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2 ちい姫 ※ロリコンではありません


千鶴:3歳




 源氏が気になっていた絵合せは、源氏の勝利で無事終わり、季節は秋になった。


 今日も三毛の唐猫と遊び、母様の膝の上でお話しする。変わらない日々。




「千鶴、お話があるの」

「なんですか、母様?」


 急に真面目な顔をした紫の上。

 何かあったのか? 例えば源氏がまた失脚したとか。


「……貴方に同い年の姉ができたら、どう思うかしら?」

「え? 姉様ができるんですか?」

「ええ、殿の……、お子で千鶴と同じ3歳の、遠くに住んでいた女の子をこちらで引き取ることになったの。どうかしら?」



 これはちい姫のことか。同い年だったのか。

 源氏が須磨に流され、明石にいた時に明石の上に孕ませた娘。後の明石の中宮だ。



「楽しみです! 父様の子どもならきっと可愛い子でしょう? 早く会いたいな!」

「そう言ってくれて良かったわ、千鶴」


 母様が僕をぎゅっと抱きしめた。


「いっぱい遊びたいなあ」


 父様の子で、母親はあの明石の上だ。中宮になる明石の姫も可愛いだろうな。……なんだか遠くにいる姪っ子を思っている気分だ。前世の年齢があるからな。



ーーー



「上、この子がちい姫だよ」



 御簾をあげて、源氏が小さな女の子を連れて入ってきた。


「まあ! なんて可愛らしい」


 ……母様、僕だって可愛いです。嫉妬なんかしてません。

 いや、でも確かにすごく可愛い。現代日本にいたらストーカー被害とか心配だ。


 艶やかな黒髪は肩に触れるか触れないかくらいで切り揃えられ、ぱっちりとした、されど一重で綺麗な目は不安そうに行ったり来たりしている。菊のような綺麗な色の着物がよく似合っている。



「おかあちゃまは……? おかあちゃま、どこ? おかあちゃま! おか、ちゃ、あぁーん!」


 あ、あ、泣き出しちゃった。


「だ、大丈夫……? ちい姫」


 とっさに声をかけた。


「だれっ?」

「僕は千鶴。君の兄弟だよ。僕たち同い年なんだって。仲良くしよう?」

「お、おかあちゃまは?」

「今日から僕の母様が君のおかあちゃまだよ。母様はとっても優しいんだ。きっと君も好きになるよ」

「まあ、千鶴。嬉しいこと」


 僕の言葉に紫の上と控えている女房たちが微笑む。


「いやあぁ、ひめのおかあちゃまはちがうもん! おかあちゃまがいい!」

「ね、そんなに泣かないで。……ほら、猫もいるよ。一緒に遊ぼうよ」

「うっ、うぅ……。……あ、あのね、ひめはちいひめっていうの。なまえ、……もういっかいおしえて」

「可愛い名前だね、ちい姫。僕は千鶴だよ」

「ちづる? ……ふふっ、かっこいい」

「やっと笑ってくれた!」


 笑顔が可愛すぎる。この小さい子ならではのぷくぷく感とか、泣いていて目やほっぺが赤くなっているのも可愛い。いやあ、いつの時代も小さい子は可愛いな。


 決してロリコンではない。



「子ども同士の方が話しやすいのね。千鶴、ちい姫と仲良くしてあげなさいね」

「はい、母様」

「2人が仲良くなれたようで良かったよ。千鶴、ちい姫をよろしくな」

「はい、父様」


 両親に任された。こんな可愛い子と仲良くできるのは嬉しい。前世では女友達ほとんどいなかったからな……。


「ちい姫、こちらで遊ぼうよ。このミケの唐猫、綺麗でしょう?」

「うん。かわいい」


 さっきから抱いていた三毛猫をちい姫に持たせてあげた。


「あのね、ひめね、おとうちゃまのことあんまりしらないから、すこしこわいの。おおきいでしょ? それにね、あたまのうえのくろいつのがこわいの」


 僕の着物の端を摘んで上目遣いでちい姫が言った。

 黒い角ってのは烏帽子のことか。子供の感性は面白いな。


「父様は怖くないよ。かっこいいし、優しい。でも、たまに母様を泣かせることがあるから、そこはいけないと思う」

「千鶴、なんてことを……。私は紫の上を泣かせてなんていないよ」

「まあ、千鶴さまは殿と上のことをよく見ていること」


 紫の上の女房の少納言が笑いながら言った。周りの女房たちもつられて笑う。


「もう、嫌だわ。確かに殿には泣かされてきましたけれど」


 23歳にしては幼い表情で紫の上が言った。

 照れながらいう母様、めっちゃ可愛い。


「こら、少納言。上まで、なんてことを言うのかい。子どもたちの前で。千鶴もそんなことは言わないでおくれよ」


 源氏がそう言って僕を抱き上げた。


「父様は母様に意地悪してはいけません。僕の母様にもっと優しくしてください」


 どうだ。子どもらしく中には踏み込まず、母様大好き、な雰囲気を出す。


「はは、参ったな。そうだね、千鶴に怒られてしまうからこれからはもっと紫の上と一緒にいようか」

「まあ、殿。本当ですか? 嬉しいわ、ありがとう、千鶴」

「ああ、連理の枝になり、比翼の鳥になろう」

「それは昔からずっと言われてきています。今更ですわ」


 周囲から笑いが起こった。

 源氏が僕を下ろして紫の上の髪を撫でる。


「さ、夜もまもなくだ。千鶴、今日はちい姫と一緒に寝てあげなさい。…………紫の上、行こうか」

「はーい。ちい姫、行こう! 中納言、準備はできてる?」

「千鶴さまのご支度は整っておりますが、ちい姫さまの御帳台は別のお部屋で整えておりました。ご支度いたしますので、少々こちらでお待ちいただけますか?」


 申し訳なさそうな犬君だが、至極当然のことだろう。いきなり源氏が言い出したのだ。


「うん、待ってるね。そうだ、珠子も呼んでくれる? ちい姫に紹介したいし。」

「ええ、呼んでまいりますね」



 珠子とは僕の乳兄弟、犬君の娘だ。少しつり目の可愛い女の子。いやあ、これからちい姫と珠子と、可愛い子に囲まれてハーレム的な? 転生した甲斐があったというもんかなあ。イメージしていたのとは結構違ったが。





「ちづるさまー! およびですか? たまこです!」


 おお、早い。準備に出て行った中納言がすぐに呼んでくれたようだ。


「珠子、今日も可愛いね。……こちら、僕の……姉だっけ?」

「僅かにちい姫の方が先だね、千鶴。君が弟だ」


 源氏が教えてくれた。


「そうなんですか。じゃあ、僕の姉様のちい姫だよ。ちい姫、こっちは僕の乳母子の珠子だよ。2人とも僕の大切な女の子だから仲良くしてほしいな」


 昔友達に勧められた乙女ゲームに出てきたセリフ。2人とも顔を赤くさせちゃって、まだ幼いのに。


「ちづる、ひめとなかよくなるまえに、たまことなかよかった?」

「ちづるさま、ちいひめさまとなかよしなの?」

「僕は2人と仲良いよ? どっちか片方とかじゃなくて」


「千鶴は殿に似ているのかしら。女の子を誘うのが上手になりそうね」

「千鶴もなかなかやるな。私も負けていられない」


 両親がそれぞれ言う。

 父様は息子に張り合おうとしないでください。


「子どもたちも集まったし、私たちは御帳台に行くよ。3人で仲良くやりなさい。お休み、千鶴、ちい姫」

「お休みなさい、千鶴、ちい姫、珠子」


 万年新婚夫婦が寝室へ姿を消した。

 平安時代の寝殿造は音が漏れやすい。子供部屋と夫婦部屋は離れているから聞こえないが、ここは子供部屋と夫婦部屋の間くらいだから音漏れすると思う。まだ始めないでほしいな。



「よろしくね、たまこ」

「よろしくおねがいします、ちいひめさま」


 仲良くなれそうだ。良かった、良かった。






「千鶴さま、準備が整いましたよ」


 帰ってきた犬君が言った。


「ありがとう、中納言。ちい姫、珠子、早く行こう」

「はい、ちづるさま」

「ひめもいくー!」


 僕の後ろをひよこのように付いてくる2人。可愛い。




「千鶴さま、隣で控えておりますので、何かございましたら声をかけてくださいましね」

「うん、分かった。中納言もお休み」

「お休みなさいませ。珠子、行きますよ」

「いやぁ、たまこ、まだおはなししたいー!」


 犬君が珠子を連れて帰ろうとしているが、珠子が駄々をこねる。


「もう、千鶴さまとちい姫さまがお休みになられるのですから。母と一緒に来なさいな」

「珠子、また明日お話ししようよ。ね?」


 何が、ね? だ! 自分で言って恥ずかしくなる。

 この可愛らしい姿だからこそ許される言い方。前世じゃできなかった。……これを活用していくか。


「ほんと? ちづるさま、あしたおはなししましょうね! たまこねる!」

「申し訳ありません、千鶴さま。お手をわずらせてしまって」


 右手を柔らかな頬に当てて謝る犬君。


「いいんだよ、このくらい。じゃあ今度こそお休み、中納言、珠子」

「お休みなさいませ」

「おやすみなさいませー!」




 犬君が下がったのを確認して布団に横になった。


「ちい姫、寝よう。移動で疲れたでしょう?」

「ひめ、もっとおはなしするー!」


 こちらにも駄々をこねる子どもが1人。


「ダメだよ、僕はもう眠いし。また明日起きたら話そうね。お休み」


 硬い枕に頭を乗せて、着物を掛け布団にする。わざとちい姫とは反対側を向いて寝た。


「なんで〜! ひめとおはなしするー! …………ちづる? もうねちゃったの? うぅー。…………もう、ひめもねる!」


 独り言を言いまくして、ポンッと音を立てて横になった。


 すぐに寝息が聞こえてきて、やっぱり子どもで疲れていたんだな、と思った。



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