4、勇者パーティー、酒場で盛り上がる。
「カンパーイ!」
三人はグラスを重ねる。
中のビールがこぼれたが、ここでは誰も気にしない。なぜならここは酒場だからだ。
「ぷひゃあああ! やっぱりダンジョンあがりのビールは最高だな!」と勇者バロムが叫べば「女将さん! おかわり!」と僧侶アーニャが空のグラスを女将に見せる。
勇者一行は、ダンジョンから無事脱出し、そこから一番近い王都の酒場にてお疲れ様会をしていた。
「しっかし、あの野郎がすがりついてきたとき、思わず笑っちゃったぜ」と勇者は下品にさけんだ。
「あの女に相応しい末路よ」と僧侶アーニャが口角の片方をあげる。
「おいおい、それよか戦利品をはよだせや」と戦士にうながせば、戦士はキャロラインの巾着袋を取り出し、その中をそっと開く。
三人の視線が巾着袋の中に注がれる。
そこにあったのは金貨の山だった。
それ一つで浴びるほど酒が飲める。
「ひゃっはっはっはっはっは! さすがドンスターの御令嬢だぜ! 金だけはありやがる」
「ねぇねぇ、当然山分けよね? ねぇ? そうよね?」
「僕が彼女の腰からとったんだから、多少大目にほしいな」
などと盛り上がっていると、隣のテーブルに座る常連の宿屋に勤める男が「なんだ、今日は例の暴虐令嬢はおらんのかい?」と聞いていた。
「あ~、あ……そうだな……、ダンジョンではぐれちまったのさ、なぁ?」と勇者は戦士と僧侶に同意を促す。二人はビールを飲みながら首を縦にふった。
「なのに、彼女の持っていた金貨だけはお前たちがもっている、と?」と宿屋勤めの男が聞くと「なぁに、俺たちは信頼されてるのさ」と勇者はあくどい笑みを見せた。
その笑みは半分答えのようなものだった。
宿屋勤めの男は溜息をついた。
「たしかに、あのおなごはやっかいじゃったからな。この酒場に通うものであのおなごを嫌わない者などおらんじゃろうなぁ」
「だろう!?」と勇者バロムは破顔し、とびっきりの笑顔をみせた。「俺がみんなの代わりに天誅をくだしてやったのさ! これは少々のインセンティブだ」
「へぇ~」と言ったまま宿屋の男の声が低くなる。「インセンティブならしゃあないの。でもお前さんも頭が悪いのぅ」
「あぁん?」
「そこまで言われたら、引けん者もでてくるじゃろうに。あぁ~今の会話を聞いてる者はきちんとその会話を聞いとったじゃろ? ワシは関係ないことが分かったじゃろ? ワシは無関係じゃ」
「なんだ?」と勇者は睨みつけるように宿屋勤めの男を睨んだ次の瞬間だった。
勇者の背後から伸びてきた小振りの剣が勇者の喉元に突き付けられた。
同じく、黒い装束を着たものが僧侶と戦士の喉元にそれぞれ小刀を突きつけてきた。
「なんだ、てめぇらは!」と叫ぶ勇者に「黙れ」と黒装束の髭面のリーダーらしき男が言った。「キャロラインお嬢様を殺したのか?」
黒装束の胸には紋章が刻まれていた。
ドンスター公爵家の紋章だ。
「いや……、それが……、その……」と勇者が答えにもたついていると、黒装束の髭面が「その僧侶の女から殺せ」と言った。
僧侶アーニャは恐怖のあまり絶叫した。
勇者は慌てて制止する。
「待て待て! 待ってくれ! 殺しちゃいない! おいてきただけだ。ダンジョンに、それだけだよ!」
「何層に置いてきたのだ? 小僧」
「何層だったっけな……」と、勇者がもたいぶると、やはり小刀が少し喉に喰い込む。
「わかった、わかったよ。100層だよ。地下100層に置いてきたんだ」
黒装束の男たちの顔がみるみる青くなってゆく。
「隊長!」と黒装束の一人が言った。髭面は苦い顔をして「もはや御当主様に報告するしかあるまい、何がなんでもキャロライン様を死なせてはならん。我らの首もとぶぞ!」
勇者バロムは青ざめたまま、黒装束の男たちをみていた。
そして直感した。これはヤバい、と。俺たちはとんでもなくヤバいことをしてしまったかもしれない、と。
「小僧共、命が惜しければついてこい」と髭面の男は言った。
勇者パーティーの三人は顔面蒼白のまま、まるで連行されるように黒装束の男達囲まれ酒場を出ていった。
酒場は水をうったようにシン、と静まり返り、小鳥たちの鳴き声だけが遠くから聞こえた。