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Rose  作者: 莉愛
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薔薇の魔女

今日、目の当たりにした世界を私は手帳に記した。

私の知らない世界。


「アンジェリア、 何処へ行っていたんです?」


ドアが開き男の声が聞こえる。

私の名を呼ぶのは執事のシルヴェスターだ。

背が高く、金髪碧眼の美形の男だが、頭の回転が早くそしてひねくれている。故に性格が悪い。


「散歩よ、散歩。」


「嘘は吐かないでくださいね…。また地獄へ行っていたのでしょう?」


彼にはお見通しのようだ。

室内に入ってくる彼は私へ近づきこう告げた。


「あんな所は知らなくていいのです。存在すら認めてはいけないのですよ。あれはこの世では無い。人生において交わる事があってはならないのです。」


そう。それが当然の事である。私の様な人間があの地獄へ足を向けることは、あってはならないことであり、地獄の住民からも歓迎されることはないだろう。


「貴方は薔薇の館の主人なのですよ。」


私の運命を彼は言う。その通り、私は人よりも格上、横に並ぶ人間という概念を発生させない程に、別次元の存在なのだ。


「…自覚して下さい。」


彼はそれだけ言って部屋を後にした。

一人残された部屋で、ただ考えた。こんな汚らしい世界はあっていいのか。

寧ろ私達の方が汚いのではないかと。

死体を漁る少女を見た。父を喰らう少年を見た。

少年は私を綺麗と言った。


「…女神さまなんかじゃないわよ。貴方を天使にも出来ないのだから。」


惨、惨、惨め。

ただ苦しい感覚に苛まれる。地獄の大人からすれば私のしている事は高みの見物であり、殺したいくらいに嫌なことだろう。だが私は正体を隠して地獄へと歩んでいる。勿論、変装程度ではバレてしまうため、そんな生半可なことはしていない。


私は、魔法を持って、存在を誤解させているのだ。



私は、薔薇園の主であり、魔女である。




魔女狩りが行われた後、恨みの魔女によってこの世は統制された。

永久に解けない魔法に掛けられた。

宗教信者を洗脳と呼ぶように、この世界に生けるもの全てに『崇拝』の魔法を掛けた。

それから数世紀が経ったが、神頼みをする様にこの国では魔法に縋る人々が多数だった。

元から魔女狩りの影響をあまり受けず、寧ろ魔女に支配された世だったからだ。

この国も今は崇拝の魔法の影響をうけているが、それ以前から魔法が根強く信じられていた。

人が、神様、マリア様と呼ぶように。人

は魔女へと願いを込めていたのだ。




薔薇の館。





恨みの魔女が建てた物で、大きな門のある広い敷地には美しい薔薇園が広がり、年中美しい香りが運ばれていた。

この薔薇にも勿論魔法がかかっていて、この敷地内の動植物は全て死ぬことを知らない。

不死の魔法が掛かっている。その先にある舘は白を貴重にした洋館で、これもまた視界に収まりきらない程に大きい。ただ不気味なのはこの敷地内は深い霧に覆われることが多い。夜になってしまえばほぼ、先が見えないほどの霧の中、赤い薔薇だけが見えるという異様だが、美しい光景が広がる。

そしてこの敷地に掛けられた最大の魔法は、


『用事のある人にのみ、この舘は見える。』

という事だ。


本当に必要としている人の目にのみ映るこの館。

それは恨みの魔女がかけた魔法の一つである。

魔女は人類に代償を負わせた。自分の同士が理不尽にも殺された魔女狩りを思い、自分を本当に必要としている人のみが自分と出会えるようにと。

その魔法は受け継がれている。

現当主であるアンジェリアには解除することの出来ない魔法。それ故にアンジェリアは個人としての認知をされることは無かった。『薔薇の館には魔女がいる』という伝説の中の、象徴的魔女にしか過ぎなかったのだ。

物事に無頓着なことの多いアンジェリアにとってはどうでも良い事だったが、周りの人はアンジェリアの存在があやふやな状態である事を心配している。


「いやね、都合いいの。アタシの事知ってる人居ないから。保険的に村人Aになる魔法かけてるから更に安全じゃん?」


アンジェリアはそれを利用して地獄や庶民の街へと繰り出していたのだ。

ただ、彼女自身はバレていないと思っているが、いくら隠しても貧民街には居ないような美しい見た目をしているため、怪しまれている時が多い。

金髪で赤眼の彼女は吸血鬼に間違われるという事件も起こしている。

それ以降は瞳の色を変えるようにはしたのだが。


「…バレてますよ。あまり言いたくないのですが、まずアンタ、自分から出てるオーラに気づいてます?あんな愚民どもには無いのですよ…。あぁ決してアンタが利口な人物なんて言ってませんからね。アンタはただの馬鹿魔女だよ。」


「あー?うるせぇな。そりゃオーラ出てるでしょ。だってこのアタシだよ?オーラ見えてるってー、見せてるわけ。」


「…いやバレないようにしたいならオーラごと消してくださいってば」


「べつにー見えてたってーーなんも言われんでしょーーー」


「言います。言われます。…面倒くさいことになるんで辞めて貰えます?本当に。」


「うるせーなー」


いつもの様にシルヴェとの口喧嘩が始まる。

この我儘魔女は全く見向きもしていない。

まず彼女には感情が欠けていた。

彼女は恐怖を感じたことがなかったのだ。

「全く…」


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