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二人だけの写真

 さてと、ラブレターをもらったらすることと言えば放課後に待ち合わせ場所に行くことだ。


 なので僕は待ち合わせ場所に行った。


 で、誰がくるのかどきどきするのかな普通は。それとも差出人が書いてあったら……それでもどきどきするのかな。


 僕の場合はどちらとも違って。


 待ち合わせ場所で、誰からかわかるパターンだった。


 僕の通っている……渚ヶ丘学園の前の坂を下って行くと、川がある。


 その川の横の道を少し歩くと、川辺に降りれる場所がある。


 そこが待ち合わせ場所。


 校内の目立たないところとか屋上とかではなく、なかなかマニアックな場所だ。


 そんな場所を待ち合わせに指定するなんて、この場所に特別な感情を持っている人しかいない。


 そして……そんな人は僕の知る限りは、僕ともう一人……


「あ、先輩」


 写真部の後輩、波佳だけ。


 波佳はカメラの形のぬいぐるみストラップをつけた鞄を肩にかけて、川のすぐほとりにいる僕のところまで降りてきた。


 カメラの形のぬいぐるみなんて珍しいけど、なんか似合ってるな、写真部だしな、と、何度も考えたことをまた考える。


「先輩、きてくれてありがとうございます」


「あ、うん……」


 波佳の口調はいつも通りだった。この場所に二人では何回も来た。


 そう、いつも通りの写真部の活動の状態だった。


「先輩にお渡ししたいものがあって」


「おお」


 波佳は鞄から一つの封筒を取り出した。


 第二の封筒出現。


 ただし、分厚かった。


 中身はなんとなくわかった。


「写真か」


「はい。あの、今までの写真です……」


 僕は封筒を受け取り、中身を出して見た。


 今年度の、写真部の活動の日々の記録となる写真の数々だった。


 たまに人が写っている。写っているのは僕だけだ。


 なぜならこの写真は、全部波佳が撮ったもののはずだから。


 そして、波佳と僕以外、写真部には幽霊部員しかいない。


 その写真を順々に見て行くうちに、僕の中で告白とかラブレターとかそういうことは消えた。


 そうだよな。その前に、全然、波佳のことを考えてなかったよな。僕って。


 今年は文化祭が中止になったのだ。


 文化祭で展示しようと思っていた写真の数々は、僕と波佳しか、まだ見ていないのだ。


 僕は勝手に一人で受験勉強を始めていた。


 でも、その少し前までは、文化祭があることを信じて、僕たちは写真を撮っていた。


「この写真……もっといろんな人に見てもらいたかったな」


 今ならSNSもいろいろあるし、発信しようと思えば発信できる。


 だけどそういう風なことじゃなくて、去年の文化祭みたいに、実際に見にきた人と話しながら、写真を見てもらいたかった。


 多分波佳もそういう気持ちなんだろうな。


「はい。けど」


 しかし、波佳は肯定した後に、まだ何かを言おうとしていて。


「けど……この写真には私と先輩が一緒にいい写真を撮ろうって頑張った思い出が写ってます。だから……先輩が……それを大切にしてくれたら、私嬉しいです」


「……うん、わかった」


 僕はうなずいた。そして言った。


「明日、僕が撮った写真持ってくるよ。波佳に受け取ってほしい」


「……はい! ありがとうございます」


 波佳は笑顔を見せた。


 いい写真が撮れた時の嬉しそうな顔と同じだった。


 


 結局、告白されたのではなくて、たくさんの人に見られる予定だった僕と波佳の撮った写真が、僕と波佳の宝物になっただけだった。


 でもだけだったって言うのはおかしいな。


 だって、告白されることを期待していた僕は間違いなく、この時嬉しかったのだから。


お読みいただきありがとうございます。次話が最終話で、今日の午前中に投稿予定です。最後までお読みいただけたらうれしいです。

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