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1 マザコン? いえ、母様がかわいすぎるからです



 俺が生まれなおしてから3年がたった。



 俺の2度目の人生は、源氏物語の光源氏と紫の上の息子として生きていくようだ。きっと皆んな聞いたことはあるだろう、かの有名な長編物語。かく言う俺も、高校生の時に習った。


 超絶イケメンで身分も高いモテまくる光源氏というチーターが、色んな女性と恋に落ちて寝まくる話。時にツンデレ、時にヤンデレ、時にNTR。平安時代にもこういった需要があったのだ。


 この3年で分かったこと。俺の母様は紫の上、23歳。めっちゃ可愛い。めっちゃ綺麗。父様は光源氏、31歳。めっちゃイケメン。遊び人な雰囲気はあんまりない。どうやら俺は源氏が須磨から帰ってきてすぐの子らしい。


 それから俺の乳母の中納言。母様は犬君と呼んでいたから、多分あの、雀を逃してしまう犬君なんだろう。多分俺が生まれたときに左から覗き込んでた人。3年で豊かな感じになっていて、ふかふかのもち肌だ。何やら俺の乳母にするために、犬君の旦那さんを光源氏の力で昇進させたらしい。乳兄弟で、犬君の長女(兄2人いる)の珠子とは仲良くなった。めっちゃ可愛い。少し猫目。3ヶ月俺より年上。


 ちなみに、前世のことを言っておくと、俺はしがないサラリーマンだった。名を鶴原勝海(つるはらかつみ)ゴツい名前だなーとか思っただろ。いや、俺もずっと思っていた。母さんなんで勝海なんてごっつい名前付けたんだって。で、まぁいわゆる過労死ってやつだな。今は千鶴と呼ばれている。鶴原だけに……では済まない理由で。




「千鶴さま、どちらにおいでですか?」

「中納言、僕はここにいるよ」


 几帳をめくって中納言がやってきた。


「こちらにおいででしたか。殿と上がお呼びでございますよ」

「はーい。……母様、父様。お呼びですか?」




 はぁ。やっぱり絵になるな、この2人。美男美女。この両親から生まれた俺もきっと美形。

 隣へ行くと、大勢の女房たちに囲まれて、両親が仲良く座っている。源氏が紫の上の肩に手を回していた。



「千鶴。犬君をあまり困らせてはいけませんよ」

「はーい、母様」


 母様の膝の上によじ登って座る。


「千鶴、こっちにおいで」

「えー、母様がいいでーす」


 遊び人で女泣かせの男の上より、美しくて優しくて教養があって品がある、紫の上の上に座っていたい。



 前世の記憶を持ち越している俺は、光源氏はヤり捨てする野郎という認識だ。母様、紫の上に俺が生まれる前には既に、何人もの女性と関係を持っている。こんなに紫の上は美しくて、優しくて、教養があって、品がある素晴らしい女性なのに。なんでこんな完璧な女性を泣かせるんだ。



「そ、そんな、千鶴。随分とつれないことを言うね。紫の上の方が良いか」

「うん!」

「あらあら、嬉しいこと。父様より母様の方が好きなのかしら?」

「うん! 母様大好き!」


「殿は女人には大人気ですけど、子どもにはそこまでではないのね。ふふっ」

「おいおい、何を言うのかい、上」


 右手で紫の上の肩を抱き寄せて、左手を顎に添えて甘く囁く源氏。

 紫の上の膝の上には3歳の子供がいるんだぜ、お二人さん。あんまり見せつけんなよ。


「まあ、殿。千鶴がいるのにいけませんわ」

「そんなことを言って。君だって期待しているのだろう? 中納言、千鶴を」

「もう、殿。……犬君、千鶴を遊ばせてあげて」


 そんな、母様! 3歳の可愛い子どもを放っていちゃいちゃするだと……!


「嫌! 僕、母様と一緒がいい!」


 どうだ、この可愛い上目遣いを見ろ。この潤んだ今にも泣き出しそうな目を。


「千鶴さま、あちらで遊びましょう。珠子もおりますから」

「嫌だ、嫌だ、母様!」

「千鶴ったら。……殿、また後ででよろしいかしら?」

「む。仕方がない。私も千鶴は愛おしいからね。……では、今宵また」


 紫の上といちゃいちゃするのを諦めた源氏は、紫の上の額にそっと口付けをして去って行った。

 いちゃこらできないと分かると妻子をおいで他の女のところへ行くんですか。



「母様、ありがとう!」

「いいのよ、千鶴。わたくしも千鶴と遊びたかったわ。……それに、殿はこの頃絵合せについてばかり考えているようで」


 困ったわとばかりに手を頬に当てて首を傾げる紫の上。

 この仕草だけでも気品がある。


「えあわせ?」

「ええ、殿は梅壺の女御さまの後見人なのよ。主上(おかみ)梅壺(うめつぼ)の女御さまをご寵愛なさっていて。殿のご親友であられた権中納言さまの姫君が、弘徽殿(こきでん)の女御さまでしょう? だから主上のご寵愛を権中納言さまと殿の争うような形になってしまうのよ」


 母様、ちょっとその説明は子どもには分かりにくいです。


 つまり、帝の後宮に源氏の養女である六条(ろくじょうの)御息所(みやすどころ)(源氏の元愛人)の娘が梅壺に入内して、弘徽殿には権中納言(元の頭中将)の娘が入内した。冷泉帝は、絵という趣味が同じの梅壺の女御によく通うようになる。それにムカついた頭中将は弘徽殿に絵を集めさせて、帝を弘徽殿に招こうとした。対抗した源氏も梅壺に集めさせて、ついに絵合せというイベントにしちまえということになった。ちなみに判者は源氏の弟、蛍兵部卿(ほたるひょうぶきょう)の宮と藤壺の中宮(今は女院)だ。




「へー。親友だったのに闘いになるんですね」

「そうね。お二人とも出世はなさりたいのよ」

「じゃあ僕も親友と争うことになるんですか?」

「殿のお子ですもの。そうなるかもしれないわね」


 女房の1人が近寄ってきて紫の上に何かささやいた。


「あら、そろそろ支度があるのね。…千鶴、あちらで遊んでいらっしゃい。犬君」

「かしこまりました。参りましょうね、千鶴さま」

「はーい。」



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