4話 「マイルーム。」
下剤事件が一通り片付いた後、アシュリールとアメリアは再び執務室に集まっていた。
腕を組んだアシュリールは不機嫌そうにしている。
「アメリアあれは流石にやりすぎだ」
「そうでしょうか?あの男にはこれくらいの躾けをしないといけないと思うのですが」
「おまえはいつから主人に口答えするようになったんだ?
仮にもあいつは私の婿だ。さっきは「努力する」の言葉で手を引いたが努力した結果がこれでは流石に許容できないぞ」
「リオ様を婿に迎えるというのも私は賛成しかねます。何故あの男なんですか。各部族長のご子息にいくらでも良い殿方はおります。今のアシュリール様の状況を考えると
どこか特定の部族との繋がりを強めるために、そういった方々と婚姻を結ぶほうが良かったのではないですか?
そうすれば現状の打開策につながるかもしれません。
今からでも遅くはありません。考え直してください。」
「今日はやけに私に反発するな。
リオとの結婚は決定事項だ。異論は一切認めない。たしかにお前の言ったとおり魔族の中で権力のある奴と結婚すれば今の八方塞な状況を抜け出す糸口になるかもしれない。
だが、今の私と結婚してくれるような物好きはいないだろう。仮に族長の息子に私と結婚したいなどと言う男がいたとしても私は結婚したくない。
そんな奴は現状が見えていないただの馬鹿か、何かをたくらんでいる厄介者かのどちらかでしかない。
リオに対してだが、私の婿として扱えといいたいところだが、
今のお前を見ていてそれはできそうになってことは良くわかった。だから、最低限さっきのような直接的な嫌がらせや仕打ちはやめるんだ。
いいな?」
「はい…アシュリール様」
アメリアは深く頭を下げるのだった。
◆◇◆◇◆◇
下剤事件があったあとアメリアに案内され、俺は一つの部屋に案内された。
入ってみるとなかなかに広く高級そうな家具が一式そろった高級ホテルのスイートルーム顔負けのいい部屋だった。
アメリアの嫌がらせで監獄なんかに案内されると思っていたが
そんなことはなほっとした。
ついでにトイレや浴場の説明や共用スペースなんかの説明もアメリアにしてもらった。
「ここがリオ様の部屋になります。ご自由にお使いください。」
「まさか罠なんて仕掛けてないだろうな?
俺はこの部屋で安心して夜寝ていいんだろうな?」
「安心してください。もし何かあっても死にはしませんから」
「一切安心要素がないんだが?
死ななきゃ何してもいいと思ってるなら大間違いだからな!」
「冗談ですよ。今後、リオ様を痛めつけることは努力して控えるとアシュリール様と約束したばかりですから」
「その約束、さっき俺のお茶に下剤を混ぜて早速破ってくれたよな」
「それはリオ様がいけないからですよ。
アシュリール様にあんな表情をさせるなんて、私悔しくて悔しくて仕方がありません」
「あんたの嫉妬心が過激すぎるのが問題であって俺は一切これっぽっちも悪くねえ。
最初に挨拶されたときは冷静沈着なやつだと思ったのにふたを開けてみればとんだ
ロリコン変態やろうじゃねえか。ちょっとは自制しろ変態」
「私が変態なわけではありません。
あなたが変態なんです自覚してください。アシュリール様を見て心が動かないなど、あなたの心は腐って何も感じなくなっているのではないですか?」
「あ、そうですか。アシュリールを見て心引かれるのが常人なら俺は変態でかまわないね」
やっぱ、俺はこいつとは仲良くできそうにない。
「まあいいでしょう。アシュリール様の素晴らしさは私がこれからしっかりと体に叩き込んで差し上げます。覚悟しておきなさい。
それで、話は戻りますが部屋の件は本当に安心して下さって問題ありません。
さきほどアシュリール様に怒られてしまいましたので…」
珍しくアメリアは落ち込んだ表情を見せていた。
「私は仕事がありますのでこれで失礼します」
アメリアは肩を落としながら部屋を出て行った。
そうか、あいつも落ち込むこととかあるのか。まあ性格の浮き沈みの激しいやつだからすぐにいつもの調子を取り戻すだろう。
少し悪いことしちまったかな。魔族は絶対王政。別名、絶対君主制を古くから採用している。
絶対君主制とは王が絶対的な権力を行使する政治体制で一人の王がすべての決定権を有する。
そのため民は魔王を尊敬し忠誠を捧げ付いていく。あれだけアシュリールを慕っていても変ではないのかもしれない。
「ここだと本当に俺のほうが普通じゃないのかもしれないな」
そんなことをぼやきつつ部屋の奥に向かう。
「う、またか」
まだ下剤の効果が切れてなく、部屋について早々にトイレに駆け込んだ。
「ふう…」
ことをすませトイレットペーパーを取ろうとして気づく。
「紙がない…」
「あの野郎。次ぎあった時は許さないからな」
せっかく少し言い過ぎたって反省していた所なのに芽生え始めてきた罪悪感が消えていく。
次あったときはただじゃおかないからな。
俺は打倒アメリアを心に決めた。
結局紙は便器の陰に隠してあっただけだった。
ビビらせやがって…はぁよかった。
トイレを出えた俺はベットで今日の出来事を振り返っていた。
本当に今日はいろいろなことがあったな。
ここには最初死ぬつもりで来たのに広間でアシュリールに蹴られたり、からかい合ったり、いつの間にか魔王の婿にさせられたり。
アメリアからは罵倒を浴びせられたり、説教されたり、下剤飲まされたり…
あれ?ほとんど大した事してなくね?
まあ、魔王の婿になったことはかなり大きな出来事なんだけど。
何はともあれいろいろあって疲れた。
疲れからか、俺は睡魔に抗うことが出来ず眠りに落ちていった。
◆◇◆◇◆◇
「おーい。リオ起きろ~」
誰かが俺を呼んでいる気がした。
「起きろってば~」
だが俺は起きたくない。
睡眠欲には誰もが屈服するのだ。
今は寝ることこそが至高。それ以外は何もいらない。
「さっさと起きろ!」
「ぐはッ」
俺は腹に強い衝撃を受けた。
「痛ったいなあ」
「さっさと起きないから悪いんだ。」
俺の腹の上に笑顔のアシュリールが乗っていた。
「アシュリールか。何しにきたんだ?
仕事はもういいのか?」
「ああ、今日はもう切り上げた。
もう嫌だ。これ以上考えたくない」
なんだそれ。
そんな理由で仕事を放り投げてもいいのだろうか。
魔王ってもっと責任のある立場なんじゃないのか。
「そんなことよりも約束しただろう?人族についていろいろ教えてくれるって」
「ああそうだったな」
「けどその前に夕食だ。食堂まで案内するからついて来い」
「わかった」
壁にかけてある時計を見るともう夜になっていた。
そうか、俺は結構長い間寝ていたらしい。
俺はアシュリールに付いて食堂に向かった。
俺は廊下を歩きながらふと思ったことをアシュリールに聞いてみる。
「そういえばなんだけど、何でこの城こんなにも人がいないんだ?
一時間城を迷ったとき、アメリア以外誰とも会わなかったぞ?
「!?そ、それはだなあ…」
彼女は口ごもっていしまった。
言いたくないような理由でもあるのだろうか。
「また今度話す」
「なんだよもったいぶって」
「いいんだ。それより先に夕食だ」
「はいはい」
そうして俺ら二人は食堂に入った。