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なぜか俺だけ農村シミュレーション  作者: 明和里苳


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45/57

(45)大軍

今回も、読んでくださってありがとうございます。

 昨日、遷都を了承した。時間の流れの違うこちらでも、きっと数日しか経っていないはずだ。なのに、この大量の天幕と人と馬。一体どゆこと。しかも問題は、カルたちが来た時と天幕の雰囲気が違うということ。何て言うか、貴人用というより、実用的っていうか。しかも決定的なのは、掲げられている旗の紋様が違う。


「ユート様!!!」


 俺があんぐりと村の外を眺めていると、畑から村民が俺に手を振っている。ただならぬ雰囲気だ。俺は急いでパーカーを羽織り、塔を降りた。




「残念なお知らせ。人間族が攻めて来た」


 いつもながらに無表情なベルティーナ。村人が村長ズやカルたちを呼びに行っている間、俺は社務所で三人娘と待っていた。てか、ベルティーナさんや。この無数のディスプレイにサーバーは何ですか。サイバー起業でもするつもりですか。


「とりあえず、お姉ちゃんが投資を始めて、私はアプリを開発中」


 もう起業してた!てか、何アプリ?!そしてビビアーナの投資話とエグい右肩上がりのグラフに頭を抱えているうち、カルたちがやって来た。


「済まんな、ユート。儂がここに遷都を提案したばかりになぁ…」


 カルが申し訳なさそうに頭を掻く。


「ユート様は人間族。彼らと対立されるのは、非常に心苦しいかと思われますが…」


 ここから一番近い国家、ドレイパー王国。人間族は、この村のリーダーが人間の俺だと知って、俺の臣従と村の無条件開け渡しを要求しているらしい。アレッサンドロさんが何とも言い難い表情だ。


「ユート様。彼らを手引きしたのは、我が兄、栗鼠族の族長一派でございます。何とお詫び申し上げたらいいのか…」


 ベニートさんも悔しそうな表情だ。彼らは何も悪くないのに。


 ここ見限りの大地は、作物が育たず旨味のない土地として、人間族と獣人族、両方から捨て置かれていた。一応、国境の取り決め上では、獣人国の領土。実際、栗鼠族が住んでいたわけだし。しかし、首都からの距離で言えば、ドレイパーの方が近い。彼らは栗鼠族の族長からのタレコミによって、珍しい作物や豊かな実り、見たこともない美味いものがあると知り、ここまで進軍して来たという。なんだかなぁ、もう。


 とりあえず俺は、人間族だからって特に肩入れする気もないし、彼らが謝ることなど何もないと伝えた。基準は明確だ。この村に入れない時点で、彼らと今後付き合うかどうかはもう決まっている。


 そんな話し合いをしている最中、外から大きな声が聞こえて来た。


「人間族の煽動者ユートよ。速やかに投降しろ!大人しく村を明け渡すなら、命だけは保証してやろう!」


 音を拡大する風魔法らしい。街宣車か。


 俺がいない間、アレッサンドロさんとベニートさんが壁越しに交渉しようとして決裂。仕方がないのでカルが表に立ってくれたが、わずかな手勢で移住して来たカルはドレイパーにとって垂涎の獲物。ここでカルを倒せば、ベスティーアを倒すことも夢ではない。火に油だった。じゃあもう、俺が出て行くしかないんだよな。はぁ。




「あ、えーと、ユートは俺ですが」


 村の南端まで足を運ぶと、偉そうなヒゲもじゃのオッサンが栗鼠族の族長を従え、偉そうにふんぞり返っている。


「やっと投降する気になったか。待たせおって」


「いえ、投降する気はありません。俺は今後一切、ドレイパー王国と人間族との取引には応じません。お引き取りください」


 そこでSEサウンドエフェクトと共に、システムメッセージが流れた。


『ドレイパー王国および人間族との交易を停止します』


 そのメッセージを境に、ドレイパー王国軍の音声が途絶えた。




 

「———静かになりましたな」


 相変わらず壁の向こうでは、偉そうなオッサンが何やらうごうごしていて、槍を持った兵士が見えない壁にぶつかっている様子が見える。奥では破城槌のようなものも。しかし、何だか解像度の高い巨大モニターを見ているような感じだ。


「ユート、お前は本当に凄い奴だな」


「俺が凄いんじゃないよ。アプリが凄いんだ」


 それにしても、村人の勧誘に出ている採集班の人たちが心配だな。


「ご心配には及びません、ユート様。天狼族の皆さんは少数精鋭、我ら栗鼠族は斥候集団。遅れを取ることはございません」


 ちゃんと機を見て安全に帰って来るだろうとのことだ。一応村人の人口も変わっていない。俺はベニートさんの言葉を信じることにした。




 さて、ひとまず目先の問題が片付いたら、腹が減った。とりあえず役場に行って、仕切り直しだ。


「大変だったねぇ、ユート」


 幾許いくばくか不安そうな村人をよそに、アウグストは相変わらず陽気に料理を運んで来る。「料理は作る人の気が籠もるものさ。俺が落ち込んでても仕方ないだろ」とのことだ。俺があっちに帰って翌日には大軍が押し寄せて来たらしいから、これで3日目くらいか。狩猟班が狩猟に行けないから、そろそろタンパク源が心許なくなって来たらしいんだけど、そこは通販の出番です。


「まあっ!ユートの世界では、お肉がこんな風に処理されて!?」


「逆に、処理前の食肉は滅多と手に入らないんだ」


 さっきベルティーナに教えてもらった、通販の使い方。頼んだら、箱がボンと出現する。こっちとあっちでは時の流れが違うせいか、タイムラグなしだ。コインはさっき神殿からタップで回収したので、余裕がある。今回は畑の拡張より、当面必要な食料や生活用品を優先しよう。


 幸い、砂糖と油の生産は軌道に乗り始めたみたいだ。あと、こちらで生産できないのは、塩。それから乳製品もまだだな。最近では、畑の拡張がいよいよインフレして、何万コインあっても焼石に水だが、10万コインもあれば結構な食料が確保できる。野菜はタダだしな。


「さぁ、チーズもたくさん用意したし、今日は目一杯楽しんでくれ!」


「「「おお!!!」」」


 ホールでは快哉の歓声が上がり、あちこちから木のジョッキがぶつかる音がした。

今回も、読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  ユートがいない間にサーバーとかアプリとか開発されてるー(笑)  そういえば猿の実験観察で、新しい文化を取り入れたり広めたりしていくのは若い雌と子供でしたね。そう考えると、出会い当初に少女…
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