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7、悪役令嬢、人類で初めて最下層に到達し、魔王に出会う。

 そこは床一面に石畳がひかれている綺麗な通路だった。

 みると、所々に燭台が置かれており、そこに蝋燭の火が灯されていた。


 なんといえばいいのか……、まるで王都の中央通りのような……文明がそこにはあった。



 どうして、こんなに綺麗な通路がダンジョンの中に存在するのかキャロラインには分からない。


 だって、ここに来るまでの道程は、土だったり石だったり、ガタガタな道の方がはるかに多かったのに……どうして、途中から急に様変わりしたのだろう?



 キャロラインは、不安にかられた。



 だって、ダンジョンの入口から追放を言い渡されるまでの道程で、こんな場所などただの一か所も無かったからだ。


 キャロラインは持っていた松明の火を消した。


 壁に立てかけられた燭台の灯りが十分に明るかったからである。



 とにかく、余計なことを考えても仕方ない、と思い通路を歩いてゆくと、思わぬものにぶち当たった。



「……これ……なんなのかしら?」



 それはキャロラインの背丈の5倍はあるであろう大きさの扉だった。

 おそらく鉄の扉。

 その鉄の扉には見慣れない奇妙な装飾が施され、禍々しい雰囲気をかもしだしていた。


 それがちょうど、通路を遮るように、デン、と置かれていた。



 キャロラインは後ろを振り返り、顎に手をあてる。


「他に道なんて無かったわよね……」


 ないはずだ。


 なら、この扉を開いた方がいいのだろうか? でも地上から100層に到達した道程にこのような扉など無かった気がする……


 どうしようか……


 と思っているうちに、ギギギ、という音がした。振り返ると、鉄の扉が少しずつ開いてゆく姿が見えた。



 キャロラインは固まったままそれを眺める。

 すると、扉の隙間から坊ちゃん刈りの目のくりっとした子供が一人こちらを見つめている姿が見えた。

 まるで人間を警戒する子猫のように、ジィーっと子供はこちらを見つめていた。



 子供? ……子供!?



 どうしてこんなところに子供がいるのだろう?


 とても奇妙な気がしたが、とりあえず声をかけることにした。



「ねぇ、なにやっているの? そこで」


「朕であるか? 朕は……え~と……何をしようとしたんだっけ……、え~と……。忘れてしまった……」



 朕とは……耳慣れない一人称を使う子ね、とキャロラインは思った。


 キャロラインはその子供が開けた扉に手をかけると、その隙間に体を滑り込ませる。


「わぁ! ちょっと!」と子供は慌てた。「朕の部屋に勝手に人を入れてはいけない、と父上に言われておったのに……」


「それはごめんなさいね坊や。……ん? ここはあなたの部屋なの?」


「そうじゃ、ここは朕の部屋じゃ」



 ダンジョンの中に部屋があるなんて変わった子だなぁ、と思った。



「お父様はどこにいるの? ちょっと助けてもらいたいことがあるの!」


「父上に助けてほしかったのか? でも父上は人間が嫌いだしなぁ……、それに父上は死んじゃったから、ここにいるのは朕一人じゃ」


「そうなんだ……」


「ちなみに……助けてほしいのか人間」



 なんだろう……この子……ものすごく偉そうだ、とキャロラインは思った。



「わたくしにはキャロラインという名がありますの。まずはそう呼んでくださらない?」


「そうか……、そなたはキャロラインというのか。なるほど、では朕の名も知りたかろう? 朕の名はザザバエゾだ。よろしくなキャロライン」


「よろしくねザザバエゾ」



 ――ザザバエゾ?


 キャロラインはその名をどこかで聞いたことがあった。どこで聞いたのだろう? え~と、どこだったっけ?



「しかし、朕は感激じゃ。死体は沢山みたことがあったが、生きていて、しかも喋る人間というものを朕は初めて見た」


「あら、人と話すのは初めてなの?」


「そうじゃ」


 ふふふ、とキャロラインは笑った。


「とっても気持ちが分かるわザザバエゾ。わたくしもそうだったから」


「そうなのか?」


「ええ、わたくしの実家はドンスターと呼ばれる広大な領土を支配する家なのだけど、お父様は決してわたくしと誰かを喋らせたがらなかった。だから、わたくしがしゃべる人々は全部お父様の配下の者ばかり。だから、わたくしは家の者以外の人と喋ったことがなかったの」


「朕と同じじゃ……」


「だから、はじめて家の者以外の人と喋ったらとっても楽しかったの。たぶんわたくしはもっとわたくしの顔色を見ない人々と喋ってみたかったの」


 ザザバエゾが笑う。


「同じじゃ! 朕も同じ気持ちじゃ、わかるぞそちの気持ちが。だから朕は今とても楽しい! こうやって言葉を交わすだけなのに、とっても面白いぞ!」


「よかったわねザザバエゾ」とキャロラインはその青い坊ちゃん刈りの頭を撫でた。


 すると、その時、ようやく気付いた。この青い髪の子供にはトカゲのような尻尾が生えていることに……


 ――ん!??


 まてよ、と思った。



 青い髪。

 ザザバエゾ、という名前。

 そして……緑色の尻尾。



 キャロラインの顔から血の気が引いてゆく。


 ザザバエゾ。そうだ、ザザバエゾ。

 ダンジョンの最下層には、人類を恐怖のどん底の陥れる魔王が住むと聞く。


 その名もザザバエゾ。


 だが、最下層に到達した者はない為誰一人としてその姿を見たものはなく、前魔王アークシャインの姿からザザバエゾの姿を想像するしかない、と言われていた。



 アークシャインは青い髪の猛々しい男で、緑色の尻尾をふりあげ、人間を頭から丸呑みする凶悪な魔王であったらしい。


 目の前の子供は、伝え聞くアークシャインと瓜二つの風貌であった。



 ザザバエゾはとびっきりの笑顔をキャロラインに向ける。



「人間は嫌な奴ばかりかと思っていたが、そなたのような者もいるのだな。よろしくなキャロライン!」


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