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詭弁家と聖女と人生で一番退屈な一日 9


「俺が思うに、アンタは此処じゃあまりにも異質な存在だ」


 レオナルドとボーンはスモークハウスと言う名のの賭場の、壁際にある休憩用のテーブルに腰掛けている。

 その空間内にいる殆どは、賭場に雇われたディーラー、ディーラーと勝負する博徒、負けが込んだ博徒に金を貸して利息で儲けようとする金貸しだけだ。


 探偵か何かの真似事で推理の披露や議論を繰り広げようとしているレオナルドはその実、彼が口にする異質な存在と言う奴にぴったりと当てはまるのだが、その事実を差し引いてもボーンの異質さは群を抜いてる。


「はて、どう言った意味でしょうか」


 ボーンは差し止めるわけでも無く淡々と答えた。


 レオナルドは彼の名前という些細な情報を、ボーンは額は定まっていないが最低でも職人の日当に匹敵する銀貨一枚分、そしてレオナルドの要望で煙草を一本、対等な賭け金としてテーブルに置いている。

 今はゲームの最中なのだ。


 だからボーンはレオナルドの発言を無視してゲームを進行させても良いし、面倒な人間を捕まえてしまったな、と勝負を有耶無耶にしてしまっても強く追求されることはないだろう。


「アンタは儲けるつもりがない。 まずそこが不可解だ。 アンタの言葉を全部信じるなら、見ず知らずの俺に、ギャンブルで負けた俺に、意味も無く金を渡すだぁ? そんなうまい話は詐欺師の常套句だろ」


「わたくしが嘘を言っていると? 王の許可を得て運営されているこの神聖な賭場で、不当な行為を働こうとしていると、そうおっしゃるのですか? 」


「いいや、アンタに限ってだけ言えば両方ノーだ」


 ボーンに限って言えば、とレオナルドは赤字で強調するように。


「アンタは嘘をついない。 いや、つけないんだ。 アンタはこの店の言うなれば秘密警察、イカサマに気づいた可能性のある人間を店から排除する役割なんだろ? 」


 何のことですか、とボーンは表情を崩さずに言う。

 

「まあ、言い最後に全部分かる。 話を続けよう。 もし俺の此処までの推理が正しければ、アンタは金貸しの振りをしてイカサマに気づいた奴、或いはイカサマで大負けした奴を探していたわけだ。 考えたもんだよな、店の人間がジロジロと観察していたり、直接接触すれば自ずと他の客にもその事はバレる」


 レオナルドは捲し立てるように続ける。


「アンタは俺が最後の何ゲームかで一気に有り金を全部無くすところ観てたわけだ。 自分で最初にそう言ったよな? アンタは常に真実を言って、約束を守り続ける限り、俺たちにとっては何一つとして不都合がない構造になっている。 だからもしも万が一のことがあっても、嘘をつかない限りはどんな罪にも問われない、問いようが無い。 そう言う理屈なんだろ? 嘘をつけない慈善家さんよ」


 ボーンは自らの発言を思い出して、一つの矛盾も無いことに顔色を少し曇らせる。


「まだまだ続くぜ。 それからアンタは俺に声をかけて、何かコトが起きてから店が大損をするよりは精々一人の客が資金を倍にした程度の損失で済む様な額を、俺にタダ当然で渡すと約束した。 勿論そのゲーム自体は必勝必敗があるわけじゃねぇんだろうがな」


 もはやゲームの勝敗なんかは気にならないと言った風にレオナルドは更に続ける。


「当然俺みたいにアンタを怪しむ奴は出てくるよな。 そこでアンタは最初の十倍の賞金を出すと急に言い出す。 でもこれも考えてみればアンタからしてみれば痛くも痒くもねぇんだよな。 金貨は銀貨の十倍の価値がある。 金貨一枚と銀貨十枚は全く同じ価値なわけで、アンタは手の中に銀貨を握っていれば、最初の条件で手の中に金貨を握るのと全く同じ事だ」


 ボーンの反応を見るように一呼吸置いてレオナルドは続ける。


「不思議なもんだよな、アンタはハナから負けて金貨一枚分以上にならないようにしてるのに、俺たちは勝ちの最低ラインが銀貨一枚から金貨一枚分に上がったわけだ。 そんな条件をわざわざ断る奴も居ねぇから当然殆どが話を飲む。 アンタの存在はグレーに限りになく近いアウトだが、わざわざそれを指摘する奴も居ないだろう、損するからな。 だから全員引っかかる。 それが例え賭場の仕組んだ一見救済措置のように見える追い出すための口実とも知らずにな」


 ここまでで何か質問は、とレオナルドは立場が変わったかのようにボーンに尋ねる。 

 当然ボーンは首を横に振るだけで。


「更にアンタの作戦を確実な物にするのがもう一つの条件って奴だ。 アンタは俺に一つ権利を与えた。 やろうと思えば最初のゲームを確実に勝つことの出来る権利だ。 有り金全部吐き出してしまた後に、金貨を一枚得られるチャンスを運否天賦に任せられるような奴は居ない。 それでアンタは金貨を一枚渡した後にきっとこう尋ねるだろう、次のゲームをやるかって。 答えは揃ってノーだ。 最初のゲームで権利を使ってしまったせいで、例えソレが平等なゲームでも、何のヒントもない状況なら不利に感じるのは当然だ。 更に言えばアンタが教えるのは質問に対しての真実の答え、唯それだけだ。 でもよく考えてみれば真実って何だ? 真実の対極は嘘か? いや違う。 真実の反対は真実でないモノだ。 ただ面白いことに嘘の反対である嘘でないモノというのは唯の真実だ。 この違いが大きい。 真実でないモノというのはありとあらゆる場所に溢れている。 例えば明日の天気を俺が雨だと言ってそれが嘘であると言い切れるか? 無理だよな。 つまり真実ではないが嘘でもない。 じゃあ昨日の天気は? 確か雨は降ってなかったよな。 これは嘘だ。 この違いが実に大きい。 それにきっと次のゲームは手に入れた資金を全部失うタイプの奴だろう。 どんな質問をしたとしても、ソイツには勝ち筋は作れない。 そんな構造だろう。 こればっかりは推測の域を出ねぇけどな。 だからアンタは質問に真実を答えるとは言っても、その権利はアンタが手の中にコインを隠してからゲームがスタートする最初のゲームでしか役に立たないようにしてるんだろ? 過去についての言及は一意に決まるけどよ、不確定な未来については当然そうではないからな。 アンタよく考えたよ。 以上俺の発言の中に間違いは一つでもあるか?ってのが俺が質問と言うことで宜しく」


 どれだけの時間か、レオナルドはありとあらゆる思考の総てをボーンにぶつけた。

 

「ハハハ、完璧ですよ。 一体いつからお気づきに? 」


 もはや全面降伏と言う風にボーンは笑う。


「ついさっきだよ。 どうやってもアンタの手の中身を聞く以外に質問が思いつかないからな」


「もう完敗でこざいます。 貴方と本当の友人になれれば退屈はしそうにありませんね」


 ボーンは心からの言葉でそう答える。


「ん? 何言ってるんだ? 」


「はい? 」


 静寂が流れて、二人の間を疑問符が交錯する。


「俺は結局アンタの手の中身が分からず仕舞いだぞ」


 この男とは友達になりたくないな、とボーンは呆れた顔でレオナルドを見つめていた。

 

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