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28.吸血と誘惑




うん、大丈夫。


だいぶ気持ちは落ち着いて来た。今朝は早起きして何度も鏡の前で練習したもの。シミュレーションは完璧だ。赤面なんてしないし、もう泣いたりもしない。私たちはまた、普通の吸血行為だけ行う良きパートナーに戻れる。


リビングの扉が開いて、寝癖を付けたままのアルベルトが部屋に入って来た。




「………おはよう。早いな」

「おはよう!朝ごはんどう?」


思ったより少し声が大きくなったけれど概ねOK。

笑顔も問題なかったと思う。


「ニーナ、昨日のことを…」

「パン何枚食べる?私お腹空いてるから今日は二枚ぐらいイケちゃうかもなー!」

「……あれから俺なりに考えてみたんだが、」

「あ、私倉庫に忘れ物した!」


ドッと逃げるようにリビングを飛び出した。

廊下を突っ切って倉庫に逃げ込む。


ぜんぜん、ダメ。どうしてそうも緊張するのか自分を問い詰めたいぐらい心臓がバクバク鳴っている。小心者のニーナ、今こそ気合を入れるときよ!がんばれ!


意を決して倉庫の戸を引くと、入り口を塞ぐようにアルベルトが立っていた。



「っふぁい!」

「ニーナ、話を聞いてほしいんだ」


再び安全な倉庫内に戻ろうとする私の襟元をアルベルトが掴む。そのまま廊下に摘み出されて壁際へ追いやられた。長身のアルベルトに見下ろされると、やはり私はまともに目を見ることができない。


「あの、どういった話で……」

「昨日のことは本当か?」

「……いえ、えっと…」


自分は決してコミュ障ではないと思って生きてきたが、存外それは勘違いだったかもしれない。私は目はおろか口さえも自分の意思で動かすことができず、ただ目の前のアルベルトの白いシャツを見つめていた。急いで出てきたのかボタンが一つ掛け違えている。


「あ、ボタンずれてる…」

「直してくれ」

「……うん」


手が震える。こんなにブルブル震えるの、きっと私かアルコール依存症の人ぐらいではないか。アルベルトは何でこんなに私の一挙一動を凝視するのだろう。やめてほしい。


ボタン一つ掛けるだけなのに異常に手こずる私に呆れてか、アルベルトは小さく息を吐いた。



「もういい。そのまま吸えよ」

「……はい?」

「血、暫く吸ってないだろ。ティル・ノイアーの血液なんかよりはよっぽど美味いと思うが」


アルベルトの肩に手を掛けて、ボタンが外れたシャツを少しだけめくった。私が付けた小さな印は確かにそこにある。


「………いいの?」

「番としての仕事だからな」


小さく噛むと、アルベルトの身体が震えた。

吸血ショーでリリーに噛まれた時に分かったけれど、血を吸われるというのは結構痛い。だから、私は少しでも彼が痛みを感じないように浅く噛んでいるつもりなのに、アルベルトはグイグイ私の頭を押さえる。


征服したいのかもしれない、と頭の隅で考える。


何かの本で、男性が女性に自分のものを舐めてもらう時に頭を押さえるのは本能的な感覚で相手を支配したいから、と書かれていた。私たちの場合は吸血という特殊な行為で、アルベルトはむしろされる側なのだけど、彼としても何か少しでも気持ちよくなってくれていたら私は嬉しい。


忌み嫌う私を支配できたところで、彼にとって何かプラスになるものがあるとは言えないけれど。



「……っん、」

「ごめん、痛かった?」

「いや…大丈夫だ。続けてくれ」


アルベルトのことを好きだと認識してから、吸血の時もいつもと違う気持ちになるようになった。私が血を吸うことで悶える姿にひどく興奮するし、気を抜けば他の部分へも手が伸びそうになる。もっと触れたいと思ってしまう。


ああ、本当に。

叶わない番の恋ほど苦しいものはない。




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