星のささやき
星の子にでてきた水と水晶の美しい星です。続編のようになってしまいましたが、ひとつの物語として楽しんでもらえれば嬉しいです。
真っ暗な宇宙には、たくさんの星たちが光輝いています。氷の塔がそびえ立つ寒い星。炎から生まれた生き物がうごめく熱い星。暗闇に包まれてしんとした静けさの中に住まう人。厚い雲の中で死ぬまで飛び続ける鳥のような生き物。水の中で人魚が王者となり、ゆらゆら揺れる水の星。
たくさんの星の中でも水晶と水の美しさで有名な星がありました。あらゆる鉱物がそろい、なかでもこの星の核となる鉱物が水を清めて美しい水晶を育てていました。
この星の鉱物はなるほど良いものではありますが、水晶は特に素晴らしいと評判です。この星の清浄な空気を気に入って住みついた人たちは、水晶を何よりも大切に扱っていました。
水晶を敬っていた人たちも時が過ぎるにつれ、もっと素晴らしいものが欲しくなりました。よその優れた技術を見るうちに、自分たちの敬う水晶がとんでもなくちっぽけに思えたのです。
「やあ、ここの鉱物と水晶は価値があるけれど、もっと良いものがあるね」
「さて、それは一体何でしょうか」
はるか彼方から来た旅行者は、この星の核が大変素晴らしいものであり、宇宙の技術者の間では高値で取り引きされているのだと話しました。旅行者の話を聞いている内に、この星の核を少しばかり掘り出して、宇宙の最先端の技術を学び取り入れて、よその星に負けないような素晴らしい星にしようと言い始めました。
「そんなことをする必要はない」
そういった声は黙殺されて、この星の偉い人たちは核を掘り出して売ってしまいました。旅行者の言うとおり確かに高値で売れました。素晴らしい技術や知識を学ぶこともできましたが、星の水と水晶は次第に暗く濁るようになりました。原因は明らかでしたが、最初の頃は見て見ぬフリをしました。またすぐに元に戻るだろうと考えて、星の核を掘り出すのを少しの間やめることになりました。
しかし、暗く光る水晶は輝きを取り戻すことなく、水は濁るので浄水設備をつくりました。
「前は、そのまま飲めたのに」
「大丈夫。水晶が育つようになれば、また美味しい水が飲めるようになるさ」
宇宙の最先端の科学技術に期待し、水晶が育つのを待ちました。ですが、核を掘り出してしまったことで、この星のバランスが予想以上に狂ってしまっていることは、上層部のほんの一握りしか知りません。
「この星の核を元通りにできるのか」
たくさんの科学者や学者を呼んで、研究を続けましたが、核が元通りになる見込みはなく、よどんだ空気と水はますますひどくなるだろうとの話でした。
「核を掘り出すのをやめたのは、賢明でした」
「賢明なものか。すでに取り返しがつかなくなっているというのに」
頭を抱える人々に、星の子のもつ水晶がこの星を救ってくれるかもしれないと、古い伝説を話しました。
「おとぎ話でしょう」
「おとぎ話ではありません。出会った人たちの証言もあるんですから」
この宇宙に散らばる星たちは、いつかは寿命を迎えます。その星の欠片と運良く出会った者に幸運を授けるという話でした。
「馬鹿馬鹿しい」
そう言いながらも打てる手はすべて打つことに決めて、多くの人たちを宇宙へと送り出し、同時にこの星を元に戻す研究を続け現状維持を考えます。それから少しずつこの星をでて、別の星に移れないものかと相談し始めました。
数年が経った後、一人の少年が薄く透き通るような青い水晶を持ち帰りました。人々は喜びました。少年に勲章を与えて誉めそやし、時の人としてもてはやしました。その間、少年はどこか遠くを見つめたままでした。
「君のおかげだよ」
少年の持ち帰った水晶は、この星の核を癒し元通りといかないまでも活力を取り戻しました。昔と同じように水晶を敬う人が増え、核を掘り起こしてはならないと厳しい掟をつくりました。
時の人となった少年は、神殿で祈りを捧げるたびに、強いまなざしをここにはないどこかへ向けます。
「お兄ちゃん。どうしたの?」
時の人となった少年を子供たちは尊敬していました。キラキラした瞳で自分を見つめる男の子に、少年は静かに微笑みました。
「僕は、返しに行かなければならないんだ」
「お兄ちゃん?」
それきり少年は口を開かず、その場を立ち去りました。数年後、少年は遠い宇宙へと飛び立ってしまいました。
「僕はこの星を愛してる。この星に愛をくれた彼女に、僕は会いに行くんだ」
少年の想いと言動を理解できる者は少なく、少年は皆から変わり者だと思われました。
ただ、この星の核だけは少年のことを心から応援していました。
誰にも聞こえないささやきは、少年も知ることはないでしょう。
星の子、星の子、願いを叶えてくれてありがとう。あなたの輝きと共に生きよう。
時が互いを別つまで。
大切なものを大切にする。シンプルなことなのに難しい。星の子を書き終えたあとに浮かんだお話です。