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なぜか俺だけ農村シミュレーション  作者: 明和里苳


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(43)ベスティアとの同盟

今回も、読んでくださってありがとうございます。

 国王カルとやって来たのは、こないだ建てたカフェ兼お茶工場。アプリにはこんな商業施設どころか、そもそも茶の木やコーヒーすら登場しなかったはずだが、出来てしまったものはしょうがない。中では、執事っぽい人と侍女っぽい人がお茶の葉っぱを炒っていた。それぞれの製作過程はパワポにまとめて印刷しておいたので、それを参考にして製品開発を進めているようだ。まずはとりあえず、発酵が不要な煎茶から。


 不思議だ。異世界の王様と同じテーブルで、立派な茶器で給仕されながら、煎茶を啜っている。まだ茶を収穫して工場を立ち上げて数日だというのに、ちゃんとお茶の味がする。プロって凄いもんだ。


「それでユート。ベスティアの首都をこの地に遷都する話だが」


 えっ、それマジで言ってんの?!


 カルによれば、ここは王都から遠く西に離れた辺境で、交易するにしてもどちらかというと人族の国家に近いらしい。しかし、俺がここに留まり、異世界からあらゆる知識や文化をもたらし続ける限り、いずれここが世界的な文化の中心となるだろうと。


「本音を言えば、ユートにはベスティアにくみして欲しい。しかしいずれにせよ、ユートに対して敵対的な勢力がこの地を狙った場合、何らかの防衛戦力や外交手段、ブレーンなんかは必要だと思う。俺たちを利用しねぇか、ユート」


「利用も何も、俺からしたら願ってもない提案だよ」


 俺はこっちの世界のことも、貴族社会や為政者の流儀も分からない。もちろん、この村には見えない境界線があって、害をなすような人物は入れない構造になっているようだが、村人の出入りは自由だ。村人も一生村から出ないというわけにも行かないだろうし、彼ら自身の安全や公平な交易は重要な課題だ。遷都というと、果たして王都の機能を全て受け入れられるほどの規模まで拡大するには、一体どれくらいの時間がかかるか分からない。今すぐに百万都市を作る訳にはいかないが、徐々に面積を拡大し、人口の流入を受け入れ、共存して行く分にはやぶさかではない。


 カルと俺はがっしりと握手を交わし、そしてまた役場へと逆戻りした。




 今日は何だか時間が過ぎるのが速い。こっちに来て、まず畑で適当に作物を作り、神殿でArgent(アルジャン)通販に腰を抜かして、役場、学校、カフェ、からの役場。スローライフとは言い難いが、良い意味で充実していたと思う。今回は、風呂に入ってお開きにしよう。


 そういえば、通販ってどうやって届くんだろう。神殿の社務所には、いつものあの箱が置いてあったが、まさかあっちから宅配の人が乗り付けて?いやいや。次回聞いてみよう。


 それより、こっちに居ながらコインで買い物。ヤバいな。こっちの世界のゲームバランスというか、文化レベルを著しく汚染してしまうが、村人が豊かに暮らすために多少活用したってばちは当たらないと思う。そして、本音を言うなら俺よ。コインなんかタダ同然でいくらでも増やせる。一体何を買おうか。


 しかし、急に言われたって、欲しいものなんて何も思いつかないものだ。この村にこれがあれば便利だろうな、あれがあれば村人が喜ぶだろうなっていうのはいくらでも思いつくんだが、自分のこととなるとさっぱりだ。俺は一体何が欲しいんだ?さっきアウグストと話してて、村人の幸せと自分の幸せは矛盾しないことは理解出来たからいいものの。まあ、自分の欲しいものが思い浮かばないなら、村に必要そうなものからでもいい。片っ端からリストアップして行こう。衣食住っていうけど、今のところ食住は足りていると思う。じゃあ、服はどうかな。


 そういえば、通販はArgentしか使えないんだろうか。ファストファッションのUGとか、動きやすい服ならスポーツショップとか、作業服専門店とか。天楽ショッピングモールなら、国内の小売店だけでも膨大なアイテムが揃う。ロマンだ。


 俺は思いつく限りのネットショップに想いを馳せながら、家族風呂を堪能した。




 さて、充実した異世界ライフもアラームの音で終わり。今日は昨日に引き続き、先週の有給のフォローから始めなければならない。しかし、昨日の帰りの重苦しい雰囲気と違い、今朝の俺の足取りは軽い。実質通販使い放題という経済的な自由が、俺の背中を後押ししてくれる。いや、経済的な自由もさることながら、家と会社を往復するだけの人生が、異世界の獣人国家での二重生活。すると、会社だけが全てだった俺の人生がいかに不自由なものだったか、何であんなに会社に心が縛られていたのか、今となっては不思議で仕方ないほどだ。


 満員電車に揺られつつ、俺は村の発展について想いを巡らせていた。電車は相変わらず窮屈なのに、それはとても楽しい時間だった。

今回も、読んでくださってありがとうございます。

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