9、悪役令嬢、地上へ。
「なんだ、そんなことが望みか?」
目のくりっとした魔王ザザバエゾは、不思議そうな顔つきでそう言った。
キャロラインは恐る恐る尋ねる。
「ええ、……駄目かしら……?」
「駄目ということはない」と言った後に、ザザバエゾは笑った。
「ははははは。しかし、面白いものじゃの。朕の命を狙いに地下に潜ろうとする人間はここに誰一人辿りつかないというのに、地上に出ようとダンジョンを彷徨っていたキャロラインだけがここに辿り着くとはな」
キャロラインはすべてを話したのだ。
勇者パーティーから追放されたこと。
地上を目指していたはずなのに、いつの間にかここに辿り着いてしまっていたことを。
そして、望みを言ったのだ。
地上へ帰りたい、と。
「よし、では朕の手を握れ。それで地上まで連れて行ってやろう」
「ありがとうザザバエゾ!」
「はははははは。礼には及ばぬ。朕とキャロラインは既に友ぞ……、あ……それとなんじゃが……」
「なぁにザザバエゾ」
「朕は時々そなたと遊びたい。もっと色んな話をしてみたい。だから……その……」
恥ずかしそうにうつむく魔王の頭をキャロラインは撫でた。
「いいわよ。あなたならいつでも歓迎だわ。夜寝ている時以外ならいつでも遊びにいらっしゃい」
魔王ザザバエゾの顔が明るくなった。
「うむ! そうする!」
ザザバエゾが手を差し出し、キャロラインはそれを握りしめた。
「ちなみにじゃが」と小さなザザバエゾは上目遣いで尋ねてきた。
「人が多くいる場所は好きか? キャロライン」
――人が多くいる場所?
「ええ、好きよ。酒場とか好きだし」
「ふ~む。なら、ちょうど沢山人が居る場所にゆくとしよう」
ザザバエゾはにっこり笑い、そして全身が黒く光りはじめる。キャロラインの体も同じように漆黒に光る。
その不吉な光が無数の蟻がむらがるように体の周りを覆いつくし、目の前が暗転し、次の瞬間、ザザバエゾとキャロラインは地上に立っていた。
青い空。光輝く太陽。緑色の大地……
そして、兵士だ。兵士の群れ。地上を覆いつくすほどの大軍が二人の目の前に広がっていた。
キャロラインと魔王ザザバエゾは、ちょうど王家の軍隊とドンスター公の軍隊が対峙するド真ん中に現れたのだ。




