2話 「俺はロリコンなんかじゃない。」
俺とアシュリールは広間での出来事の後、
「よし、とりあえず今後について話し合うために場所変えるか」
という提案で彼女の執務部屋に移ることになった。
魔王城はとても巨大。移動するだけでもかなりの時間がかかる。内部の構造はそこまで複雑ではないものの
なんせ部屋数や階層がやたらと多い。
俺一人で移動してたら地図があっても迷うだろうな。
俺は先ほどの広間での話し合いを思い出していた。成り行きで魔王アシュリールの婿になったのはいいものの、俺は先どんなふうに魔王城で過ごせばいいのだろう。
そんなことを考えながら魔王の後ろについて廊下を歩く。
魔王はというと
「フン♪フフン♪フンフン♪フ~ン♪」
なんかすごいご機嫌だった。
こうやって見ても、さっきまであった魔王の威厳はまるで感じられない。
キリッとしてて真っ直ぐに見つめられた時は、目の前にいる子供を絶対的な強者として認識していた。
しかし、今の彼女にはそんな雰囲気微塵も感じられない。
というか、本当に彼女が俺の妻になるってことで間違ってないよね。
こうやって彼女の後ろ姿を見てると、なんだかさっきまでは感じていなかった実感がどんどん湧き上がってくる感じがする。
俺、こんな外見が幼い少女を嫁にしてしまって大丈夫なんだろうか…
これじゃあ両親や友達には紹介できないな。まあ親は嫌いだし友達なんていないからそんな必要は無いんだけど。
あれ?結婚して早々、幸せいっぱいのはずなのに涙が流れてくる。
それ以前に知人に紹介する以前に俺、捕まったりしないよね?
外見が子供なだけで歳は俺よりも上って言ってたし。まあ大丈夫なのかな? 合法合法。
なんか合法って言うと、法律の隙間を掻い潜ってるような気がして安全じゃない気がしてくるのが不思議だよね。
けど、本当に彼女は俺よりも年上なんだろうか。
今目の前で超ご機嫌で鼻歌を歌ってる姿を見ていると、彼女が外見相応の内面してるようにしか見えないんだけど。
アシュリールをじっと観察していると彼女は俺の視線に気づいたらしく振り返りこちらを見返した。
「ん?そんなに私を見つめちゃってどうしたんだ?
はは~ん。さてはやっと私の美しさに気づいたなあ?
まったく男というものは仕方がないなぁ~。いいさ!いくらでも私のこのセクスィ~な姿を眺めるといい!」
あ、そういうのは結構です。
「どこら辺がセクシーなんだよ。完全にツルペタじゃねえか。
あと一番足りてないのは体型より身長な。最低でも15cmは伸びないと子供にしか見え…」
俺が最後まで発言する前に俺の脛にアシュリールの蹴りが飛んできた。
「いってえ~
なにすんだよ。というかマジで脛はやめてめちゃくちゃ痛いから」
「ばか!
お前のことなんか知るか!」
そう言い終わる前にアシュリールはそそくさと歩いて行ってしまった。
「あ、ちょっと待って。こんなとこにおいてかれたら俺道わかんないから。
マジで待って。足痛くて歩けないんだって...頼む、待ってくれえ~」
俺の悲しい嘆きはアシュリールに届くことなく、彼女は廊下の闇に姿を消してしまった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
それから一時間。
俺は広い魔王城をさまようものの一向に目的地は見つけられずにいた。
絶賛迷子中。
使用人にでもあったら執務室までの道を聞こうと思っていたが、俺の思惑とは裏腹に誰一人すれ違わない。
「どうなってんだこの城。誰もいないじゃないか」
ためしにそこらへんのドアを開けたりもしたが大体が倉庫か空き部屋になっていた。
「なんでこんなに人がいないんだ?」
そろそろのども渇いてきた。あとどれだけ俺は魔王城をさまよわなければならないのだろう。
次もしもアシュリールに会えたら謝罪しよう。
などと考えているとついに前方から歩いてくる影を見つけた。
前方から歩いてきたのは銀髪を後ろに一つに束ねたスーツ姿の女性だった。
彼女はリオの前まで来ると軽く一礼をした。
「あなたがリオ様で間違いございませんね?」
「はい、そうですが」
「私は使用人のアメリアと申します。以後お見知りおきを。
アシュリール様の命により執務室までご案内しますのでご同行をお願いします」
そういうと彼女はすたすたと歩き始めた。
無駄口叩かず黙って着いて来い。そんな文字が彼女の背中に書いてあるような気がしたが、
俺はアシュリールの現状を聞きたくてそっと彼女に声をかけた。
「あの~」
しかし、
ギロッ
めちゃくちゃ睨まれた。
「俺、なんかしました?」
「何かしましたですって?あんなことをしておきながら、まさか身に覚えがないとでも言うつもりですか?
アシュリール様に向かってチビというなど身の程を知りなさい!」
まあそうだよな。
魔王に対してチビなんて我ながらよく言えたもんだ。
あいつ外見が魔王に見えなかったからつい言っちゃっただけなんだけどね。
魔王に悪口言うとか俺、勇気ある~
今だけ偽勇者じゃなくて勇者って名乗っていいですか。
「そうですね。悪かったと思っています」
「あなたは、なーーーんにも魔王様の良さを分っておりません。
あの小柄な容姿がすばらしいのではないですか!
小さな背中に民からの重い期待を受けて日々政務に励んでいるんです。
背伸びをして上の棚の資料をとろうとしている姿をあなたは見たことがないでしょう?
私が手伝って差し上げようとしても、意地を張ってご自身で最後までお取りになるんです。
取れた後の達成感のこもった笑顔ときたらもう最高で...あの笑顔を見たときは私はもう死んでもいいとまで思いましたね!」
「あ...はい、そうですか」
この人ちょっとやばいかも。
そっち系の人だったかぁ俺はついていけないなか。
どちらかというと大きいほうが好みだし。
「いいですか?あの身長だからこそ魔王様は魔王様なのです。
身長の伸びた魔王様なんで考えただけで私は苦しくて死にそうになってしまいます」
結局身長が小さかろうが大きかろうが
死を感じるのね。
「そうでした。私としたことがリオ様に祝辞を言い忘れておりました。
この度は魔王様との婚約誠にお・め・で・と・う・ご・ざ・い・ま・す」
アメリアは目をギラギラと光らせながら祝辞を述べた。
いやいや言葉と表情があってないよ。
そんなに睨まないで。美人な分だけ睨んだ顔が怖い。
「それはどうもありがとうございます。
無力な身ですが、魔王様に釣り合うよう日々精進します」
「当たり前です。精進してください。
私ごときの攻撃に反応できないなど弱いにもほどがあります」
「まさか、門の前で俺を気絶させたのって」
「はい、私です。
こんなことになるのならあの時息の根を…」
「独り言聞こえてるぞー
物騒なこと言うんじゃない」
「ですが、これからでもチャンスはでもいくらでもあるのですから。フフ」
こんなんじゃ夜もおちおち寝られないかもな。
「アメリアさ~んそろそろ帰ってきてくださ~い
それと本当に実行するのは勘弁してくださいね?」
「それは今後のリオ様しだいですかね。
もし、魔王様を悲しませるようなことがあればただじゃおきませんから」
「それともし魔王様に手を出したら・・・」
そういうとアメリアはリオの股間に目を落とす。
「切りますから」
俺は背中に冷や汗をかきながら股間を手で隠した。
「何をですか?」
「聞かないほうが精神衛生上いいと思いますよ」
そんなことされたら男として死ぬよりもつらい。
「冗談に聞こえない」
「冗談じゃありませんから」
「何でだよ。これでも俺は魔王の婿だぞ!」
「そんなことは関係ありません。私が不快に思い切りたいと思ったのならそうするまでです」
この使用人魔王様大好きすぎてやばい。
発言がいちいち危ないし理不尽だ。
「そんなのは横暴だ!
それと、外見があれなんだ。あんなチビに俺が欲情するとでも思ってるのか?
断じてでそんなことはない。ここで宣言しておこうじゃないか!」
そうだ。俺はロリコンなんかじゃない。
あんたと一緒にしないで欲しいな。
「ここでのその発言は魔王様への誹謗ではなく、リオ様の好みと魔王様の容姿が異なるということにしておいてあげます。
その言葉私は一生忘れませんからね?」
「ああ大丈夫だ」
そんな会話をしているうちに、俺達二人は執務室と書かれた部屋の前まで移動していた。