7話 「人族。」
「その後、旅の途中に三人の仲間に裏切られて一人で魔王城に来たと…」
「そんなかんじだな」
「なんか、ごめんな。これからはもうちょっと優しくするから」
そんな同情の眼差しで俺を見ないで。
「いきなりそんなこと言うのはやめてくれ!
余計惨めに思えてくる…」
「リオ、無理しなくいいんだ。これからは好きに生きていいだ。な?」
「もういい、もういい」
「でもまあ、人族ってなんだかめんどくさそうだなぁ」
「めんどくさそうって?」
「だって、みんながみんな互いに腹の探り合いして、相手を蹴落すことばっか考えてるってかんじじゃん。
それじゃあ、ご飯食べたって考え事してて味なんかわかんなそう」
こいつ、本当に食べること好きだなあ。
そのわりに身長は小さいまま…
「人族と比べると魔族は簡単だからな。
強い奴こそが偉い。ただそれだけ。私はやっぱこっち方が生に合ってる。
リオ自身は人族に対してどんな印象受けるんだ?」
「俺の人族への印象かあ」
思い浮べて出てくるものは勇者の役目を押し付けてきた兄の顔や民の血税を自身の欲に使う貴族、
俺に罵倒を浴びせて去っていったパーティーメンバーの顔。
「自分の欲望のためなら平気で他者を蹴落し、弱者からなけなしの利益を掠めとる種族って感じかな」
「自身の目的のためなら他者のことなんかお構いなしで、手段も選ばないって感じ?」
「そんな感じだ」
そうさ、あいつらは自分自身が良ければそれでいいんだ。
「でもさ、それってだれだって少なからずはやっていることな気もするな。
誰だって人より良い思いはしたいものじゃん。
自然界の動物だって仲間内で食べ物を奪い合ったりするし」
「そうじゃないんだ人族ってのは欲ってのはそういうのとは違う。もっと醜くおぞましいものなんだ。
奴らは自分が必要だから他者から奪い取るんじゃない。他者が欲しがるからこそ自分が独占したいと考えるんだ。
たとえば今日の夕飯のデザートにプリンが出たよな」
「プリン!もっと食べたかったなあ」
「アシュリールだったらどれだけプリンを食べれば満足する?」
「そりゃあお腹いっぱい食べたらさ」
「けど奴らは違う。自分だけがプリンを食べられるようにならないと気が済まないんだ。
他人が食べるのは許さない。自分だけっていう特別が欲しいんだ。
そのくせ実際食べるのは一個か二個」
「なんだそりゃ。そんだけしか食べないんなら他の奴がプリンを食べれないじゃないか。食べないで置いておいても腐るだけだし、
余ったプリンはどうするんだよ」
「余ったプリンは最終的には配るんだよ」
「なんだよ。それなら最初から独り占めする必要なんかじゃないじゃないか」
「ただで配るわけがない。
アシュリールみたいに「プリンを下さい」って懇願する民を弄ぶんだ。
自分が無理やり奪い取ったプリンなのに、相手にプリンを渡す代わりにもっと大きな見返りを要求する」
「うわぁ、それ、ただの悪党だ。
そんなことしてたら絶対いい死にできないだろうな」
「残念ながらそういう奴らが民の利益を独占して
うまいものを食って好きなだけ遊んで高笑いしながらふんぞり返ってるのが人族の今の現状だ」
「そういう話を聞くと人族って馬鹿な種族な気がしてくる。
多種族と戦争してる今は内輪でそんなことしている場合じゃないだろう」
「逆に魔族からは人族ってどんな感じに見えてるんだ?」
人族は魔族からどんな風に見えてるのか、
長い間戦争している相手に対してどんな感情を抱いているのか俺はちょっと気になった。
「そうだなあ。私個人の主観になってしまうが、知的で狡猾な生き物ってとこだ」
「知的で狡猾かあ」
「人族が欲の強い生き物だって言うのは私達魔族から見た視点でも理解できる節がいくつかある」
「特にエルフ族やドワーフ族から薬草調合技術や魔法技術、鍛冶技術を盗んでいったところとかな。
人族は新しい技術を作り出すんじゃなくて、既存の技術を組み合わせてより画期的な技術を生み出す
ことに長けている。そういう種族だと私は感じる」
アシュリールが言っているのは魚人族の航海技術、エルフの風魔法、ドワーフ族の鍛冶技術を組み合わせて行っている高速運搬方法や、
獣人の合理的な格闘技術にリザードマンの剣術、小人族の集団戦闘術などを複合させた軍隊などを言っているのだろう。
「他人が長い時間をかけ、経験と努力を積み重ねて作り上げたものを横から奪い取って集めて
自分たちは新しい技術を作り出すのではなく、そうして奪い取ってきた技術の混合に力を注ぐ。
そんな印象がある」
「なるほどなあ。そんな風に見えてるのか」
「魔族は何かに特出した才能を持つ種族が多い。
そのため新しい技術、手法、思想などの固有の知識をそれぞれの種族で持っている。
だが、それと同時に他者の知識を受け入れにくい傾向が強い。自分たちが培ってきた経験や知識が絶対と思っている節がある。
そのせいで、今まで知識の共有、混合が行われてこなかったんだ。
だからその点は人族を見ならわなければならないかもしれないな」
「人族ってのはやっぱ欲が強いんだよな。
他人が自分よりも画期的なやりかた、楽なやり方をしていたら真似したくなるんだ。
自分がやっていることが馬鹿馬鹿しくなるんだ。やってられないって。
自分がこんなに苦労しているのに簡単なやり方をしている奴らはずるいってな。
その技術や知識を生み出すためにどれだけの労力、努力をしたのかは考えないんだ。
平然と当たり前のように奪い、盗んでいく」
「話をまとめると人族自身から見ても、魔族側から見ても人族ってのは他者から奪い取るのが好きって感じだな」
今回の話し合いで、
「多種族から利益を奪い、人族内でも互いに利益を奪い合う。
人族はそんな悲しい種族だな」俺はそんな感想を持った。
「さて、今日はここまでにするか。夜ももう遅い。
明日も仕事が溜まっているからここらで休むとするよ」
「俺も魔族側からの見え方も聞けてよかったよ」
「またいろいろと聞こうと思ってるからそのときはよろしくな。
じゃあ、おやすみぃ~」
そういってアシュリールは俺のベットで寝てしまった。
「おい待て。ここで寝るんじゃない!」
こんなところで寝られたら俺のほうが寝れない。
それに翌日アメリアに何されるかわかったもんじゃない。
しかしアシュリールは寝つきがよく、リオの声が届くこともなく寝てしまった。
「ハア~。こりゃ今日は寝れないな
まあ、昼寝をたくさんしたから問題な言っちゃないけど問題はアメリアにばれない事だよな。
目ざといあいつにばれないとかほぼ無理な気がするけど」
そうして夜は更けていった。