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19.一人と一人



顔を合わせられなくて、それから暫く物置で寝起きした。


研修に行く時は早起きしてアルベルトより先に家を出る。

一応置き手紙は残して置いたし、彼はもう私の心配なんてしないと思う。


講堂での研修中も離れて座った。

私はだいたいいつも眠ってしまうから、後ろの方の席を確保して、あとは午後の帰宅まで適当にやり過ごす。帰り道ももちろん別々。それぐらいの道は覚えているし、まだ明るいうちに帰れば怖くなんかない。




「……アルベルトと喧嘩でもした?」


昼休憩でサンドイッチを食べていると、悲しそうな顔をしたミラが話し掛けてきた。


「ううん。ちょっと自立したかったから」

「自立?」

「いつもアルベルトに頼りっきりだし、私も一人で生きていけるぐらい強くならなくちゃね」

「…でも、最近血は貰えているの?一週間の摂取量が1000ミリを下回ったら身体に不調が出るわ」

「それは個人差もあるよ。私はこの通り、元気」

「……なら良いんだけど」


心配そうなミラの後ろで夫のルイスも席に座ったままこちらを見ている。優しい優しいホフマン夫婦は私の憧れだ。


私は絶対、そうはなれないけども。


チャイムが鳴ったのでミラは席に戻って行った。無意識にアルベルトの姿を探しそうになって、ぎゅっと目を閉じる。




◇◇◇




天気が悪い。


今にも降り出しそうな曇り空の下を走る。

こんな日に限って新しいテキストを貰ってしまって、鞄は漬物石のごとく重い。



「………しんど」


永遠に同じ道を歩いているような錯覚に囚われながら、なんとか前へ進む。大きな木の側を通過した時、木の下でしゃがみ込む女を見付けた。



「大丈夫ですか?」


近付いてみると、顔が赤い。

手の平で額に触れると熱があるようだった。


「熱い、熱があるわ。家はどこ?」

「………ツヴァイよ」

「つ、ツヴァイ…?」


どこか全く見当も付かない。

しかし、こうしている間にも熱は上がって行く。困り果てて辺りを見渡していたところ、遠くから二頭の馬に引かれた荷馬車がやってきた。


手を挙げて、荷馬車を止めると若い男が降りて来る。



「どうかされましたか?」

「あの、こちらの女性が体調が悪くて…ツヴァイという場所に家があるらしいのですが」

「ツヴァイは随分遠いね。とりあえず休めるところへ行こう、もう雨が降り出しそうだ」

「よろしくお願いします」


男に抱え上げられて、女性が馬車に乗る。


「では、お気をつけて…」

「待って!」

「え?」

「一緒に来てほしいの、一人は不安だわ…!」


女が、赤い顔で私に向かって手を伸ばした。

その必死な形相に心が揺らぐ。


私だったら、不安な時に一人にされたくない。


本当はもっとアルベルトと話し合いたかった。喧嘩みたいな言い合いをするんじゃなくて、お互いのことを知るために。微塵も私に興味がなくても、ただ、目を見て話を聞いて欲しかった。少しの間でも良いから、書類から顔を上げて。



「いいわ、一緒に行きましょう」

「………ありがとう!」



女の手を掴む。

厄介者で疎ましがられる私だけれど、誰かの役に立ちたい。必要とされるなら寄り添いたい。


それはたぶん、私自身がして欲しかったこと。




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