練習ノベル 雲を晴らす言葉
ある雨の日のことでした。いつも晩御飯は適当にコンビニで弁当を買って、家で
一人で食べているのですが、何となくお店のご飯を食べたくなったので帰路の途中
にあるファミレスに寄ったんです。傘を差してはいたんですが、雨もそんなに強く
なかったのですが、少しばかり濡れてしまいましてちょっとテンションが下がって
いました。なので、コンビニでなら四百円ほどで済ませられる食事に、千円くらい
払う価値がファミレスに本当にあるんだろうかなどとケチなことをつらつらと考え
ていました。
10分ほど歩いてようやっとファミレスにつきました。今日は平日であるにもか
かわらず、店内はそれなりに客がいて賑わっておりました。自分は楽しげな雰囲気
というか、賑わっている様子は好みではありませんがこういうのもたまにはいいか
なと思い、店の中に入りました。家まで帰る際に何度も見かけるお店なのですが、
入ったのは初めてだったので勝手がよくわかりません。戸惑って立ち尽くしている
と店員さんがやってきました。若い女の方です。すると彼女は笑顔を浮かべて「い
らっしゃいませ!」と元気よく言ってきました。こんなやり取り程度、外へ出れば
どこでも見られる何の面白みもないシーンです。しかし、変わり映えのしない生活
に飽きが来て、心がやさぐれていた自分には、彼女の笑顔が、彼女の言葉がひどく
特別な意味を持つものに感じられました。そう、このとき、このたった一言で、自
分の心は彼女に奪われたのです。