していることだ。こっちの通販は、元の世界の上位互換かもしれない。
干からびたわずかなレーションを奪い合い、飲料水にすら事欠くドレイパー軍に、屋台作戦は覿面だった。司令室のモニターには、動揺する兵士たちの様子が音声と共に映し出される。
「何ていい匂いなんだ…」「肉、酒、それに海鮮なんて…」「嘘だろ…」「お…俺…」
一人、また一人と門に引き寄せられる兵士たちに、背後から指揮官の檄が飛ぶ。
「馬鹿者共!騙されてはならん!それは奴らの罠だ!」
「戻れ!戻らぬと死罪にするぞ!!」
「うるさい!どうせ俺らは捨て駒だ!」「ベスティアに攻め入って死ぬか、兵糧が尽きて帰りに捨てられるか、ならここで飲み食いして死んだ方がマシだ!」「そうだそうだ!」
その声を皮切りに、ドッと兵士が押し寄せる。俺たちの罠、こうかはばつぐんだ!
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