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24.ヴァンパイアと夜



シシリアが教えてくれた講習会の会場は、普段番の研修を受けている建物の地下だった。


何人かの男女が輪を作って話し合っている。知り合いも居ないので、後ろの方の座席を確保して座った。夜だからか、教室の蛍光灯は昼より暗く感じる。


アルベルトには、ミラの家に遊びに行くと伝えて出て来た。送って行くという有難い申し出も断って、一人で家を出たのがちょうど30分ほど前の話。




「皆さん、揃いましたか?」


黒い服を着たシスターのような格好の女性が部屋に入ってきて、会場内は途端に静かになる。女性の後ろには同じく黒いマントを羽織りフードを被ったままの大柄な人間が続く。


中年のシスターは薄い冊子を机の列ごとに配りながら、簡単に今日の講習会の説明を始めた。その内容は、シスターによるオメガの生態や行動分析が1時間、そして実験体を交えたヒート対策の実演が1時間、というもの。


シスターは教壇に登り、連れられて来た大柄な人間はその後方に設置された椅子に座った。



「それではこれから、オメガに関する講習会を始めます。皆さん遅い時間に集まっていただき、ありがとう」


さっそく出てくる欠伸を噛み殺しながら、耳を傾けた。


「私たちの性は様々な形で分類することが出来ます。先ずは生殖機能で男女の二種類に、そしてアルファ、ベータ、オメガという第二の性が更に存在するのです」


改めて、その設定には感心する。

オメガバースなんて創作の中の便利な設定だとばかりに思っていたけれど、実際に存在するとこんなに面倒だなんて知らなかった。この世界でもオメガの男の子は妊娠したりするのだろうか?


流石にアルベルトにも聞きにくいな…



「ーーーといった風に、ヒート期間の存在がオメガの社会的地位を脅かしている原因です。皆さん、パートナーがベータやアルファ、オメガであれどヒート期間で相手を困らせたくないですよね?」


参加者が口々に賛同の声を上げる。

ただ生きているだけなのに、オメガだというだけで社会的地位云々の心配をしなければいけないなんて、現代であれば性差別になって人権団体が黙っていなさそうだ。


ふと目をやると、教団で熱弁を振るうシスターの後ろでフードを被った人間は小刻みに揺れていた。その大きさからして、おそらく男であることは間違いない。


後半の実演で参加するのだろうか?

実験体のようで気の毒だ。



「皆さんも正しい知識を身に付けて、その地位を高めましょう!清く賢いオメガになるのです!」


最後はそんな言葉で締め括って、シスターは教壇を降りた。


休憩時間はなく第二部に入るようで、人が一人入れるぐらいの檻が部屋の中に運び込まれる。準備係の者が箱の中から手枷や口枷といった物騒な代物を取り出すのが見えた。


前の方の席の参加者はそれらを見てざわつく。




「さて、では後半に入りましょう」


シスターが手を叩くと、後ろに座っていた大きな男が立ち上がった。男は黙って檻の前まで進み、その場で停止する。その手に準備係は慎重な面持ちで重たそうな手枷を付けた。続けて口枷が嵌められる。


それは、本当に化け物に対する対応。


「こちらはヒート期間のヴァンパイアのオメガです。普通の人間よりも彼らのヒートは分かりやすいので、今回は協力をお願いしました。私が話をしていた前半は抑制剤の効果でヒートを抑えられていましたが、その効果もそろそろ切れてきたようですね……」


準備係が背後からフードを引っ張ると、その下からは短髪の若い男が現れた。苦しそうに短い呼吸を繰り返しながら、赤い顔をしている。


そうだ。これがヒート期間のオメガの顔。

最近では吸血ショーを行っていたリリーがこんな顔をしていたっけ。彼女の場合は多少の演技も入っていたかもしれないけれど。



「……血を!血をくれ!!」

「はいはい、静かにしてちょうだいね」


完全に理性を失ったように手枷を揺らす彼は、準備係に背中を押されて檻の中に入れられる。


「このようにね、オメガのヴァンパイアの場合は吸血欲求が高まり凶暴になります。激しい動悸がして情報処理能力なんかも低下しますので注意してください。ヒートの効果的な対策は皆さんご存知の飲み薬の他に、うなじに塗るクリームなどもありーーー」


気分が悪くなってきた。

頭が痛いし、視界が歪む。


シスターが薬を取り出して順番に紹介している様子を見ながら、姿勢を低くして部屋の後ろにある扉へ向かった。歩いているのに平衡感覚が失われていくような、不安定さを感じる。


足早に廊下を走り抜けて、建物の外へと出た。

夜の風が頬を撫でる。


もう一度戻って話を聞く元気はない。とぼとぼと家への道を歩き出した時、後ろから見知った声が聞こえた。



「また、夜の散歩の途中か?」



振り返ると、ティル・ノイアーが立っている。

大きな満月が背後でその赤い目を光らせた。



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