表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第一王子と魔剣の旅  作者: 一一
1:家出王子は黒馬を駆る
4/14

4

 蝋燭の灯りと暖炉の火が家の中をほの暗く照らしていた。時折揺れる火に合わせて、影がゆらゆらと大げさに揺れていた。


 竈の方ではライラが夕食の準備をしていた。包丁がまな板を叩く音、野菜の繊維が切断される音、水が沸騰する音、鉄と鉄が触れ合う音、それらが家中にリズミカルに響いていた。


 バルフは椅子でくつろぎながら、ライラの後ろ姿をぼーっと眺めていた。少し眠気を感じ、それを誤魔化すようにライラに話しかける。


「なんだか、新鮮だな。こういう場所でのんびりとするのは。そういえば人が料理を作っているのを間近で見るのも初めてだ」


 ライラは背を向けたまま、小さく笑う。


「ふふ。デュークさんは変わってますね。多分、旅人はこういう時、懐かしいとかって思うものですよ。どんなところで暮らしてたんですか?」


「……ここよりずっと広くて、無機質で、せわしないところだ。心の落ち着く暇も無いくらいに、毎日が目まぐるしいんだ」


 バルフは遠い目をして言う。まだ王宮を飛び出してそれほど日が経っていないせいか、ここと王宮との様子はバルフにはひどく乖離して見えた。


「へぇー。あ、もしかして、商人の息子さんとかですか?」


「まあ、そんなところだな。少し違うが、よく似ているかもしれない」


 ライラは小さく肩を震わせて笑いながら、なんですかそれ、と言った。


「人に言えない事情があってな。……俺は嘘が苦手だから、色々と大変なんだ」


 嘘を吐くことを放棄して、ベインに任せることにした程である。


「ああー。じゃああんまり詮索しちゃダメですね。ごめんなさい」


「謝ることは無いさ。逆に聞くが、ライラはここでどういった暮らしをしているんだ?」


「私ですか? 私はここでおばあちゃんと二人で暮らしてます。奥の部屋にいるんですけど、そのお世話をしながら、内職で針仕事をしたりして」


 それからライラは身の上話をバルフに聞かせた。両親を幼い頃に亡くしたこと。兄からの仕送りのおかげで普通に暮らせていること。元々魔法使いの道を志していたが、祖父が行方不明になり、祖母の世話をする必要も出てきたため諦めたこと。


「魔法が使えるのか?」


「いえ、使えるようにならなかったです。お爺ちゃんが魔法を使えたので、教えてもらってたんですが……」


「お爺ちゃんすごいな。俺も魔導書を読もうとしたことがあるが、あれは駄目だった。哲学書の方がまだ読めたくらいだ」


 エンドースは剣も魔法も扱える冒険者だったため、バルフもそれに憧れて魔法を学ぼうとしたことがあった。半年も続かなかったが。


「あ、デュークさんも勉強してたんですか? 難しいですよねー魔法。やたらと抽象的ですし」


「そうそう抽象的なんだよ。子供の書いた絵を解読しているような気分になる」


「形の無いものを無理やり型にはめたみたいだって、お爺ちゃんも言ってました。不思議ですよね」


「ああ、分かる。懐かしいなぁ」


 ライラは出来上がったスープを運んでくる。


「ありがとう。……ライラ、俺の名前にさんはつけなくていい。デュークと呼んでくれないか」


 バルフはライラに親近感のようなものを覚えていた。自身の身の上を知らない人と、対等に近い関係で思い出話をするというのは、バルフにとって初めての経験だった。


「えとじゃあ、デューク、って呼びますね!」


(どっちにしても偽名だけどな)


 ライラはスープの入った容器やらパンの乗った皿やらを並べながら、困った顔で微笑む。


「魔法が使えれば、兄にも楽させてあげられるんですけどね」


「その兄はどこで働いてるんだ? 離れて暮らしているようだが」


「王都です。王家直属の騎士団に所属しているって聞いてます」


「ふ、ふーん」


(ほお。顔見知りだったりして)


 まさか、とバルフは心の中で呟き、ライラに料理の礼を言い、スープに手をつけた。


「……うまい」


(俺も飯食いてぇなぁ)

「面白い」「好みかもしれない」と思って頂けたら、下の☆☆☆☆☆からの評価やブックマークをお願い致します! 喜びます!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ