4.救出作戦
四話目の投稿です。
奈落の底のような魔導都市国家『ラルーナ』にたどり着いたアランは、しばらくの間、息をこらしてモニター越しに闇を見ていた。
心臓の鼓動がやけに大きく聞こえる。
自分の息遣いがはっきりと聞こえて、ここに自分一人しか居ないことを実感した。
「……こちらアラン、都市国家へ潜入成功しました」
『よし、よくやった。レーダー装置を作動して動く物体を捕捉するのじゃ』
スピーカーから艦長の指示が聞こえてくる。
声が聞こえて一人じゃないことがわかり、少しだけ安心した。
「わかりました」
レーダー装置のスイッチを入れる。
モニターの下側に小さく索敵画面が映し出された。
動くものを光る点として捉えるレーダー装置は、今の所画面に動体を捉えてはいない。
デリックたちがスライムを駆除したばかりなので、辺りに魔物はいないようだ。
ゆっくりと足を動かす。
直ぐ側にバリケードが見え、拠点が姿を表した。
中へ入っていくと一切荒らされた形跡はなく、全ての機器が正常に作動していた。
「艦長、拠点に到着しました。中は荒らされておりません、すべての機器が正常に作動しています」
『そうか、やはり下層部へ続く階段付近が怪しい。準備が整い次第、慎重に近づいて辺りを調べるのじゃ。その際に周囲の魔物に注意をするのじゃぞ、わかったなアラン』
「はい、わかりました」
サーチライトに映し出された不気味な都市の残骸に、一歩ずつ慎重に近づいていく。
全ての家屋は扉が壊されており、デリックさん達が物資を漁った形跡があった。
レーダーに光点が映し出される。
全部で三つの光点が前方の暗闇の中に魔物が居ることを教えてくれた。
「艦長、魔物の反応をレーダーが示しています。今から排除します」
『了解した。銃器の使用は極力避けるのじゃ、魔物たちが寄ってくるからな』
「了解です」
『サーチャー』の近接武器、ブレードを構える。
ブレードは文字通り普通の剣だ。
ただ生身では扱えないほどの重量を有しており、一撃必殺の殺戮兵器だった。
暗闇から現れたのは緑色をしてゼリー状のスライムだった。
ゆっくりと近づいてくるが、あまりにも鈍いのでこちらから打って出た。
ある程度近づくとブレードを振り上げてスライムに切り下ろした。
ドスンと鈍い音がして石畳にブレードが食い込む。
スライムは真っ二つに切断され活動を停止した。
あっけないほど簡単に初の戦闘は終了した。
スライムは戦闘ロボットである『サーチャー』の敵ではなく、そこら辺に転がっている石ころと大して変わりはなかった。
後二体、スライムが居るはずだ。
一体は前方に発見したが、もう一体が見当たらなかった。
突然どしゃっと音がしてスライムが上から降ってきた。
隠れていたスライムが建物の上からのしかかってきたようだ。
酸性の消化液を盛大に撒き散らすスライム。
しかし金属の塊である『サーチャー』には全く効かず、虚しく貼り付いているだけだった。
『サーチャー』のアームを動かしスライムを剥ぎ取る。
勢いをつけて地面に叩きつけると、飛散して絶命する。
近くまで来ていたスライムにブレードで突きを入れた。
大質量の金属棒を体に受けたスライムは、音を立ててちぎれ飛んだ。
辺りにはスライムの死骸と、小指の先程の魔石が残った。
アームを操作して魔石を回収する。
収納ボックスに放り込むと再び前進を開始した。
「こちらアラン、スライムを三体、討伐しました」
『よくやった、『サーチャー』は問題ないな? 問題なければ引き続き周囲を警戒して進むのじゃ』
「了解です、『サーチャー』は特に問題はありません。探索を続行します」
今の所レーダーには新たな光点は現れていない。
アランはゆっくりと移動して下層部へ続く階段まで進行した。
前方に下層部へ続く階段が見えてきた。
探索者たちのコンテナ車がぽつんと置いてある。
なにかに破壊された形跡はなく、ここで停車させて物資を積み込んでいたようだ。
「艦長、コンテナ車を発見しました。外部に損傷は認められません。魔物との戦闘があったようにも思えません」
『わかった、周りを見て不審な箇所がなければ一旦帰還するのじゃ』
「わかりました」
アランは了解の返事をしたが、視線は下層部へ続く階段を見ていた。
デリックたちが下層部へ降りたのは明白だった。
そこで何らかのアクシデントに遭って帰還できなくなったのだろう。
連絡が取れなくなって丸一日。
まだ生存している可能性が高い。
魔物に襲われて全滅していないのが条件だが……。
アランは意を決して艦長に話しかけた。
「艦長……、このまま下層部へ潜行させてください。デリックさんたちはそう遠くには行ってないと思うんです。下層部を少しだけ見たら戻ってきます。お願いします」
『アラン、戻ってきなさい! これ以上は危険よ!』
ブレンダが通信に割り込んでくる。
艦内で艦長とブレンダが言い合っている声がスピーカーから漏れ聞こえてきた。
「艦長、コンテナ車に通信電波増幅装置を設置していきます。こうすれば下層部でも艦との通信ができるはずです。お願いします行かせてください!」
アランの懇願に艦からの通信が暫し途絶える。
しかしすぐに通信は復活して艦長が答えてきた。
『捜索の続行を許可する。慎重に下層部へ降りていくのじゃ。アランに危険な事をさせてしまって申し訳ない。頼むデリックたちを見つけてくれ!』
絞り出すように艦長は言った。
遭難して発見が早ければ早いほど生存確率は上がる。
ただ単に艦の存続のためだけにアランを捜索に行かせた訳ではないのだ。
「了解しました。捜索を続行します」
一歩ずつ慎重に階段を降りていく。
通信レベルは良好で、まだまだ艦との交信は途切れなかった。
「今、下層部へ着きました。周りは上層部とあまり変わりはありません。前方に大きな建物があります。これから向かってみます」
『了解した。慎重に頼むぞ』
アランは下層部の外周に居た。
瓦礫に埋もれた一角に大きな建物が見える。
下層部に降りたデリックたちは、間違いなくあの建物へ向かったはずだ。
なぜならそこしか行けるところがなかったのだ。
下層部は全体が瓦礫に埋もれていて、目の前の建物しか見えるものがなかった。
建物に近づいていくと艦とは別の電波が入ってきた。
『こちら……デリッ……聞こえ……応……てくれ』
とぎれとぎれだが、間違いなくデリックの声だった。
「デリックさん! こちらアランです。助けに来ましたよ!」
アランは嬉しくて大声で呼びかけた。
『アラ……か、一人で来た……か? 今……どこにい……だ!?』
「下層部に居ます! デリックさんたちはどこに居るんですか!?」
建物に近づきながらデリックと交信する。
『アラン! デリック達が見つかったのか!? 奴らは無事なのか!?』
アランの会話を聞いていた艦長が会話に割り込んでくる。
「艦長、デリックさんたちと今交信しています。近くに居るみたいです、このまま捜索を続行します」
『わかった。そのまま捜索を頼む!』
奇跡的にデリックとコンタクトが取れた。
アランは喜び勇んで建物に突き進んでいくのだった。