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07.二人の朝




「………んだよ、もう起きてんのか」

「貴方が遅すぎるのよ」


太陽が真上に昇る頃、のそのそと起きてきたアルベルトに呆れながら言う。


聖人がこんな堕落した生活をしていて良いのか。

少し寝癖が付いた茶色い癖っ毛がピコピコと頭の上で揺れている。



「何これ?お前が作ったの?」

「うん。冷蔵庫の中身使っちゃった、ごめん」


良かったらどうぞ、と言う前にアルベルトは目玉焼きを摘み上げて口に運ぶ。聖人を名乗るには、あまりに色々な面で目に付く点が多いが、いちいち気にすると疲れるので目を瞑ることにした。


「うまいよ、ありがとう」


指先を舐めながら微笑む。

一瞬でも彼の親指になりたいと思った私のことをどうか全力で殴ってほしい。これだから面の良い男は困る。


焼いたベーコンやパンを黙々と食べ続け、アルベルトは最後に手を合わて再び礼を言った。



「そう言えば、寝室のクローゼットに国から支給された制服がある。後で着替えといてくれ」

「………制服?」

「今日から番研修だからな」


なんじゃそら。

はてなマークを浮かべながら、寝室へ向かった。


扉を引くと、開け放たれた窓が目に入る。

風がカーテンをなびかせて、少しだけアルベルトの甘い匂いがした。理性が崩れそうで思わず拳を握る。



「……負けない、大丈夫」


昨日の経験で吸血行為の素晴らしさは身を持って知った。同時に、それが常に相手を危険に晒すという事実についても。


私はべつに根っからのヴァンパイアじゃないし。


普通に今朝も、目玉焼きとベーコンを食べたし。何なら牛乳だってガブ飲みしたのだ。ヴァンパイアが野蛮だなんて、どうか差別しないでほしい。



「枕と結婚でもする気か?」

「………っふお!」


突然背後からアルベルトの声がして飛び上がる。

慌てて顔から枕を引き剥がし、巻き付けたシーツを床に投げ捨てた。


「ノックしてよ!」

「2回した。自慰するなら鍵ぐらい掛けとけ」

「してないわ!何言ってんの変態!」

「どっちが変態だよ」


「いや、本当にこれは違うってば、無意識で…」

「一応窓は開けて換気しといたんだがな」

「そう、風が!風がアルベルトの残り香を運んできて!」

「参ったな。まだヒートの時期じゃないだろ?」

「ヒート?」

「オメガの発情期のことだよ」

「っな、発情なんてしてないし!」


やめてほしい、本当に。

私はこんなに理性的で知的な女なのに。


そんな獣を見るような目で見ないでよ。




「とりあえず着替えて来い。汗がすごい」

「………あ、」


自分では気付かなかったが、前髪がおでこに張り付くくらいには汗が噴き出ていた。


恥ずかしくなって、クローゼットから適当に何着か引っ掴んで部屋を飛び出す。突き当たりに浴室らしい部屋があったので、入って鍵を掛けた。



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