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ウルスライアス清掃紀行  作者: 龍々山 ロボとみ
第二章:キョウの都で大暴れ
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7話:退魔師の流儀・4


「何を……!?」


 ライアスは、ベガの言葉と視線の冷たさに息を呑んだ。箒を握る手にも思わず力が入る。


「アナタが最近こそこそと何かしていたのは知っていたわ。ワタシ以外の退魔師と一緒に依頼を受けたりしていたことも。それは、別にいいわ」


 今にも飛びかかってきそうな気配のまま、ベガは言葉を続ける。


「その不思議なホウキで、一緒に仕事をした退魔師たちを浄化していたことも知ってる。瘴気の毒や悪効を打ち消していたんでしょう? 前にあのボウヤにやってたみたいに。まぁ、それも別にいいわ。鬼みたいな醜悪な存在になるぐらいなら、なりふり構わず助力を得たらいい。それが弱いなりの生き方というものだし、実力の足りないやつら(退魔師たち)には必要なことだろうから。……ワタシが許せないのはね、ライアス?」


 ウルスラは最大限の警戒心をベガに向けた。

 ベガの口角がつり上がり、細い三日月のように口元が割れた。


「その不思議なホウキを、ワタシに(・・・・)対しても(・・・・)使おうと(・・・・)している(・・・・)ことよ」


 一歩。ベガが踏み込んでくる。


「ワタシのことを頼るのも、ワタシのことを慕うのも。ワタシのことを怖れるのも、ワタシのことを憎むのも。別に構わないわ、それぐらいのことは。けど、ワタシの強さをみくびって、侮る奴は許さない」

「……ベガさんが強いのは知ってるし、それを侮っているつもりもないよ」


 ライアスは後ずさりしそうになるのを必死でこらえ、ベガとの会話を続けようとした。

 ベガがふるふると首を振る。


「いいえ、いいえ。アナタはワタシの強さをナメてるわ。だって、アナタが使おうとしていたのって、要するに人を鬼にしないための技なんでしょ?」

「……そうだよ」

「それはつまり、ワタシが(・・・・)瘴気の毒に(・・・・・)負けて(・・・)鬼になるかもしれないって、そう思ったってことなんでしょう? ワタシの強さでは瘴気の毒に負けるかもしれないって、心配した(・・・・)ってことなんでしょう?」


 それが侮りでなければなんなのか、と。

 さらに一歩。ベガが間合いを詰めてきた。


「ワタシにとって、強さとは誇り。ワタシがワタシであるために必要不可欠なもので、決して軽んじられてはならない不可侵の領域。アナタは、それを踏みにじろうとしたの」


 鋭い殺気がライアスの肌を刺す。ビリビリと空気が震えているようだった。


「だから許さない。ここで殺す」


 ベガが構えた。

 なおもライアスは会話を続けようとしたが。


「誤解だよベガさん。俺はただ……、っ!」


 ベガの鎌鼬(かまいたち)が飛んできた。

 首を狙って放たれたそれを、ライアスは箒で防いだ。


「やっぱり、妖術だと効きが悪いわね。……それなら!」

『ライアス、来ますよ!』


 ベガが一瞬で間合いを詰める。

 右手を振りかぶり、叩き付けてきた。


唐竹割(カラタケワリ)!」


 ライアスは箒を頭上に構えて受け止めた。

 金属同士を激しく擦り合わせたような音がする。


「ぐっ……!」


 重い一撃であるが、ライアスは耐えた。

 さらにライアスは箒をぐるりと回してベガの右手を払いながら、柄の部分でベガの横っ面を打つ。

 回転で加速した箒はベガの頭を大きく弾き飛ばした。


「ベガ先生!?」


 ベガの言葉に唖然としていたイナバだったが、ベガが顔を打たれたのを見て我に返った。

 慌てて駆け寄ろうとするが、ベガに手で制される。


「……イナバぁ、少し外に出てなさい」


 ベガはこめかみににじんだ血を拭いながら、ライアスを睨んでいる。イナバのほうを向こうともしない。


「で、ですが……!」

「イナバ君、ごめんだけど、そこにいたら巻き込まない自信がない」


 ライアスもイナバにこの場から離れるように言う。

 イナバは、泣きそうな様子で顔をくしゃりと歪ませると、くるりと回れ右して走り去った。


「ふぅー……」


 ライアスが呼吸を整えながら箒を構える。

 箒の穂先が真っ直ぐにベガの眉間を捉え、目付は全体をぼんやりと眺めるようになっている。

 構えには余計な力が入っておらず自然体となっており、ベガがどのように攻めてきても即座に反応できるだろう。


『戦うのですか、ライアス』

「うん、戦う」


 ライアスは頷いた。


『戦わずにすむなら戦いたくないと言っていましたのに?』

「……できることなら戦いたくはないんだけど……」

『けど?』

「あれは、今のうちに火を消しておかないと大変なことになる気がするから……」


 あとになればなるほど話が通じなくなる気がする。

 そう思ったライアスは、今この場で戦って怒りを発散してもらうことにしたのだ。怒りを溜め込まれるのはよくない。


 それに、この状況で逃げ出すとやぶ蛇になるおそれがある。ベガは弱いものイジメが好きなので、下手に逃げると余計に刺激してしまうのだ。


 戦って、落ち着いてもらって。なんとかもう一度お話をする。話せば分かる、かは分からないが、少なくとも誤解は解かねばならない。


「……ふっ!」


 待ち構えるライアスに、ベガが再び襲いかかった。

 一息で踏み込むと両手を広げ、目にも止まらぬ早さで手刀を打ち込んでいく。凄まじい速度の連打である。


「うおおおっ……!?」


 ライアスはベガの猛攻を箒でさばく。

 少しずつ下がりながら箒を回し、柄や穂先で受け、逸らし、弾いていく。

 どうしても受けきれなくなったら腕で防ぐが、これがまぁ、だいぶ痛い。


 そして、手刀に混じって打ち込まれる貫手。これはさらに痛い。


「っ……!」


 肩で受けたライアスは思わず顔をしかめた。

 先の尖った大きなトンカチで殴られたみたい痛い。


 伸ばした四指を束ねて突く貫手であるが、尋常ではない指の力により刃物とかわらない硬さになっている。


『やはり、指先が危険ですね……』


 ウルスラは唸る。

 以前戦ったときもそうであったが、ベガの攻撃の大半は手首から先が使われるもので、中でも指先で攻撃してくるものには注意が必要だ。

 大噛付など、下手に喰らうと致命傷になりかねない。


「……ふーん」


 ベガは、大きく打ち付ける攻撃でライアスを押し飛ばすと、一旦距離を取った。

 このままだらだら打ち込んでも効果が薄いと考えたのだ。


「それなら、こっちにしようかしら」


 そういうとベガは、拳を握り込んだ。

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