18.ビールと栓抜き
不機嫌そうな顔をすると、少し父親に似ている。
アルベルトは私とティルを交互に見て、あからさまに嫌そうな溜息を吐く。オフモードが漏れでていることに私はヒヤヒヤしながらその様子を見守った。
「お前の番が迷子になっていたぞ」
「ああ。念入りに見回りしてくれる自警団のお陰で助かったよ、引き続き、平和のために宜しく頼む」
「本当に管理は出来ているのか?」
「……どうしてそんなことを聞くんだ?」
「いや、前に見かけた時よりも痩せている気がして」
「なるほど、これは驚いたな」
「……?」
「ヴァンパイア犯罪を担当する人間が、ヴァンパイアの体調を気にしているなんて」
「そういうわけではない」
「言ったはずだ。ヴァンパイアの管理はすべて番だけに許される。それ以上、口を出すな」
アルベルトは私の手を乱暴に引き、玄関へと向かう。
「名前は?」
「………、」
「名前ぐらい聞いても良いだろう。随分と過保護な管理者になったもんだな、ワーグナー」
「…ニーナです。今日はありがとう」
二人の睨み合いがこれ以上続くことは耐え難く、何も言わないアルベルトに代わって名前を伝えた。
「ニーナか。また夜の散歩をする時は付き合う」
「……もう迷わないようにします」
「おやすみ」
優しく微笑むティルに手を振って扉を閉めた。
ひと足先に家の中に入っていたアルベルトは、既に冷蔵庫からビールを取り出している。栓抜きを探すのが面倒なのか、机の上のスプーンで器用に外す姿を見て感心する。
「あんな言い方しなくても良いじゃない」
アルベルトがソファに腰を下ろしたタイミングで、話し掛けた。
仲良くする気なんて全く無いという風に、彼はいっさい顔を上げない。分厚い本が数冊積まれた机の上で、私の話を全無視して書き物に集中している。
「アルベルト!」
「なんだよ、ティル・ノイアーと楽しい夜のお散歩を楽しんだんだろ。ちゃんと避妊はしたか?」
「なんてこと言うの?私を送ってくれたのよ?」
「あーそうだったな。あんな下心丸見え男に引っ掛かるお前の先が思いやられるよ」
「喧嘩したいの?彼のことを悪く言わないで!」
「うげー怖い怖い」
口から舌を出してわざとらしく嫌な顔をする。
その顔に心底ムカついた。
「そういうの凄くダサいから止めなよ」
「あ?」
「自分なんてシシリアに見向きもされてないじゃん。上手くいってないからって、私に当たらないで」
「……お前、なんて言った?」
アルベルトがゆっくりと立ち上がる。
前髪に隠れたその瞳は見えないが、確実に地雷を踏んだことは分かった。いや、分かっていて踏んだのだ。
近付いてくるアルベルトを睨む。
「もう一回言ってみろよ」
「………っ、」
アルベルトに押されて、身体がソファに沈んだ。
泣かない、絶対に泣かない。
何の罪もないティルのことを悪く言って、私たちのことを貶すアルベルトにも非がある。自分から謝ったりするものか、耐えろ、耐えろ。
「お前にだけには言われたくない」
「………、」
「シシリアと俺の問題に、お前だけは口を挟む権利はないんだよ。これは俺たちの話だ」
「……分かってる」
「何を?本当に分かってるつもりか?ヴァンパイアと番を組まされて、愛していた恋人に別れを切り出された。オメガが何だよ…知るかよ、そんなの。俺の人生の責任は誰が取るんだよ!」
大きな声が部屋に響き渡る。
びっくりして、少し涙が出た。
一粒落ちたら、あとはもう堰を切ったようにどんどん溢れて頬を伝っていく。
知っていた、そんなこと。
アルベルトが私のことを1ミリも好きではないことなんて、変わりない事実として私は認識していた。それで特に困ることはないし、吸血さえ出来れば万事オッケー。
でも、いざ言葉にして彼の口から聞くと重かった。
鉛のように身体の中に溜まっていく。
「………っごめん、ごめんなさい…」
覆い被さるアルベルトを潜り抜けて、逃げた。
どんな表情をしていたかなんて見ていない。
涙で流れて、全部忘れてしまえたら良いのに。




