21、女王父、慌てる。
「なんだとぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!????」
そう唸り声をあげたまま、アルバトーレ=ドンスターはその場に倒れ込んだ。
「アルバトーレ様! お気をたしかに」とイエロー執政官が駆け寄る。
たった今、アルバトーレはイエロー執政官から聞いたのだ。キャロラインが消えてしまった件について。
なんでまたこんなことに、とアルバトーレは頭を抱えた。本当に頭がどうかなってしまいそうだった。
「賊は? その賊はどうしたのだ? 捕らえたのかイエロー?」
「いえ、逃げられました。私が駆け付けた時にはすでに……」
「ぬぅぁぁああああああああああああ!」と叫びながらアルバトーレは金の燭台の柄を掴み、砲丸投げのように回転しながらそれを思い切り外に向かって投げつけた。
ステンドグラスが割れ、キャー、という女性の声がどこからか聞こえた。
「まったく無意味じゃった! そうじゃろう影武者作戦! ワシの言った通りじゃろう!」
「本当に申し訳ございません!」
「キャロラインはこの満天下でもっとも美しく、もっとも可愛く、もっとも愛らしいのだ! そんな美貌をもつキャロラインの代役を務めることのできる影武者なんぞおるわけない! そうじゃろう!? やっぱりワシの言った通りじゃろう? そりゃあワシだって一発で本物か偽物か分かるわい! のう?」
「はぁ……」と言いながらイエローはちらりと傍に控えるパナを見た。
パナは泣きそうになりながらただ黙って下を向いていた。
「キャロラインは死んだのか?」と声を震わせながらアルバトーレは言った。
「いえ、このパナの話によれば、その可能性は薄いかと……。陛下は賊に首を締め上げられ、赤黒い光に包まれた、と、このパナは申しております。賊の言ったと思われる言葉から推察するに……、それは恐らく“異界送り”と呼ばれる呪文でございましょう。どこかに体を移動させる呪文です。なので、殺されたということはない……と思います」
「なら、キャロラインは生きているのだな?」
「ええ……恐らく……」
イライラしたアルバトーレは「ハッキリせい! キャロラインは生きておるのだな? それとも死んだのか? どっちじゃ!」と声を荒げた。
「生きております!」と脇からパナが叫んだ。
鬼のような形相でアルバトーレはパナに顔を近づける。
「なんで、それが分かる?」と獰猛な狼のような唸り声でアルバトーレはパナに尋ねた。
パナは泣きそうになるのを我慢して答えた。
「そ、それは……。大丈夫って……、大丈夫って女王様はオラに言ったのです……。だから……きっと……」
すると、パナとアルバトーレの間にイエロー執政官が割って入る。
「こうなれば最早キャロライン様を信じる以外道はありません。あのお方は強いお方です。ダンジョンの地下100層からこの地上に戻ってきたように、我々の下に戻ってくるはずです。そうでございましょう?」
すると、アルバトーレは途端に顔をくしゃくしゃにさせた。
「あぁ……、居場所さえ分かれば、いますぐ全軍率いてワシが迎えにいってやるものを……」
そう言って、子供のようにアルバトーレはワンワン泣いたのだ。キャロラインのことが心配で心配で……
そんな姿を見ながら、いいなぁ、とパナは思った。こんなに愛してくれる父親がいて……
でも……、とパナは思う。
違和感だ。どうしようもない違和感があった。
それは、まだ自分が生きている、という違和感であるし、何よりあの太い眉の男がキャロライン様を殺してしまわなかった、という違和感であった。
冷静に考えると、暗殺者ならキャロライン様を殺すのが普通だろうし、目撃者である自分を生かしておく必要もない。
なのに、暗殺者はキャロライン様をたいそうな呪文を使ってどこか別の土地に送ったばかりか、自分をそのまま放っておいたのだ……
キャロライン様と自分の顔は似ている。たとえある程度見分けがついたとしても、どちらも処分しておきたい……と思うのが人情ではないだろうか?
なのに……あの暗殺者はそれをしなかった。
なぜだろう?
パナは目をつぶり、思考を中断する。考えても仕方がない、と思ったからだ。とにかく、自分にできることと言えば、主人のキャロライン様を待つことだけだった。




