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08.オメガとヒート



試しに着てみた制服と呼ばれるそれは、真っ黒なワンピース。


これはあれだ、よく図鑑とか教科書で中世の修道女が着ているやつだ。あまり魅力的であるとは言い難いけれど、制服と言われる以上は絶対なのだろう。




「用意できたか?」

「はーい」


ノックもなしに外から急かされたので、鍵を開けた。


アルベルトもまた正装に近い格好に着替えていた。ご丁寧に一番上までボタンを閉めて、更に黒いストールを首に巻いている。警戒心マックスといったところか。


「この時期にストールって暑くない?」

「備えるに越したことはない」

「信用ないなー」

「どうして信用されると思ったんだ」

「…………」


「お前も気をつけろよ」

「何を?」

「お前はオメガだから、ボロが出るとすぐに搾取されるぞ」

「ボロってどういうこと?」

「とにかく、今日は俺の側を離れるな」


ろくに説明もせずに、アルベルトは棚の中から何かのスプレーを取り出して私に噴きかける。


「げほっ……何するの、いきなり!」

「学校では絶対にオメガとは明かすな。属性を聞くのは宗教を聞くのと同じぐらいタブー視されているから無いと思うが、もしも聞かれたら無難にベータと言っとけ」

「それって嘘になっちゃうじゃん!」

「アホ、オメガなんて言ってみろ、後ろ指刺されるぞ」


「……ただの属性でしょ?差別される意味が分からない」

「ヒートを思い出してみろ。そんな事言えるか?」

「思う出すも何も覚えてないってば」

「じゃあ、次のヒートを楽しみにしとくんだな。薬を飲んでどれほど抑えられるか実物だ」


アルベルトは冷たい目を向ける。


オメガというだけで、そんなに人様に迷惑をかけることになるのだろうか?自分が見境なく誰かを追い回す様子は想像できない。だいたい、個人差もあるだろうし。



「ヒートっていつ始まるの?」


スプレーを噴かれた全身が煙たくて、スカートの裾をパタパタさせながら尋ねた。


「さあな。俺もオメガと接触した事がないから分からないが、聞いた話では3カ月に一回ぐらいらしい」

「なにそれ、そんなに少ないの?余裕だよ」


ヒートヒート煩いから、てっきり生理よろしく毎月定期的に来るのかと思っていた。3ヶ月に一回であれば、ある程度の覚悟をもって臨めるし、準備さえしておけば大丈夫そう。


「……どうだかな。とりあえず、ヒートになったら俺にすぐ知らせろよ。あと、ヒート期間は絶対に俺に近付くな」

「えー、どうしてそんな事言うの!」

「お前は馬鹿か、ヒートのオメガがアルファに接触するとどうなるか分かるだろ」


説明させるな、とブツブツ文句を並べながら歩き出す背中を慌てて追いかける。


「どうなるの?」


アルベルトは信じられないという顔で振り返った。


「何もかも滅茶苦茶になる。お前も俺も社会的に死ぬ」

「……そんな、大袈裟な」

「本当だ。オメガの誘惑にアルファは勝てない。仮にも聖職者である俺が、そんな誘いに乗ったら終わりだ」


よく分からなくなってきた。

番ってカップルではないの?


この冷徹な二重人格男は私に好意があるようには見えないし、よろしくする気もないと言っていた。つまるところ、ヴァンパイアの番とは血液の提供者と受給者という関係であって、ただのビジネスパートナー的な感じなのだろうか。



「私たちの番って、恋愛ではないの?」


質問がストレート過ぎたのか、アルベルトは暫くの間、口を半開きにして固まった。


「……誰が、オメガなんかと!しかもヴァンパイアだぞ?聖人がヴァンパイアと結ばれるわけあるか」

「何よ、その言い方!ちょっと格好いいからって調子に乗らないで欲しいんですけど」

「俺が番として管理をするのは、あくまでも吸血関係だけだ。お前が犯罪に走らないように見張るのが役目なんだよ」

「理性があるんだからガブガブ行ったりしないわよ!」

「さぞかし立派な理性を持ってるんだろうな?人の枕抱いて興奮してたのは誰だよ」

「………!」


ムカつく。勝ち誇ったような笑みを浮かべて、ザマーミロと口を動かすアルベルトにはもう、新宿歌舞伎町のプロフェッショナルホストの面影はない。


まあ、もともとホストではないんだけども。



「もう知らないから!貴方が私の魅力に気付いて泣いて懇願して来ても絶対相手なんかしてあげない!」

「こっちだって土下座されても御免だ、ボケ」


ぐぬぬ、この性悪聖職者め。

私の口喧嘩レベルがもう少し高ければ、もっとハードなワードで対抗出来るのに。


ていうか、仮にも神様に仕える人間がこんな暴言を吐いても良いものか?おーい神様、貴方の忠実な下僕がここで私にとんでもない悪態をついていますよ…



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