5話 「魔王城のメイドさん。」
この食堂はアシュリール専用の食堂らしいのだが、一人で使うにしては広すぎる。
人が少ないこの城だがどの部屋も広さだけは無駄に広い。
天井には豪華で巨大なシャンデリアがつる下がっており、縦にとても長いテーブルが堂々と
食堂の中央に佇んでいる。
食堂に入ると15歳ほどの外見の金髪の白いコック姿の少女が僕らを迎えてくれた。
彼女は俺を見た途端、彼女の表情が少しこわばったような気がした。
白く長めのコック帽に白く清潔な調理服の彼女はとても可愛らしい。
なによりおでこが出でいるところがとてもチャーミング!
俺は彼女の耳に眼が行った。少し長めの耳をしている。
特徴的な耳と金髪から察するにたぶん彼女はエルフだろう。
「そうだったそうだった。シャルルのことをまだリオには紹介していなかったな」
そういって少女に挨拶を促す。
少女はペコリと頭を下げて俺に自己紹介をしてくれた。
「はじめましてリオ様。シャルルと申します」
「彼女にはこの城の女中をまかせているだ」
女中ってことはメイドさんか。
「俺はリオ・シルヴァーノ。聞いてるとは思うけど、ええっと、
アシュリールの一応婿ってことになってる」
本人が横にいるのに他人に対して「俺はこいつの婿だ」っていうのは
なんか恥ずかしいな。
「一応って何だよ。正真正銘私の婿だろ?しゃきっとしろ!」
背中を叩かれてしまった。
そうは言われてもいまいち実感がわかないんだよなあ。
外見が小さいからいまいち自分の嫁って感じがしないんだよね。
感覚的には妹とかに近いかな。
「仰せつかっております。
これから身の回りのお世話をさせていただくことになりますので、よろしくお願いします」
「よし、じゃあ夕食にしよう。シャルル、料理を頼む」
「かしこまりました」
俺たちが席に着くと、シャルルがテーブルに料理を並べ始めた。
シャルルが運んできた料理はどれも見栄えがよく、もちろん味も絶品だった。
「めちゃくちゃおいしいんだけど!」
「そうだろう、そうだろう。
シャルルの料理はいつも最高だ!」
褒めたのはシャルルのはずなのになぜかアシュリールが自慢げだ。
シャルルは「ありがとうございます」といって微笑んでくれた。
料理の最後にはプリンも出た。
「おおお~、今日のデザートはプリンか!」
アシュリールのテンションはプリンが出てきたとたん上がった。
どうやらプリンが好きらしい。そっとスプーンでプリンを口に運び、一口一口笑みを溢しながら食べている。
俺はすべての配膳を終え、お盆を持って立っているシャルルに話しかけた。
「シャルルの他に女中さんっていたりするの?」
「いえ、私だけです」
「じゃあシャルルだけでこの城の掃除とか洗濯とか全部やってるってことか?」
「まあそうですね。けど、私、体力にはそこそこ自信があるんです!
今はこのお城そんなに人がいませんから料理も数人分ですし、
濯物もそんなにはありませんから問題ありません。
掃除だけはちょっと大変ですけど…」
「そうだとしても一人じゃ重労働過ぎやしないか?」
そこにアシュリールも口を挟んでくる。
どうやらプリンは食べ終わったらしい。
っておい。俺の分のプリンまでいつの間にか食われてるんだけど!
「シャルルには苦労をかけて申し訳ないと思ってる」
「女中さんを増やしたりとかは出来ないのか?」
「それがなかなか厳しいんだ」
「なんでだよ?」
「私も今ちょっとした事情をかかえているんだ。
それが原因で信用の置ける者を確保できない」
ちょっとした事情って何なんだよ。
廊下で話したこの城に人が少ないっていうのも女中さんを確保できないのと同じ理由だろうか。
それにしても、「信用の置けるものを確保できないから」か…
なんでだ?
アシュリールは魔王だ。魔族の憧れの存在だ。
そんな彼女が信用の置ける者を確保できないって、どんな事情なんだ?
「アシュリール様、大丈夫です。私やれます」
シャルルは小さなコブシを握り宣言する。
「そうか。そういってもらえると助かる。
だが、あんまり無理はしないようにな。シャルルが倒れたらそれこそ私やアメリアまで倒れてしまう」
シャルルが倒れるということはこの城の世話をする人がいなくなるということだ。
魔王に影響が出るわけで、魔王にい影響が出るということは民にもその影響は連鎖する。
「そうですね。気をつけます」
「じゃあリオ、そろそろ行くか」
「あ、ああ
シャルル、俺が手伝えるようなことがあれば言えよ」
「リオ様の手を煩わせるなどめっそうもないです。
仕事はしっかりやりきって見せますので見ていてください」
「うん、わかった」
俺たちは席を立ち食堂を後にした。
食堂を出る際シャルルは一礼をすると空いた皿を山済みにしせかせかと運んでいった。
これが習慣なのかもしれないが、俺は仕事積めであろう彼女のことを少し不安に思った。
廊下を二人出歩いているとアシュリールが話し出した。
「申し訳ないがシャルルにはあまり関わらないようにしてやってくれないか?」
「それはどういうこと?」
俺はシャルルを少し心配に思っている。
自分が出来ることなら手伝ってあげたい。俺は日中特にやることも無い。
掃除や洗濯はやったことは無い。お節介かもしれないが少しでも彼女が楽になるなら手伝いたい。
「彼女は少々事情を抱えているんだ。
彼女を思うなら必要以上に関わってあげないでくれ」
そうは言われてもなあ。
ただ、ここでアシュリールに向かって
『いやだ。俺は彼女を助けてやりたい』
っていっても頭を縦には振ってはくれないだろう。
城の件といい、シャルルの件といいアシュリールは何か隠している。
「どうせ事情は話してはくれないんだろう?」
「ああ、すまない」
やっぱり話してくれないか。
俺はただアシュリールが困っているなら助けてあげたいだけなのに。
俺を婿にするとか言っておいて、結局俺のことは信用できないのかよ。
それならこっちにも方法がある。
自分で探りを入れて調べてやる。
「わかった。今はその忠告聞いておくよ。
それはそうとアシュリール。俺に謝ることはないか?」
「ん?」
「ん?じゃねえよ!
どさくさにまぎれて俺の分のプリン食べただろ」
「何のことかさっぱり」
「とぼけるな」
そっぽを向いてごまかそうとしても無駄だ。
観念しろ!
「シャルルが食べたんじゃないのか?」
「んなわけねえだろ。俺と話しながら俺に気づかれないようにどうやってプリンを食べるんだよ」
「さあな。まあ無くなってしまった物は諦めろ。
人生諦めが肝心じゃなかったのか?」
「諦める以前に答えは出てんだよ。どう考えてもお前が食ったんだろうが!」
アシュリールを掴もうとするが華麗に避けられてしまった。
「そんなんじゃ私は捕まえられないぞ~。ほらこっちだ!」
「待ちやがれ!」
そのあと俺はアシュリールと、俺の部屋まで追いかけっこをした。
追記、あいつ足マジで速い。一切追いつけなかった。というか途中から俺を煽ってきてマジでうざかった。