40、執政官、ついに女王の兄を捕らえる。
「そうか、ついにビアンキ殿を捕えたか」とミッドランド城の政務室の椅子に深く腰をかけていたイエローは言った。
目の前の白い猫耳フードを被った通信魔法士のラルルが身振り手振りをまじえて喋る。
「はい、ランドー将軍の言葉によると、ビアンキ様はキャロライン陛下の下で公平な裁きが行われるなら投降しても良い、という言葉を残し、それから投降なされたようです」
「公平な裁きねぇ」ふふ、とイエローは鼻で笑った。
公平な裁きなどありえない。なにせ、今手元にいるのはキャロラインではなくパナなのだから。
証拠などいくらでもねつ造できるし、どんな嘘にもパナが首を縦にふればいいだけだ。
愚かなやつ。ふふふ。
「わかった。ではランドー将軍には王都までしっかりとビアンキ殿を移送するように言ってくれ」
「はい……、あの……それとなのですが……」
「なんだ? ラルル」
「ランドー将軍が私に厳命したのです。イエロー執政官にはしっかりと捜査するように伝えてくれ、と。
恐らくなのですが……、ランドー将軍は、ビアンキ様がアルバトーレ様の暗殺を命じた犯人ではない、と考えている御様子でした。キャロライン様が何か勘違いをなされておいでなのではないか……と」
「ほう……」
「……」
「では、お前はどう思う? ラルル。ビアンキ様でなければ一体誰がやったというのだ?」
「その……私にはわかりません」
「まぁよい。ああ、そうそう。ラルル、裁きが行われる時、君は私のすぐ傍にいなさい。そして、私がその頭を撫でたら、通信魔法を使いキールに連絡し、一言こう言いなさい。『やれ』と」
「やれ? ……それだけでよろしいのですか?」
「ああ、そうだ」
「分かりました。では、失礼します。このあと女王様が何やら話がある、ということで呼ばれているのです」
「そうか。……では行け」
通信魔法士ラルルは可愛らしい猫耳フードを被ったまま一礼し、素早く退室する。
彼女が退室したのを見計らい、イエローは椅子の背もたれに体を預けた。
まったく、と思った。パナは恐らくキャロラインを探しているのだろう。だから通信魔法士に会おうとしている。
だが、そんなことなど無駄だ。
そもそも私だってキャロラインの行方を把握していないし、なによりキャロラインとそっくりの女性を見たらかならず私に一報入れるように厳命している。だから、パナがいくら通信魔法士を通じて外部に助けを求めても無駄なのだ。
それに、パナがこの城から逃げだせないように、王の間の前を守るキングスガードにはきつく命じている。
絶対にここから女王陛下を出すな、と。
もしもそれで女王陛下が暗殺された場合、すべての責任を取ってもらうぞ、とも言い含めている。
だから、パナは王の間と女王の寝室を行ったり来たりするだけで、ほとんど誰とも会うことができない。
たまに会うのが、私であったり通信士であったりするだけだ。
完璧じゃないか、とイエローは思った。
あとはビアンキをさばいて、その後、女王との結婚を発表すればよいだけ。
そうするだけで、このミッドランドは私のものとなる。
このミッドランドのすべてが私のものとなるのだ。




