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2.探索開始

二話目の投稿です。

 掘削作業は昼夜を問わず一週間続く予定だ。

 今日からアランは少しだけ時間に余裕ができそうだった。


 お腹が空いたので食堂に向かう。

 先程まで飲まず食わずで艦を操縦する手伝いをしていたので、正直フラフラで力が出ない。


「チャンさん俺にも何か食べさせてください」


 妙に高いカウンター越しに厨房を見上げてコックに言う。


「アラン、今日は焼き肉だぞ。お代わりもあるからいっぱい食え」


『アレクサンドロス号』の食堂を一人で切り盛りする坊主頭の強面、コックのチャンが覗いてきた。

 皿に山盛りの肉をドスンとカウンターに置く。


「ありがとうチャンさん」


 アランはにっこり笑うと皿を抱えてテーブルに向かった。

 今の艦内は戦場の様に忙しい。

 みな掘削作業で食事などしている暇はないのだ。

 閑散とした食堂の一角に艦長の姿を発見する。

 アランは当然のごとく艦長に近づいていって向かいの席に座った。



「アラン、掘削の見学はもういいのか?」


「はい艦長、お腹が空いたから戻ってきました」


「ははは、そうか。それならいっぱい食べるんじゃ、アランはもっと大きくならなければいかんぞ」


 ワインを片手に艦長が笑う。

 ひと仕事終えた艦長は、いつもの眼光鋭い表情が和らぎ、優しそうな目でアランを見ていた。


 テーブルには山盛りのパンがかごに入って置いてある。

 この艦に乗ることになって一番嬉しかったことは、腹いっぱい食べられることだった。


 片手に水の入ったコップを持ち、フォークに肉を刺して豪快にかぶりつく。

 パンをちぎって口に入れて大して噛まずに水で腹に流し込んだ。

 この艦で最初に覚えたこと、それは早く食べることだ。

 忙しい中でも食べないと倒れてしまう。

 ゆっくりと食べている暇など見習い船員にはないのだ。


「これアラン、今日くらいはゆっくり食べるのじゃ。儂らは当分の間暇なのじゃからな」


 現場まで艦を移動させることが艦長の仕事だ。

 それ以外にも色々決定することがあるが、それでも仕事量は激減する。

 見習いであるアランもやることが減り、多少だがゆっくり出来るのだ。



「艦長お願いがあるのですが……」


 食事が終わり一息ついたアランは思い切って艦長に聞くことにした。


「なんじゃ改まって」


「あの……、もし古代都市が発掘できたら、俺も探索に参加させてもらえませんか?」


 早口で艦長に願い出る。


「駄目じゃ」


 艦長は一言だけぴしゃりと言った。


「お願いします、どうしても行ってみたいんです!」


「駄目じゃと言っておるだろう、まだアランには早い、艦に乗って一年も経っておらん、行っても足手まといになるだけじゃ」


 艦長は厳しい顔をしてアランを見た。

 こうなった艦長は怖い。

 アランは小さく縮こまって肩を落として下を向いた。


「そんなに落ち込むんじゃない。アランはまだ若いのじゃ、必ずチャンスは来る。そのときに備えてしっかりと体を鍛えるのじゃ。もっと肉を食わんと大きくなれんぞ」


 柔和な顔に戻った艦長は、優しくアランを諭すのだった。


「ほらアラン、お代わり持ってきたぞ!」


 厨房からチャンが肉の乗った皿を持ってくる。

 どっかりとテーブルに置くと優しくアランの肩を叩いた。


「もっと食って大きくなるんだ。そうしたら探索者にだってなれる。俺が保証するぞ」


 にっこり笑ってチャンは厨房に戻って行った。



 ー・ー・ー・ー・ー



 数日後、念願の古代都市を掘り当てたという一報が艦内を駆け巡った。

 艦内はお祭り騒ぎの様相を呈した。

 掘り当てれば大儲け、駄目なら破産。

 その賭けに勝った『アレクサンドロス号』のクルーたちは、狂ったように喜んだ。



 興奮が冷め、探索班が準備を整えた。

 総勢七名の探索者達。

 完全武装に身を包み、手には大型のライフルを構えている。

 獣人のヘクターも列に連なっていた。

 そして艦底の掘削坑の前に三体のマシンが立ち並んでいた。

 そのマシンは通称『サーチャー』と呼ばれる二足歩行のロボットだった。

 一人乗りで、魔石で動く内燃機関を有する戦闘マシーンだ。

 古代都市は迷宮になっていることが多く、魔物が巣食っているのが常だった。

 そこに生身の人間だけでは降りてはいけない。

 そこで考え出されたのが強力な兵器を装備できるロボットだった。


 ロボットの大きさは全高二メートル五十。

 つるりとした流線型のボディーで色はクリーム色だ。

 肩には砲塔が付いていて手に巨大な銃器を装着していた。

 操縦者の体をピッタリと覆うように搭乗する全身鎧のようなタイプのロボットだ。

 連続稼働時間は二千五百時間。

 約百日、燃料である魔石を補給せずに稼働できる優れた代物だった。



 魔石。

 魔物の体の中に存在する神秘の結晶だ。

 その使いみちは多岐にわたるが、エネルギーとして一番に利用されていた。

 魔物の個体が強くて大きければ魔石も質の良いものがとれる。

 国宝級の魔石になれば、大型の空中戦艦も動かせるほどのエネルギーが取り出せた。

『アレクサンドロス号』のエンジンにも大粒で良質の魔石が使われており、凄まじいパワーをエンジンに供給していた。



 隻眼のデリックが探索者たちの前に立つ。

 いよいよ探索に出発する最後の指示が伝えられようとしていた。


「お前ら、俺達は幻の古代都市、『ラルーナ』を発見した。これから『ラルーナ』へ潜り、無限の資源をいただきに行くぞ!」


 力強いデリックの発言に隊員たちが色めき立つ。


「だが浮かれるんじゃねえぞ! 先行した探査ドローンの調査で、古代都市内は魔物の巣窟になっている事がわかった。非常に危険な探索になるぞ、心してかかれ!」


「了解です!」


「わかってらあ!」


「腕が鳴るぜ!」


 探索者たちから次々に返事が返ってくる。


「おまえら持ち場に着け!」


 デリックが叫ぶ。

 探索者達は掘削坑の前に整列していく。


「『サーチャー』に搭乗しろ!」


 デリックを含めた三名の探索者が、素早くロボットに近づく。

 体をロボットに収め操縦を開始する。

 唸りを上げて『サーチャー』が起動し、立ち上がった。


 屈強な探索者たちより頭二つ分大きい『サーチャー』は、起動を果たすと急にしずかになる。

 この魔導兵器は思ったよりも騒音を撒き散らさないようだ。



 アレンは目の前の状況に興奮して顔を赤らめていた。

 いつかあのロボットに乗って地下深く潜る。

 その光景を頭の中に描きながら探索者たちを見送る。



 初めに『サーチャー』が一体、筒状の運搬用エレベーターに乗り込む。

 先行して潜り、周囲の安全を確保するのだ。

 ランプが回転してブザーが鳴り響くと一気に地下へ降りていった。

 辺りにエレベーターが落ちてゆく地鳴りのような音が鳴り響く。

 暫くするとからのエレベーターが戻ってきた。

『サーチャー』は無事地下へ到達したらしい。


 次に大量の物資を運ぶためのコンテナ車が地下へ投入された。

 縦に収納されたコンテナ車には、探索者たちが乗り込んでいる。

 先ほどと同じ様にランプが回転し、ブザーが鳴り響く。

 またしても一気にエレベーターは落下し、探索者たちを暗い穴の中に引き込んでいった。

 さらに『サーチャー』が乗り込むこと計二回。

 合計三体の『サーチャー』と、生身の探索者四名を載せたコンテナ車が暗い穴の底へ消えていった。

 艦内に静寂が広がる。

 先程の喧騒は嘘のようだった。



「よし、モニター室に行くぞ」


 艦長が発言する。

 この場には今、艦長とアレン、ブレンダ班長、そしてもう一人、解読班の少女しか居ない。

 四人は一塊になってモニター室に行き、古代都市に潜った探索者たちとコンタクトを取った。



「聞こえるかデリック、そちらの様子はどうだ?」


 マイクに向かい艦長が話す。


『聞こえてるぜ艦長、早速魔物との戦闘があったぜ。魔物は殲滅済みだ、これから辺りの映像をそちらに送る』


 デリックからの応答に一同慌てて、そして皆が安堵のため息をつく。


「やりましたね艦長、これで『アレクサンドロス号』の運営が軌道に乗りますよ」


 ブレンダが嬉しそうに艦長に言う。


「まだ喜ぶときではないぞ、古代都市は恐ろしいところじゃ、何があるかわからない。気を引き締めてかからなければいかん」


「そうでしたね、軽率な発言でした」


 たしなめられたブレンダは頭を下げた。

 普段冷静な彼女が、浮かれてしまうくらいに今回の都市発見は素晴らしいことだった。


「艦長、モニタースタンバイ完了です」


 少女が報告してくる。


「よし、映し出すのじゃ」


 艦長の命令で大型のモニターに古代都市の全容が映し出された。

 そこは都市の最上部、瓦礫に埋もれていないドーム状の空間。

 画像は荒いが確かに人々が暮らしていた古代都市が、モニターに映し出された。


『艦長見えているか、感度はこれで目一杯だ』


「ああ見えておるよ、なかなかの規模の都市のようじゃな」


『これから周囲を探索する。電波が届く所まではこのまま撮影しながら行くぜ』


「そうしてくれ、儂らもモニター室で見守るよ」


 とうとう古代都市の探索が始まった。

 アレンは初めて見る都市の様子に興奮を隠せないでいた。

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