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打ち合わせ

「アエル、今日も随分待たされたぞ」


「バレンさんがいきなり来られるからです! これでも急いで準備しているのですよ」

「はっはっは! 俺のために綺麗な格好で会ってくれるのは嬉しいがな。今日もお前に大事な話があって来た」


 バレンさんとお父様はとても仲がよく、頻繁に遊びにきて、泊まったりもしている。

 パーティーの一件からは、私とも話をするようになった。


 今までは接点がそれほどなかったのだけれど、改めてこうやって話してみると、良い男である。

 口調や活発さ以外は、亡くなられたムーライン様のような感じもするのだ。


「大事な話とはなんでしょう?」

「窃盗をした」

「え!?」

「もちろん俺ではないがな」


 毎回バレンさんは冗談のようなことを言ってからかってくる。

 世の中が広いとはいえ、公爵家の人間に冗談を言える人は、目の前にいるこの男くらいだろう……。


 でも、私はバレンさんのこういう仕草や気さくな態度がむしろ気に入っていた。


 今までこんなに気楽に話せるような相手がいなかったから、とても新鮮で楽しい。

 何故か最近はこうやって会うことも楽しみになっている気がした。


「脅かさないでください! 窃盗とはまさかブルラインですか!?」

「そうだ」

「そうですか……バレンさんが予測したことが全て言った通りになっているから驚きです」


 先日、ブルラインからお金を貸して欲しいと頼まれた。

 これもバレンさんが予想していたのだ。


 もちろん断ることも打ち合わせで決めていた。

 その後の行動は、犯罪に手を染める可能性が高いとも言われてしまった。

 これだけは私も少しは想像できたけど、まさか本当にそうなってしまうとは……。


「ブルラインには、ずっと諜報部隊の忍担当が監視を続けていた。まさか家の金を盗むとは……大胆なやつだな」


 不倫行為でさえ大問題なのに、窃盗までやらかすとは。もはや婚約破棄どころの話ではなくなっている。


「どうするのですか? 来月には入籍予定なので、そろそろ婚約破棄を告げないといけないかと」

「大丈夫だ。数日のうちにアエルに会いに来て、入籍を早めるように頼んでくる可能性が高い」


 どういう推理でそういう判断ができるのかわからないけれど、バレンさんが言ったことだからそうなるのだろう。


「もし会いにくる場合は、その時に断って婚約破棄を提言すれば良いのでしょうか?」

「それではつまらない。国王陛下の許可も取れているから、もしも会いにきたら、王宮へ連れて行って欲しい。例の場所へだ……そこで大々的に悪事を暴いてやる」


 楽しそうにしているバレンさんはまるで子供のようだった。


「なんでそんな顔になるんです? そこまで追い詰めて楽しいんですか?」

「当たり前だろう。アエルをここまでどん底の気持ちにさせたんだ。ブルラインも不倫相手も地に落ちてしまえと思っている」


「どうしてそこまで」

「これは男にしかわからない気持ちだからな……」


 ならば何も言えない。


 バレンさんは私のために必死に動いてくれている。

 それに不倫や窃盗までしている相手を放置する気はない。


「そうだ、……不倫した女も王宮に来るよう命じるからな。会うのは気分が悪いかもしれないが我慢してくれるか?」

「構いません」

「よし、駒は全て揃った。では細かい打ち合わせもしよう。だがその前に……アエル、お茶くれないか?」


 テーブルにはすでにお茶もお菓子も用意されているのに、どういうことだろうか。


「……わかりました。では使用人にお願いして新しいお茶を──」

「いや、君が淹れてくれたお茶を飲みたいんだが」


 本当に遠慮のないお客様だ。

 でも、断れなかった。


「はぁ……わかりましたよ。とびっきり美味しいお茶をご用意しますからね!」

「ありがとう。楽しみにしてる」

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